急拡大するアマゾンの森林火災
2019年1月以降、南米アマゾン熱帯雨林で大規模な森林火災が急増している。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)の発表によれば、同年1月から8月の間に観測された火災件数は7万5千件を超え、前年同期比で約80%も増加したという。
現在、火災は、ブラジル北部を中心に、アマゾン川流域に沿って、ボリビア、ペルー、パラグアイ、エクアドル、ウルグアイ、アルゼンチン、コロンビアと拡大を続け、国を超えて南米全体に広がった。
NASAは8月23日、火災を捉えた衛星画像を公開している。火災が南米全体に亘っていることが分かる。

(出典: NASA Earth Observatory)

(出典: NASA Earth Observatory)
衛星画像には広大な森から立ち上る煙が映し出され、その影響で遠く離れたサンパウロの空すら昼間に暗くなるほどであった。
アマゾンでは、7月から10月が乾季にあたり、毎年火災発生件数の多い時期で、今後さらに拡大すると懸念されている。
この火災は単なる自然災害ではない。その背景には、人為的な構造と政治経済の思惑が存在している。
アマゾン熱帯雨林の地球環境における役割
アマゾン熱帯雨林は、およそ550万平方キロメートルの面積を持ち、南米9カ国にまたがって広がっている。その約60%がブラジル国内に位置する。この森は、地球の酸素供給の6〜20%を担い、また大量の二酸化炭素を吸収する役割を果たしており、気候変動の緩和にとって極めて重要な存在である。
さらにアマゾンは地球上の生物種の10%以上が生息するとされる生物多様性の宝庫でもある。そこに生きる植物や動物だけでなく、先住民族の生活基盤としても重要な意味を持っている。
火災の主な原因は「人災」である
2019年の火災は、落雷や自然発火といった自然現象によるものではない。主な原因は人間の手によるものであり、特に森林伐採後の意図的な焼き払い(火入れ)によるものが多かった。
ブラジルでは、農業や牧畜のための土地を確保する手段として、森を伐採した後にその土地を焼くという「焼畑」の手法が長年行われてきた。これ自体は伝統的な技術であるが、近年では企業による大規模な農地開発や違法伐採と結びつき、その規模と頻度が増している。2019年には、農業関係者が火入れを一斉に行う「火の日(Dia do Fogo)」と呼ばれる日まで設定され、組織的な森林焼失が行われたという報道もあった。
背景にある政治と政策の変化
この火災の拡大には、当時のブラジル大統領ジャイル・ボルソナロの政策が大きく影響している。彼の政権は環境保護よりも経済成長を優先し、農業や鉱業によるアマゾン開発を促進する政策を推進していた。
これにより、違法伐採を監視・取り締まる連邦環境保護機関(IBAMA)やFUNAI(先住民族保護機関)などの予算は削減され、規制の実効力は著しく低下した。現場では違法な火入れや伐採が見過ごされ、事実上黙認される状況が生まれていた。
国際社会の反発と分断
この火災をめぐっては国際的な批判も高まり、特にフランスのエマニュエル・マクロン大統領が「国際的な危機である」と表明し、G7サミットでの議題にも取り上げられた。ドイツやノルウェーなどもアマゾン保護のために拠出していた支援金を停止した。
しかしブラジル政府はこれを「主権への干渉」として強く反発し、外交的な摩擦が生じた。ボルソナロ大統領は「アマゾンの開発はブラジルの内政問題であり、外部から干渉されるべきではない」との立場を強く主張した。
この対立構造は、環境保護をめぐる国際協力の難しさを象徴する事例となった。
アマゾンは「世界の問題」である
この火災により、多くの動植物が生息地を失い、生態系に深刻なダメージが与えられている。また、煙による健康被害や先住民の生活環境への影響も報告されている。
アマゾンの破壊は、地域の問題にとどまらず、地球全体の気候安定性に影響を与える「グローバル・リスク」だ。
アマゾンの森林火災は単なる環境問題ではなく、政治、経済、文化、そして国際関係をも巻き込む複合的な問題である。気候変動対策においても、アマゾンの保全は避けて通れない課題である。
今後はブラジル国内だけでなく、国際社会全体が責任を持ち、持続可能な開発と環境保護を両立させる枠組みを築くことが求められている。アマゾンの未来は、地球の未来と直結している。
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