拡声機騒音に関する条例を調べてみた

拡声機営業の許される国

 廃品回収車、竿竹屋、灯油の巡回販売、焼き芋屋。。。
 住宅街の中を拡声機を積んだトラックやワゴン車がウロウロと徐行運転しながら徘徊して廻る姿は、日本では見慣れた光景だ。

 日本では、どーゆうわけか、こうした騒音をまき散らした営業が許されている。
 私の住む地域でもこうした営業が頻繁に回ってくる。

 なぜ、こうした営業が許されるのか?

 まったく理解不能なので、東京都の条例を調べてみた。

東京都による騒音規制

 東京都の条例では、騒音規制に関してまず、一般的な基準として国の騒音規制法に従い「騒音に係る環境基準」を設けている。この条例によって、昼間で住宅地域55dB、商業地域および工業地域で60dBという原則を定めている。

参考
騒音に係る環境基準 – 東京都環境局

 しかし、この条例は、どういうわけか奇妙なことに、移動したり、一時的であったりする営業目的の拡声機の使用に関しては、規制の対象から除外している。そのため、拡声機の使用による営業に関しては、別途、異なる基準が都により定められている。

 それが、東京都の環境確保条例にある「商業宣伝を目的とする拡声機の使用に係る遵守事項」だ。

 この条例は、拡声機を使って営業を行う際、業者が従わなくてはならない規制項目を定めている。逆に言えば、この条例では、順守項目を守りさえすれば、拡声機を使用した営業行為は自由だということになる。
 たとえば、この条例では、低層住宅地域での拡声機使用規制に関して「遵守事項を守って自動車による等移動して拡声機を使用する場合を除く」と規定する。なぜ、住宅地であっても、車で移動すれば、問題ないとされるのか、全く理解できない。

参考
拡声器に対する規制 – 東京都環境局

 結局、騒音規制を設けても、それに対してさまざまな除外規定や例外規定を追加し、当初の騒音規制の目的をまったく無意味なものにしてしまっている。法的規制の内実を蔑ろにする条例だといっていい。

 騒音規制という本来、住民の生活を守るための条例が、企業側の要望を十分に反映させた形に歪められているのだ。
 この条例は、拡声機による営業行為を行政および議会が、実質的に公認しているに等しく、そこには拡声機による営業行為そのものが問題だという認識は全くない。

 だが、本当の問題は、実際の運用の段階で起きている。
 一端、このような非常識な営業方法を認めてしまうと、後から遵守事項違反の取締りを実施しようとしても、実質的な取り締まりは非常に困難だからだ。
 実際、業者による拡声機の使用状況は、殆ど(というよりはほぼ全て)の企業が遵守事項に従っていない。企業が実際に拡声機を使用し、住宅地域を巡回する際は、規制値以上の音量を流し、使用禁止区域を巡回している。
 音量の数値を細かく測って、取り締まることは実質的に難しいため、規制値基準は全くといっていいほど役に立っていない。罰則規定もないため、このような遵守項目は、すぐに有名無実化してしまう。
 原則的に拡声機使用を一度でも認めてしまうことが、このような騒音公害を発生させ、助長させているのだ。

 区政においても都の制定している「騒音に係る環境基準」に準じるだけで、拡声機使用による騒音を規制するための独自の条例を設けているところは全くない。現在、東京都では、どの区においても、行政も議会も拡声機の使用による騒音に関して一切、対策を行っていないというのが実情だ。(これは日本全国で同じ状況だろう。)

拡声機騒音を野放しにする議会と行政

 公共の場における騒音に対して非常に寛容な(あるいは鈍感とも言う)現状に対して誰もおかしいと思わないのだろうか。

 行政は、本来、地域の公共性を向上させるよう企業に対して監督責任がある。だが、今の日本の行政は、そのような責任を放棄しているように見える。住民の要望よりも常に企業側の意向を優先させ、地域の公共性を蔑ろにしている。それは、行政が経済発展ということ以上に重視しなくてはならない地域的、公共的価値というものを戦後ずっと見失ってきたからではないだろうか。

 条例を整備するはずの議会もまた企業票、組織票のみに依存する議員たちの選挙体質のために、企業を監視、監督しようとする政治文化が育たない。そのため地域の公共性を確保、育成するための条例は、いつも成立が遅れているか、あるいは全く無視されている。住民の求める地域の公共性よりも企業の求める利益を最優先するの議会の姿は、衆愚政治そのものだ。

 市民が声を発さなければ、議会も行政も動かない。
 この騒音大国の現状に少しでもおかしいと感じたならば、積極的に声を上げていくべきだ。方法はいくらでもある。
 市区町村に問い合わせる。議員にメールを送る。ブログで訴える。SNSでつぶやくのだって、立派に意見表明のひとつだ。最近では、online署名という方法もある。
 小さな行為も積み重なれば、きっと状況を改善できるはずだ。