アル・ゴア『不都合な真実』
Al Gore, An Inconvenient Truth, 2006
停滞化する気候変動対策
2006年、アメリカの元副大統領アル・ゴアが制作、出演したドキュメンタリー映画『不都合な真実』が公開されてから20年近くが経とうしている。
しかし、この間、地球温暖化対策は進んだのだろうか。アメリカのトランプ政権成立やEU諸国の右派政党の台頭など、環境対策に批判的な論調が目立ち始めていて、時代はむしろ逆行しているように見える。
1997年に採択された京都議定書により、温暖化対策は国際的な共通課題となった。しかし、CO₂排出規制の対象となる産業界からは激しい反発が起こり、90年代後半頃から、地球温暖化を否定するための対抗理論が次々に登場することになる。
たとえば、太陽黒点運動11年周期説、氷河期到来説などが挙げられる。
こうした議論により百家争鳴状態がしばらく続いたが、30年近くの議論の末、さまざまに湧いて出た反地球温暖化説は、どれも説得力を得ないまま消え去ろうとしている。反地球温暖化論は、どれも科学的な調査として始まったものではない。政治的な意図から主張されたもので、科学的調査はそのための後付けに過ぎなかった。
実際、この30年間、太陽黒点活動の周期と地球温暖化との関連性は示されておらず、氷河期の到来も見られない。唯一、一貫して観測されているのは、大気中のCO₂濃度の上昇と、それに伴う気候変動である。気候変動は紛れもない事実であり、CO₂濃度の上昇に伴って気温は上昇し続けている。
予告されていた未来
映画『不都合な真実』が公開された当時、地球温暖化に対する科学的根拠が提示されても、多くの人々にとっては実感が湧きにくかった。しかし、現在では気候変動の影響を世界中で実感できるようになっている。
例えば、2012年にアメリカ東海岸を襲ったハリケーン・サンディは、ニューヨーク市に広範な浸水をもたらし、大規模停電をもたらした。米国史上最大の都市災害となった。ゴアが映画で警告したシナリオが現実のものとなった一例だった。
また、2015年、パキスタン最大都市のカラチでは、45度に達する猛暑で病人や高齢者ら少なくとも1300人が死亡した。
これらの事例は、気候変動の影響が既に深刻な段階に達していることを示している。
『不都合な真実』は書籍化もされており、改めて読むことでこの20年間の変化を明確に理解できる。科学的な根拠に基づいて議論された内容は、その未来予測の精度において他の主張と一線を画している。
温暖化によって土壌の水分が大気に奪われ、砂漠化や山火事が多発する。海流の温度上昇により、台風やハリケーン、サイクロンなどの熱帯低気圧が勢力を増し、甚大な被害をもたらす。。。
これらは現在、世界各地で現実に起きている事象である。
『不都合な真実』は20年近くの時を経て、より説得力を増している。地球温暖化がいかに科学的な根拠のある議論であるかを示す証左だと言える。科学的に正しい議論というのは「時間」という審査に耐え抜くものだ。『不都合な真実』は今こそ見直してみるべき作品だと思う。
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