ギャンブル大国ニッポン – 若宮健『パチンコに日本人は20年で540兆円使った』(2012)

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若宮健『パチンコに日本人は20年で540兆円使った』(2012)

 2012年刊行。
 著者は、日本のメディアが一切、報道しなかった韓国でのパチンコ全廃をいち早く取材し、著書としてまとめた若宮氏。本書では、パチンコをめぐる日本の現状を解説している。

世界最大のギャンブル大国日本

 マカオでのカジノ業界の売り上げは、2010年度、1兆8834億円。ラスベガスを抜いて世界一の売上高だ。
 だが、同じ2010年度の日本のパチンコ産業の売上高は、19兆3800億円。なんと世界一のカジノ市場の10倍になる。そしてパチンコ人口は、1670万人(2010年度)。これほど巨大なギャンブル市場は世界にまったく例を見ない。

 だが、全く不可解なことに、日本人はこれをカジノともギャンブルとも呼ばない。パチンコはただの遊戯として分類されている。そのため多くの日本人が日本が世界一のギャンブル大国であることを自覚していない。
 パチンコは明らかにギャンブルであり、したがって、日本は世界最大のギャンブル大国だ。(実際は、さらにこれに競馬、競輪などの公営ギャンブルが加わるのでより巨大な市場だ。)

 19兆という数字にも驚かされるが、これでも減った方で、最高の売上高は95年の30兆9020億円。当時のパチンコ参加人口も3000万人とも言われた。以降、減少傾向にあるが、それでも20兆近い市場規模を維持している。
 本書の題である「20年で540兆」という数字は、桁が大きすぎてまったく実感が湧かないが、これだけの巨大な金額がなんの建設性もない遊興費として消えていったと考えると、その社会的な損失は確かに大きいだろう。健全な投資に回っていれば、今頃新しい産業の一つや二つ生まれていたかもしれない。

 お金というものは使いようだ。ただの消費に使えば、その時点でのGDPに反映されておしまいだが、投資にまわして、新たな技術やサービスを生み出せばそこから新たな市場が生まれて、さらに経済は拡大する。
 著者の言うデフレの原因としてのパチンコというのも強ち無理な議論ではないかもしれない。デフレはマネタリーな現象だから金融政策次第だが、少なくとも日本で新しい産業が生まれにくいことや、日本人の余暇の過ごし方が極めて貧相である原因の一つは、パチンコだろう。

パチンコをめぐる政官財の癒着構造

 本書では他にもパチンコの問題点を丁寧に解説している。パチンコに関する被害や害悪については、日本のメディアではまったく報道されることがないので、極めて貴重な情報だ。(日本のメディアがいかにパチンコ産業に依存し、癒着しているかが良く分かる。)特に3章は必読だ。この章だけでも多くの人に読んでもらいたい。
 この章を読むと、パチンコの問題が三店方式と警察との癒着だけにあるのではないことが良く分かる。三店方式や警察との癒着に関する問題は一般にも広く知られていることだが、パチンコに関する問題はそれだけではなく、パチンコ産業にかかわるさまざまな財団法人、公益法人が設立されていて、それが官僚や政治家への癒着につながっている。
 パチンコ産業を監督するために、多数存在しているのこれらの財団法人、公益法人というのは、今までは、主に警察官僚の天下り先となっていた。だが、近年設立される社団法人などは、警察の天下り先としての性格を弱めていて、代わりに政治献金を積極的に行っている。目的は換金の合法化と関連企業の株式上場だ。法律的にグレーな状態である警察とのもたれ合いを解消して、新たに経済産業省の管轄産業へと移行させようとする動きが始まっているらしい。合法化した上で経済産業省が管轄するということは、産業政策としてパチンコを位置づけるということだ。ただでさえ世界最大のギャンブル市場をさらに大きくしようという考えだ。

広がるギャンブル依存

 厚生労働省による2009年度の調査では、ギャンブル依存症の推定数は559万人。成人男性の9.6%、成人女性の1.4%にもなる。その他の調査と比べ合わせてもおおよそ400万人から500万人が、ギャンブル依存症として対策が必要な人々ということらしい。

 パチンコに関してネット上では、北朝鮮への送金や在日特権が問題として取り上げられることが多い。そのためパチンコへの批判は、主に保守主義者やネット右翼を中心として行われている。
 だが、これらの多くの主張は、在日を叩きたいがためだけにパチンコ問題を利用しているだけのような印象をしばしば受ける。北朝鮮への送金や在日の人々への政策的優遇というのは確かに問題だが、ネット上では根拠が曖昧なまま陰謀論のような話が横行していて、差別感情に根付いただけの批判になっている場合も多い。

 しかし、若宮氏は、パチンコに関して何よりもまず、その依存症患者の多さを問題として捉えている。ギャンブル依存症となり生活を破綻させてしまった人々への哀憫の情に溢れている。ギャンブル依存症はWHOでも各国の精神医学会でも精神疾患として定義されている。著者は、それが国内で400万人もいるという状況を座視しできないのだろう。著者の非常な危機感と憂いが伝わってくる。

 平日の朝早くからパチンコ店の前に、開店を待つ多くの若者が行列をなしている姿など、本当に見ていて反吐が出る。韓国では市民運動をきっかけにしてパチンコを全廃することに成功した。これでは日本人は韓国人と比べてはるかに民度が低いと言われても反論できないだろう。民度の低い日本人は、このままパチンコを野放しにし続けるつもりなのだろうか。
 著者の今後の活躍に期待したい。