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ソニー、純利益1兆円超えの舞台裏——ゲームとIP戦略が導いた企業変革の成果

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ソニー 2021年3月期決算

連結決算(米国会計基準)

2021年3月期前年同期比
売上高8兆9993億6000万円9.0%増
営業利益9718億6500万円15.0%増
最終利益1兆1717億7600万円101.3%増

 金融を除く国内事業会社で純利益が1兆円を記録したのは、トヨタ自動車、ソフトバンクグループなどに続き5社目。

背景:IP戦略と組織改革

  • 電機メーカーとしての技術力を活かしつつ、コンテンツ重視へ戦略転換。モノから感動へ、収益モデルの質転換を推進。
  • 2021年にはグループ本社と電機事業を分社化。エレクトロニクス部門の人員整理も実施、全体の効率化を図る経営体制に再編。

ソニー純利益1兆円越えの大復活

 ソニーは2021年3月期決算において、連結純利益1兆1,717億円を計上し、初めて純利益で1兆円の大台を突破した。この数字は前期比で約2倍に達し、戦後の日本の製造業においても極めて稀な成果といえる。かつて業績不振に陥り、再建を迫られていた同社にとって、まさに歴史的な転換点となった。

 1990年代後半以降、長らく業績不振に苦しんできた同社が、いかにしてこれほどの回復を果たしたのか。その背景には、エレクトロニクス中心だった収益構造を抜本的に見直し、ゲーム・映像・音楽といったコンテンツ事業を強化する経営戦略の転換があった。特に、知的財産(IP)の獲得と活用を軸としたビジネスモデルへの移行が、収益の柱を形成するに至った点は注目に値する。

 まず、業績を牽引したのが、ゲーム&ネットワークサービス事業である。
 2020年11月に発売された新型家庭用ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」は、深刻な供給不足に直面しながらも、発売からわずか数か月で世界累計780万台を出荷し、過去の機種を上回る立ち上がりを見せた。PS5向けのゲームソフト売上に加え、定額制のネットワークサービス「PlayStation Plus」の加入者数も順調に増加。ゲーム関連事業全体として売上と利益を大幅に押し上げた。
 新型コロナウイルスの世界的な流行により外出が制限される中、「巣ごもり需要」が高まり、家庭用エンターテインメントへのニーズが追い風となったことも、業績に大きく寄与した。

 加えて、映画やアニメといった映像コンテンツ分野でも、象徴的な成功を収めている。特に注目されたのは、子会社アニプレックスが製作・配給を手がけた劇場版アニメ『鬼滅の刃 無限列車編』の世界的ヒットである。同作は日本国内で歴代興行収入1位を記録し、海外市場でも大きな収益をもたらした。
 こうしたIP(知的財産)を軸にした戦略は、映画、アニメ、音楽、ゲームといった複数のメディアを横断して展開できる強みを発揮した。これは、「感動を創造し、提供し続ける」という同社の企業理念とも一致する高い成果といえる。

 さらに、こうした主力事業を下支えしたのが、イメージセンサーと金融という2つの安定収益源である。イメージセンサー事業では、スマートフォン市場の回復や、中国メーカーへの輸出再開を受けて業績が持ち直し、高い利益率を維持した。AI搭載型センサーなど、次世代技術の開発も進められており、将来の成長分野としての期待も大きい。一方で、ソニー生命を中核とする金融事業では、低金利環境にもかかわらず、資産運用の好調さが利益の押し上げ要因となった。株式市場の回復や債券運用の工夫などにより、着実に収益を積み上げている。

組織改革と収益構造の質的転換

 このように、2021年3月期の好業績は、単一事業の成功ではなく、ゲーム、映像、音楽、イメージセンサー、金融といった複数の事業が、それぞれの市場環境に適応しながら収益を生み出した結果である。ソニーは、収益の多角化とIPを軸とした戦略的統合により、かつての“電機メーカー”の枠を超えた、総合エンターテインメント企業へと進化を遂げたと言えるだろう。

 これは、平井一夫元社長の時代から続く「選択と集中」の経営改革が、吉田憲一郎社長の下で結実した結果ともいえる。エレクトロニクス事業に依存していた従来の構造を抜け出し、各事業が独立採算で稼げる体制を構築したことが、1兆円という歴史的な利益を生んだ要因となった。

 2021年のソニーは、単なる業績回復を超えて、企業としての存在意義を再定義した年であった。技術と知的財産を軸に据えた新たな成長モデルが、日本企業の新しい可能性を示すひとつの例としても注目されている。

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