インフレ政策目標(インフレターゲット / Inflation Targeting)とは、政府や中央銀行が金融政策によって通貨供給量や市場の流動性を調整し、物価上昇率(インフレ率)をおおむね2%前後の範囲に維持することで、安定的かつ緩やかなインフレを実現しようとするマクロ経済政策の一つである。これは、中央銀行の独立性を前提としつつも、政策目標を明示することで市場との対話を重視する枠組みである。
インフレターゲットには以下のような特徴がある。
- 数値目標の設定
中央銀行は金融政策の主要な目的を「インフレ目標の達成・維持」とし、目指すべきインフレ率を具体的な数値で明示する。一般的には前年比2%程度が目標とされることが多い。 - 達成期間の明確化
インフレ目標の達成時期は中期的に設定され、通常は1年半から2年程度が目安とされる。これにより、政策の透明性と予測可能性が高まる。 - 目標設定は政府、手段は中央銀行
インフレ率の数値目標は政府が設定し、その目標を実現するための具体的な金融政策手段(例:政策金利の調整、資産買い入れなど)は中央銀行の裁量に委ねられる。この分担により、民主的正統性と政策の専門性の両立が図られる。 - 説明責任(アカウンタビリティ)
目標が達成できなかった場合、中央銀行はその理由を国民に対して説明する責任を負う。これにより、中央銀行の政策運営に対する信頼性と透明性が確保される。 - 動学的整合性
一度設定された目標は、政策実施後に恣意的に変更されるべきではない。目標を維持することにより、経済主体の信頼と予測可能性が確保される。
インフレターゲット政策において特に重要なのは、国民の間にインフレ期待(将来の物価上昇に対する予想)を形成することである。インフレ率に明確な数値目標を定めることの本質的な目的は、その数値自体の達成というよりも、それを通じて市場の期待を安定させることにある。日銀などの中央銀行が物価水準の安定を明確に保証することで、個人・家計・企業などの経済主体は将来の景気動向をより予測しやすくなり、その結果として投資や消費活動が促進され、持続的な経済成長につながると期待されている。
参考
岩田規久男『デフレと超円高』(2011)
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