川北隆雄『日本国はいくら借金できるのか?』(2012)
ギリシアと日本の違い
日本の財政危機は、年々その深刻さを増している。経済協力開発機構(OECD)の発表(2012年6月)では、日本政府の借金は、対GDP比で214.1%。政府債務残高は、財務省の発表(2012年11月)では、983兆2950億円になる。
参考
・国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(平成24年9月末現在) : 財務省
このあまりに現実離れした天文学的な数値は、もちろんG20加盟国の中で最悪だ。対GDP比のみで見た場合、2011年に国債格下げが行われたアメリカでも当時102.7%、事実上のデフォルトを起こしたギリシャですらも165.4%でしかない。名目GDPの2倍以上という数字は、実はジンバブエの234%についで世界第2位になる。
2011年、ギリシャ国債が事実上のデフォルトに陥った際、日本の新聞やテレビでは、「日本の国債はギリシャ国債とは異なり、その大半を国内の投資家が保有しており、海外から外貨建てで借り入れているわけではないため安全だ」と、判で押したように同じ説明を繰り返していた。
しかし、この説明は、あくまでも「これまで日本国債がデフォルトを回避してきた理由」を述べたにすぎず、今後デフォルトの可能性があるかどうかについての説明にはなっていない。
さらに、より重要な点として、「デフォルトが起きない場合には、代わりに何が起こるのか」という説明が完全に欠けている。もちろん、その代償は増税とインフレ率の上昇であるはずだが、それを明確に指摘する声は、新聞やテレビなどのマスメディアではほとんど見られない。
本書は、こうしたマスメディアからほぼ黙殺されている「国債の国内消化の限界」という論点を、正面から取り上げている。
国債国内消化のからくり
日本の国債は94.3%が国内投資家によって保有されており、自国通貨建てで発行されている。
日本国債がこれまで国内で消化可能だったのは、日本の個人金融資産が潤沢だったためである。2011年9月時点における個人金融資産は、なお1,471兆円に達していた。この巨額の個人貯蓄が、銀行などの機関投資家を通じて国債へと投資されるという構図が長年にわたって維持されてきた。
むしろ、世界的に見ても例を見ないほど巨額の個人預金を抱えた銀行が、その投資先として安易に国債を選んできた、と表現する方が実態に近いかもしれない。
現在、国内の個人金融資産は依然として政府債務の総額を上回っているものの、今後、団塊世代以降の大量退職が進むにつれて、貯蓄の取り崩しが急速に進むと予想される。そうなれば、国内のみで国債を消化し続けることは徐々に困難になるだろう。今後、海外投資家向けに外貨建てで国債を発行する割合が、個人貯蓄の減少に連動して拡大することが見込まれる。
外貨建て国債の比率が高まれば、その返済に備えて外貨準備の確保が不可欠となる。確かに日本は世界最大の債権国であり、これまで累積黒字を背景に外貨不足のリスクは低いとされてきた。しかし、円高やデフレが長期化し、それに伴って貿易収支が悪化するようであれば、そのリスクは徐々に高まっていくだろう。
実際、財務省が2012年11月に発表した国際収支速報によると、2012年度上半期の経常収支黒字は、前年同期比で41.3%減少した。貿易収支だけを見ても2兆6,191億円の赤字であり、2011年度上半期から1兆円規模で赤字が拡大し続けている。この2011年度上半期の赤字は、なんと1980年以来、実に31年ぶりのことだった。
これが東日本大震災や円高による一時的な現象なのか、それとも産業構造の変化――つまり産業の中心が海外へ移行したことによる構造的な変化なのかは、今後の経済動向を見守る必要がある。しかし少なくとも、「日本は債権国であることが当然だ」とする時代が、すでに終わりを迎えつつあることは間違いない。
国内消化の限界
経常収支の黒字が今後どこまで維持できるのか、その見通しは不透明である。仮に貿易収支の赤字がさらに拡大すれば、いずれ経常収支そのものが悪化する可能性は高い。
