日々投げ込まれる大量のチラシ
自宅の郵便受けに、毎日のように大量のチラシが投げ込まれていく——。
これを「迷惑だ」と感じたことのある人は、決して少なくないはずです。
実際、重要な郵便物がチラシに埋もれて見落とされたり、うっかりチラシと一緒に捨ててしまったりという事態も起こり得ます。
にもかかわらず、この迷惑行為は社会的に問題視されることもなく、今なお放置されています。多くの人が不快に感じていながら、ほとんど誰も声を上げない。
果たして、それで本当に良いのでしょうか。
では、この「不要なチラシの大量投函」をどうすればなくせるのか。今回は、その具体的な方法について考えてみたいと思います。
法律や条例を作るという発想
前回の記事では、ポスティングが「住居侵入罪」に該当する可能性があることを説明しました。しかし、たとえ法的に違法であったとしても、現実には取り締まりや摘発が難しいというのが実情です。
最大の理由は、ポスティング行為そのものを明確に規制する法律や条例が存在しないことです。住居侵入や迷惑防止条例など、間接的に適用できる法律はありますが、ポスティングそのものを明確に禁じる規定はないため、業者は実質的にやりたい放題の状態です。
では、どうすればいいのか。
——答えは明快です。「規制がないなら、作ればいい」のです。
法律や条例は誰が作るのか
「法律を作るなんて無理に決まってる」と思う人もいるかもしれません。しかし、それは誤解です。多くの日本人は、「国民が法の流れを変える存在である」という意識があまりにも希薄です。
法律や条例は議員が制定しますが、その議員は国民の選挙によって選ばれた「代理人」にすぎません。つまり、議員は国民の意思を代弁する存在であり、特権階級ではないのです。
したがって、私たちは「議員に任せっきり」ではなく、必要に応じて議員に意見を届け、行動を促す責任があるのです。
陳情はもっと身近な行動でできる
「陳情」と聞くと、役所に出向いて要望書を提出するといった、大げさな手続きのように感じるかもしれません。しかし、現代はネット社会です。議員の多くがウェブサイトやSNSを運営しており、メールやコメントで気軽に意見を伝えることができます。
たとえば、地元の市区町村議員のTwitterをフォローして、「ポスティングを規制する条例を検討してほしい」と一言送るだけでも、それは立派な市民活動=アンガージュマン(公共的な関与)なのです。
同様の意見が複数寄せられるようになれば、議員も無視できなくなります。
それでも反応しない議員であれば、次の選挙でその意思を示せばいいのです。
法律ではなく、まずは条例から
もちろん、国の法律を変えるには膨大な時間と労力、そして組織的な働きかけが必要です。ポスティングのような比較的小規模な生活課題であれば、地方議会で条例として扱うほうが現実的です。
市区町村ごとに「ポスティング規制条例」が整備されれば、地域から段階的に迷惑行為の抑止につながる可能性があります。
条例制定を実現するために:市民ができる具体的な行動
ポスティング規制を現実のものとするためには、「条例」という形で地域レベルのルールを作っていくことが、最も現実的かつ効果的なアプローチです。その実現には、個人の意見表明だけでなく、もう一歩踏み込んだ市民の行動が求められます。以下では、その具体的な方法を紹介します。
1. 条例案の具体的な提案をつくる
市区町村議会に対して意見を届ける際には、単なる「反対」「やめてほしい」という声よりも、具体的な内容を伴った提案の方が採用されやすくなります。
たとえば、以下のような条例内容の提案が考えられます:
- 目的別による規制の導入(商業用のみを禁止、その他自治体の広報や選挙活動等を例外とするなど)
- チラシの無断投函を禁止する区域を明示できる制度の整備
- 『投函禁止』と明示されたポストに配布した場合の罰則規定
- 特定の場所に一括掲示するチラシ配布代替制度の導入
こうした提案は、自治体の迷惑防止条例や環境美化条例と連携させて整備することも可能です。
2. 署名活動を行う
条例制定の要望を政治的に後押しするには、住民の署名を集めることが非常に効果的です。数が多ければ多いほど、議員や行政に対する説得力が増します。
署名活動は次のような形で行うことができます:
- オンライン署名サイト(例:Change.orgなど)を活用
- 商店街や駅前などでの街頭署名活動
- 地域の掲示板やSNSを通じての周知と協力依頼
