GSOMIA破棄の衝撃
2016年に締結された日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は、東アジアにおける安全保障協力の象徴とされてきた。しかし、2019年8月、韓国政府は突如としてこの協定の破棄を通告し、日韓関係に激震が走った。軍事協定の破棄という決定は、単なる外交上の摩擦にとどまらず、地域の安全保障体制や米韓同盟関係にも波紋を広げた。
GSOMIAとは何か
GSOMIAとは、General Security of Military Information Agreementの略称であり、「軍事情報包括保護協定」を意味する協定である。
加盟国間で提供される軍事に関する秘密情報を適切に保護し、第三国への漏洩を防止するとともに、緊密な情報交換を促進する枠組みである。
日本と韓国は2016年11月23日に本協定を締結し、自動更新方式を採用していた。
破棄の直接的な引き金 ― ホワイト国除外
2019年7月、日本政府は半導体材料(フッ化ポリイミドなど)を含む輸出管理政策の見直しを実施し、韓国を「ホワイト国」(輸出優遇対象国)から除外した。
韓国政府はこの措置を「安全保障上の協力環境に重大な変化を招くもの」と判断し、8月22日、GSOMIAを更新しない決定を下した。これにより、翌23日に日本に破棄通告が行われ、自動更新の期限である11月23日に協定が失効する運びとなった。
破棄の背景にある国内要因や象徴的意味
- 国民感情の高まり
日本によるホワイト国除外や徴用工訴訟問題に関連し、韓国国内では反日感情が高まっていた。GSOMIA破棄はその象徴的な手段とみなされた。 - 象徴的・政治的意味合い
協定そのものの「実質的メリット」は限定的であり、TISA(日米韓防衛当局間取決め)も存在することから、破棄派はGSOMIAの維持に合理性は少ないとしていた。
一方で、協定を破棄することで日本のみならず、アメリカにも強いメッセージを送る意図もあったとされる。
日米韓との関係とその後の動き
破棄通告直後、米国は強く反発し、ポンペオ国務長官、国防総省、議会関係者らから「失望」との声が相次いだ。
特に、インド太平洋戦略における日米韓の連携を重視する米国にとって、韓国の動きは「地域の安全保障体制への打撃」と捉えられた。
日米韓の軍事連携を安全保障の基盤とする限り、GSOMIAの破棄は韓国政府にとって外交的にも軍事的にも明確な利点を欠いている。この決定は、東アジア地域の安定を不必要に損なうものであり、戦略的合理性に乏しいと言わざるを得ない。
背景には、韓国政府による日米韓連携の重要性に対する認識の希薄さがある。そしてその姿勢の背後には、中国の影響力拡大という地政学的現実が横たわっている。韓国政府が対中関係の強化を模索している意図が、GSOMIA破棄という行動を通じて透けて見える。
なお、協定失効までの「3か月の通告期間」は一定の猶予を与える制度設計であり、韓国が「いつでも破棄通告を取り消せる」余地を残した形にもなっている。
この出来事は、日米韓の安全保障協力体制が文在寅政権の下でいかに脆弱なものとなっているかを如実に示している。
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