少なくとも、これまで巨額の国債発行を支えてきた国内の経済的条件は、確実に変化し始めている。このまま現在のような規模で国債の発行を続ければ、遅かれ早かれ、国債の国内消化は行き詰まるだろう。国内消化の限界については論者によって意見が分かれるが、今後10年以内に限界が訪れると予測する見方が大勢を占めている。
現時点では、日本国債の大半が国内で消化されているため、仮に政府が財政破綻を起こしても、直ちにIMFを中心とする国際管理下に置かれるとは限らない。
だが、IMF管理下の厳格な国際的管理と構造改革を回避するために、政府(および財務省)は、できる限り早期に——国債の国内消化が可能なうちに——財政の健全化に取り組もうとするだろう。
その際に政府が採りうる選択肢は、基本的には二つしかない。国民に対する重税の導入か、あるいはインフレ誘導かのいずれかである。(個人的には、そのような選択肢を取るくらいなら、むしろ国際管理下に置かれ、外圧によって既得権益層を一掃する方が、国民の利益になるのではないかとさえ思っている)。
国内消化が限界に達してから財政規律を回復させようとしても、それは極めて困難だ。国債の国内消化が限界を迎え、その信認が失われて国債価格が暴落すれば、国債金利は急騰し、それに連動して長期金利も上昇する。
長期金利の上昇は、企業の設備投資や住宅ローン金利などを押し上げ、景気の冷え込みを一層深刻化させる。そして、景気の悪化はさらなる税収の減少を招き、財政悪化の悪循環に陥るリスクを高める。
今後、日本が新たな国債発行に依存せず財政再建を実現するためには、少なくとも国債利回りの上昇を大きく上回るGDP成長を継続的に達成する必要がある。名目GDPの2倍を超える政府債務を抱える現在、金利がわずかに上昇しただけでも、利払い費用が税収を容易に上回ってしまうからだ。
したがって、日本は国債の国内消化が限界に達する前に、金利を抑制しつつ景気を押し上げるという、極めて困難な経済運営を続けなければならない。その舵取りに失敗したときこそ、日本国債が真にデフォルトする時なのかもしれない。
ちょっと言い訳
この文章(記事)は前回記事と同様、アベノミクス以前の2012年に書いたものですが、再録しておこうと思います。当時はメディアの論調にすっかり騙されて、財政危機は最終的にインフレか増税によってしか解決されない、それを避けるためには、金利の上昇を抑えるしかない、と考えてました💦。
現在では、日銀が直接国債を買い入れて国債金利の上昇を抑えつつ、金融緩和によって経済成長を図るというインフレ目標政策が採られているので、国債暴落論、財政破綻論はすっかり影を潜め、ほとんど議論されなくなってしまいました。。。アベノミクス以前は、こういった議論がしばしば行われていたという記録のためにも残しておこうと思います。。。💦
追記
2013年、第二次安倍内閣によって、アベノミクスという名のインフレ目標政策が実施された。危機的と言われた日本国債も今のところまったく暴落する気配はない。それは日銀の金融政策が変更されて、金利誘導から量的緩和に変わって直接国債を買い入れるようになったからだ。
最近では、永久に日銀が国債を買い続ければ財政の問題はなくなるという議論まで出てきた。一見その通りのように思えてしまうが、これもGDPが成長していることが前提となって可能になっている。経済力がないのにも関わらず、中央銀行たる日銀が国債買い入れを続ければ、日本円が信用を失って、円安に歯止めが利かなくなる。どのみちGDPの成長は必須条件だ。
それにも関わらず、安倍政権は増税に必死だ。増税と緩和を同時にやろうとするから、結局景気が浮上しない。実際、目標とする2%のインフレも実現できていない。金融緩和による余剰資金が株式市場にだけ流れていて、株価の上昇だけが続いている。まるでバブルのころの資産インフレのようだ。本当に何をしようとしているのか、分からない。
アベノミクスはインフレターゲットとは別物として考えるべきではないのか、と最近では思うようになった。。。この「インフレターゲットもどき」の政策を続けているうちに、日本円の信用が落ちて、ほんとに国債が暴落したりして。。。?
川北隆雄『日本国はいくら借金できるのか? – 国債破綻ドミノ』(2012)
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