成功のために学ぶ反面教師 – 畑村洋太郎『決定版 失敗学の法則』

読書案内

畑村洋太郎『決定版 失敗学の法則』(2002)

組織論・経営論で欠けている失敗の知識化

 2002年の本。
 著者は機械工学の専門家。

 機械を設計する上では、実証実験による知識は欠かせない。
 一つの機械が完成するまでには、実際に組み立てて、試行錯誤(trial and error)を繰り返しながら、正常に作動する要件を見つけ出していく作業が必要だ。そして、その過程で、失敗した原因を究明し、それを知識として蓄積する。そうして得た知識をもとに、設計を改良していく。
 こういった作業は、機械設計の際には、当たり前のようにして行われている。でなければ、そもそもまともな製品は作れない。

 機械工学の分野では、当然のように行われている「失敗の知識化」という作業が、なぜか日本の組織運営や経営の分野では、全くといっていいほど行われていない。
 機械工学の専門家で、理系的な観点からすると、こうした日本の組織文化は非常に奇妙なものに映ったのかもしれない。

 著者は、機械工学で得た「失敗の知識化」という作業を機械設計の分野にだけではなく、さまざまな分野に応用できるように一般化して紹介している。特に、組織論、経営論に応用できるようにまとめいる。
 これは、機械工学の専門書としてまとめた著作が、経営者からの反響が多かったためらしい。失敗の知識化という作業が、最も欠けていて、なおかつ、それを最も必要としていたのが、まさに経営者だったのかもしれない。

失敗学とは?

 著者は、「失敗学」を提唱している。「失敗の知識化」を一般的な方法論としてまとめようという試みだ。

 要点をかいつまんでみると。。。

・「結果」から「要因」と「からくり」を推測する。(逆演算)
・要因、からくり、結果への流れを失敗の脈略として一般化し、今後、起こりうる失敗の予測に役立てる。(一般化)
・致命的失敗が起きるのは多様な要因が重なり合った場合で、その確率は極めて低くい。だが、その背後には、失敗として顕在化しなかった事象が、何百、何千倍と存在している。その顕在化しなかった失敗に着目する必要がある。(確率論)
・失敗は、知識化されなければ、拡大再生産される。(認識・認知)

 こんなところだろうか。

 しかし、これを実際に組織論、経営論に生かそうとすると、途端にさまざまな困難にぶつかる。それは、失敗の要因が「人間」であるからだ。

日本の組織文化を変えるために

 生身の人間を扱おうとすると、それは、機械のようにはいかなくなる。それが失敗に関する知識化が、組織や経営の分野で進まなかった最大の要因だろう。

 こういったことを避けるためには、人間の「行為」を「人格」から明確に分けて考えておく必要がある。「行為」の結果だけを純粋に問うことで、失敗を客観的に考察する視点が生まれてくる。責任も「行為」に対してのみ帰せられるべきだ。

 しかし、日本の組織文化には、こうした視点がややもすれば、失われていく。失敗が起こった際、「行為」が「人格」と結びついて、感情論に基づいた責任追及に流されていく。

 日本の組織文化の特徴としてあげられるものとは。。。

・失敗が発覚した時、それが起きた構造的な要因を解明せずに、担当者の過失として処理、判断してしまう。
・失敗に関する情報の開示が行われず、むしろ隠蔽される。
・組織の上層部に責任が及ぶことを避ける。
・失敗の究明よりも、道義的、刑事的な責任追及の方に関心が集まる。

 こうした特徴は、組織防衛の結果として生まれてきたものだ。しかし、このような態度は、長期的に見れば組織そのものの衰退を招くことになる。「失敗の知識化」が行われず、結果として、再発防止のための調査、分析が進まないからだ。
 いずれ取り返しのつかない大きな失敗を起こし、組織の存続そのものを危機にさらすことになりかねない。そして、同じ失敗が何度も繰り返されていく。。。

 「失敗学」は、こうした日本の組織文化を変えるためにこそ必要なものだ。
著者は、日本の組織の在り方を改めるために、司法取引のような制度を取り入れるなど、いくつかの提案を行っている。そのほかにも非常に具体的な事例に沿った提案が多い。読者は、それぞれの現場で応用できそうな方法を本書から見つけていけそうだ。

 組織を失敗から守るためにこそ、「失敗学」が必要であって、それがほんと組織防衛につながるはずだ。組織に対する考え方を転換するためにも、本書の提案は非常に有益なものだと思う。

畑村洋太郎『起業と倒産の失敗学』(2003)

企業倒産の事例集

 成功に法則はないが、失敗には法則がある―――

 この言葉通り、企業が破綻した事例から失敗の要因を明らかにしようと試みた本。前作『決定版 失敗学の法則』の応用編といった内容。原著は2003年の刊行なので、2000年前後の破綻事例が紹介されている。

 企業破綻にもさまざまな類型があり、その要因もさまざまだが、本書はそのなかでも優良成長企業が急成長後に破綻した事例に焦点を当ていて、各章で一社ずつ紹介している。
 破綻に陥る企業はその要因はさまざまだが、どれも似たような過程をたどっており、失敗にはある程度の法則性が見られると著者は述べている。ただ、事例があくまで急成長後に破綻したものだけを取り上げていて、選択に若干、恣意的な部分も感じる。
 なので体系的な学問と呼ぶには、まだ無理があるが、それでも紹介されている事例はどれも非常に興味深いもので、参考になる。

失敗する経営者の共通点

 本書で紹介された事例を見ていくと、経営者が陥りやすい失敗というのは、需要に対して供給が追いつかないという局面で起こりやすいのだなというのを非常に強く感じた。
 せっかく需要が伸びて売り上げが急増しているときに、その需要に応えられないというのは経営者にとって一番あせりを感じるのかもしれない。せっかくの客を逃している、という機会損失へのあせりが経営者の冷静な判断を狂わせてしまう。ここにどうしても経営者の欲が出てしまうのだろう。需要の読みを誤って無謀な拡大をして、失敗する。

 やっぱり失敗から学べることは多い。前作の『失敗学の法則』は、失敗に関する知識を一般化しようとした著作だとすれば、今回はその応用編だ。前作ほど体系化されているわけではないが、事例集としては非常に良くまとめられていて分かりやすく、読んでいて非常に興味深い本だった。