マネタリズム(Monetarism)とは?
マネタリズムとは、経済全体の総需要(有効需要)を決定する最も重要な要因は貨幣供給量であるとする経済理論である。この理論においては、中央銀行による貨幣の供給量や流動性の調整(金融政策)によって、物価の安定や景気のコントロールが可能であると考えられている。代表的な提唱者は、アメリカの経済学者ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)である。
では、なぜ貨幣供給量が総需要や物価に影響を及ぼすのか。それを理解するためには、貨幣の価値と物価との関係を考察する必要がある。
消費者物価と貨幣の価値
消費者物価とは、標準的な消費者がある期間に支出する生活費の水準を指す。日本では、総務省が定期的に統計を取りまとめている。生活費に含まれる主な項目は、食品、エネルギー(電気・ガス・ガソリンなど)、衣料、住宅、教育、娯楽などの消費支出である。
消費者物価指数(CPI: Consumer Price Index)とは、これらの消費者物価の平均的な変動を指数化したものである。特定の年・月の物価水準を100とし、それと比較して物価がどの程度変動したかを示す。CPIそのものよりも変化率(前年比や前月比)に注目することが重要であり、これによって物価の上昇傾向(インフレーション)か、物価の下落傾向(デフレーション)かを把握することができる。CPIは一国のインフレ率を把握するうえで最も基本的かつ重要な指標である。
では、インフレやデフレが進行しているとき、貨幣の価値はどのように変化するのか。
貨幣の実質価値とは、その貨幣で購入できるモノやサービスの量を意味する。したがって、物価が上昇すれば貨幣で買えるモノの量が減少するため、貨幣の実質価値は低下する。反対に、物価が下落すれば同じ金額で多くのモノが購入できるため、貨幣の価値は上昇する。
このように、貨幣の実質価値は物価に反比例する。つまり、消費者物価が上昇すれば貨幣価値は下がり、消費者物価が下がれば貨幣価値は上がるという関係にある。言い換えれば、現金の実質価値は消費者物価の逆数であるとも表現できる。
貨幣供給量と物価
貨幣の価値も、モノと同じように需給関係によって決定される。すなわち、貨幣の供給が需要を上回る場合は貨幣価値が下落し、反対に供給が需要を下回る場合は貨幣価値が上昇する。
先述の通り、貨幣の実質価値は物価の逆数であるため、貨幣の供給量が過剰になって貨幣の実質価値が下がれば、物価は上昇する。逆に、貨幣の供給が不足して貨幣の実質価値が上昇すれば、物価は下落することになる。
すなわち:
- 貨幣供給量が増加すると、貨幣の価値は低下し、物価は上昇する(インフレ)。
- 貨幣需要が増加すると、貨幣の価値は上昇し、物価は下落する(デフレ)。
このように、貨幣供給量の変化によって物価が変動することから、中央銀行が貨幣供給を管理することで、物価の安定を図ることができるというのがマネタリズムの基本的立場である。
フリードマンの言葉を借りれば、「インフレーションは常に、どこでも、貨幣的現象である」ということになる。すなわち、インフレもデフレも、根本的には貨幣供給と貨幣需要のバランスによって生じる現象であるという考え方に基づいている。
補足
- マネタリズムは1970年代以降、ケインズ主義に対する批判として台頭した経済理論であり、特にインフレ抑制政策としての金融政策の有効性を主張する点が特徴。
- 実際の経済政策では、貨幣供給量のみで物価を完全にコントロールできるわけではないため、今日では「厳格なマネタリズム」はやや後退しているものの、その理論的枠組みは現在の中央銀行政策の基礎の一部をなしている。
参考
岩田規久男『デフレと超円高』(2011)
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