特にオンライン署名は、コストや手間が少なく、広範囲の人々に呼びかけができるため、初めての人でも取り組みやすい方法です。
3. 地域団体・自治会との連携
個人の意見は限られた影響力しか持ちませんが、自治会・町内会・防犯協会・PTA・マンション管理組合などの地域団体と連携することで、発言力を大きく高めることができます。
地域団体には次のような利点があります:
- 議会や行政に対する陳情ルートを既に持っている
- 署名集めや周知活動におけるネットワークが広い
- 実際に被害を受けている住民の声を、組織として届けられる
たとえば、自治会から市議会への陳情書が提出されれば、それだけで議題に上がる可能性が高まります。さらに、複数の団体が連携して要望を出すことができれば、議会としても無視できない動きとなるのです。
4. 小さな行動が条例につながる
条例は、突如として上から降ってくるものではありません。地域住民の声の積み重ねが、やがて制度として形になるのです。
意見を届ける、署名に協力する、団体に働きかける。どれも一人ひとりができる、小さな行動です。しかし、その一歩がなければ、何も変わりません。
「どうせ変わらない」とあきらめるのではなく、「変えることができる」と信じて行動することこそが、私たち市民に求められている姿勢ではないでしょうか。
意見を表明することは国民の権利
「議員に直接意見を送るなんて気が引ける」と思う人もいるかもしれませんが、それは本来あるべき姿ではありません。
意見を述べることは、国民の正当な権利であり、民主主義の根幹をなす行動です。誰かが動くのを待つのではなく、自分が一歩を踏み出すことによって、社会のあり方は少しずつ変えていくことができるのです。
企業の責任を問うという選択肢
議員に陳情して条例を制定する——これは正攻法であり、効果的な手段です。しかし、実際に条例が成立するまでには相応の時間がかかり、成立そのものも確約されているわけではありません。
そこで、もう一つ現実的な対策として挙げられるのが、ポスティングの広告主である企業に対して、直接声を上げることです。
私自身、チラシを投函してきた企業の商品やサービスは、意図的に一切利用しないようにしています。言うなれば、「不買による意思表示」です。
広告は企業のアキレス腱になる
企業がチラシを配るのは、そこに広告効果があると信じているからです。しかし、もしチラシ配布が逆に企業イメージを損ない、苦情や不買運動を引き起こすと分かれば、自ずとその手法は見直されるはずです。
現代はSNSの時代。たった一つの不適切な広告表現が炎上し、企業が謝罪に追い込まれる事例は枚挙にいとまがありません。情報が一瞬で拡散する今、企業の広告は常に「リスク」と隣り合わせです。
大量のチラシを一方的に送りつけるという時代遅れの宣伝手法が、果たして現代にふさわしいのか。企業は今一度、そこを真剣に考えるべきでしょう。
チラシの非効率と環境負荷
そもそも、紙のチラシを配布しても、そのほとんどは目を通されることもなく、ただゴミとして処分されるだけです。
私の住むアパートの共用スペースには、チラシ専用のゴミ箱が設置されています。あまりにも量が多いため、ほとんどのチラシはそのまま捨てられています。資源ごみに出されているのか気になり、管理人に尋ねたところ、実際には可燃ごみとして処分されているとのことでした。
理由は明快で、「分別が困難」「量が多すぎる」という点に尽きます。ビニールで包まれたもの、マグネット広告などが混在しているため、リサイクルも困難なのです。
中でも特に目立つのが、水漏れ修理業者などのマグネット広告。ポストに貼り付けられ、目立つこともなく、ただひたすら邪魔な存在です。
これらのチラシは、生活者の利便性を無視した企業側の一方的な営利活動に他なりません。
生活環境の改善を目指して
企業が利益を追求するのは当然のことですが、その手段が他者の生活環境を損ねるものであってはなりません。私たち市民が、企業の一方的な行為によって不快な思いをしたり、不利益を被ったりする必要はないのです。
たとえ法制度が不十分であっても、また一人の声が小さくても、あきらめる理由にはなりません。幸いなことに、日本は民主主義国家です。声を上げ、行動を起こす自由があります。
一人ひとりの小さな行動が、やがて社会を動かす力になる。
それを信じて、私たちは「迷惑なチラシのない生活環境」を目指し、これからも声を上げ続けていくべきではないでしょうか。
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