大村大次郎『税務署の正体』(2014)
一年でいちばんイヤな時期
また今年も、「確定申告」とかいうメンドクサイ季節がやってきた。
ほんと、頭が痛い。
まともに払ったところで、どーせ、まともに使われはしない。使われ方はまともに精査されないくせに、支払い方には、めちゃくちゃ厳しい。と、文句を言ったところで、税務署は待ってくれない。
税務署へ行くと、もう、そりゃ、長蛇の列……。
長蛇の列の先では、サエナイ顔の税務署員が魚のような目をして、淡々と書類を受け取っている。
あの人たち、何を考えてるんだろう?
この仕事、楽しいのかな?
何を思って、この職業を選んだんだろう?
列に並びながら、暇を持て余して、ついぼんやりそんなことを考えていた……。
で。
税務署の帰りに、図書館に寄って借りてきたのが、この本。
著者は元・国税調査官。普段なにをしているのかよく分からない税務署員(つまり国税職員)の実態が描かれている。
税務署ってなに?
まずは基本的なところから確認しておこう。
税金には、大きく分けて「国税」と「地方税」の2種類がある。
- 国税(国税局が管轄)
所得税、法人税、消費税など - 地方税(地方自治体が管轄)
住民税、固定資産税、自動車税など
そして、徴税にかかわる行政機関。
- 国税庁:財務省の外局
- 国税局:国税庁の地方支部。全国に12ある
- 税務署:国税局の出先機関
「税金=税務署」というイメージがあるが、地方税を扱うのは基本的に地方自治体。ただし、地方自治体が独自に税務調査を行うことはほとんどないらしい。たとえば住民税などは、税務署の情報をもとに算出されているからだ。
つまり、実質的に税務調査を行っているのは税務署だけ。だからこそ、一般的に「税金と言えば税務署」という印象になるのだろう。
そして、税務署といえば、やっぱり“税務調査”。
本書で最も注目すべきなのはこの部分。そして、同時に最も“闇が深い”部分でもある。
歪んだ税務調査の実態
本書の著者は、税務調査の根本的な問題点として、大きく二つを挙げている。
1. 税務調査に事実上の「ノルマ」が存在する
まず第一に問題視されているのは、調査官に事実上のノルマが課されているという点だ。
税務調査の結果、追徴課税や指摘事項がまったくない場合、それは「申告是認」と呼ばれるが、これが調査官にとっては最大の“汚点”とされるという。調査件数や追徴課税額に対してノルマが設定されており、それを達成するために、調査官は“重箱の隅をつつく”ように無理やり課税根拠をひねり出すことが横行している。
とりわけ、中小企業が狙い撃ちされやすい。というのも、大企業の調査には手間も時間もかかるため、限られた調査時間の中で効率よく「成果」を出すには、反論しにくい中小企業を標的にする方が都合が良いからだ。
こうして、追徴課税額を“稼ぐ”こと自体が目的化し、本来の目的である「適正な課税の実現」は形骸化する。そして、「会社を潰して一人前」といった歪んだ達成感すら、職員たちに共有されてしまっているという。
2. 国税OB税理士と税務署の癒着
第二の問題点は、「国税OB税理士」の存在である。
税理士資格は、税理士試験に合格して取得する場合と、国税職に一定期間従事して得る場合の二通りが存在する。
国税職員は、23年勤務すれば、自動的に税理士資格を得ることができる。その結果、引退後に税理士登録する国税OBが大量に生まれている。
彼らは現職の税務署員との強固な人脈を持ち、税務署の内情にも精通している。そのため、地元の有力者や大企業、政治家などは、こうしたOB税理士をこぞって顧問として雇う。
その結果は、火を見るより明らかで、税務調査に忖度が働き、税理士と税務職員の間に癒着と汚職を生む。そして、脱税の温床となる。
最も一般的な脱税の方法とは、実は、至って単純らしい。それは、「税務調査をさせないこと」だ。税務署にコネのある税理士が、税務署に圧力をかける。それだけ。
国税OBの税理士が現職職員に“圧力”をかけることで、調査そのものを回避させる。調査が行われなければ、不正が発覚することもない。脱税の手法が、税務調査を行わせない、という極めて単純なものであるがゆえに、余計に横行しやすいものになっているのだ。
天下りと制度的癒着
税務署がこうした圧力に弱い背景には、国税職員自身の「天下り」がある。調査に“配慮”した企業に、退職後に税理士として再就職する。その多くが、国税局幹部クラスだ。
そもそも、税理士制度そのものが、国税職員の退職後の生活を保証する目的で整備されたとも言われている。外部から資格取得できるルートはあるが、極端に難易度の高い試験が設けられており、実質的には外部参入を防ぐ仕組みとなっている。
この閉鎖的な制度のもと、国税OBが“脱税指南役”となっていくのは、ある意味当然の流れとも言える。実際、彼らの存在によって税務調査は回避され、特定の企業や層が不正な利益を得る構図ができあがっている。
なぜ中小企業と個人事業主ばかりが狙われるのか
税務調査が中小企業や個人事業主に集中するのは、こうした背景によるものだ。
国税職員の天下りを受け入れられるような体力のある大企業や、“上級国民”と呼ばれる人々は、税務調査を回避し、脱税がまかり通っている。一方で、コネも資金力もない一般の納税者だけが、不公平な調査の矛先となっている。
税務調査をめぐる脱税構造は、徴税する側と納税する側が、限られた閉鎖的な人材ネットワークの中でつながっているからこそ可能になっている。つまり、税制を最も歪めているのは、皮肉にも国税職員と国税OB税理士なのだ。
一般の納税者にとっては、これほど理不尽で不公正な話もない。にもかかわらず、こうした制度的腐敗は何十年も放置され、是正される気配すらない。まさに、「ふざけた話」である。
こうした問題点から分かるように、税務調査というのは、著しく公平性と社会正義に欠けたものになっている。
最後に…
本書では、この他にも、税務署内の非合理的な制度運用や、調査の際の“卑怯な手口”など、国税職員をめぐる様々な問題が指摘されている。
理不尽な制度を延々と続け、不正を放置し、時にそれを助長する——。
そんな税務署の実態が紹介されているので、ぜひ、読んでほしい。
本書を読むと、税務署の職員が魚のような目をしているのが分かるような気がする。
国は、国民に「きちんと税金を払え」と言う前に、まず徴収する側の不正や不合理を正すべきだ。
そして何よりも、税金の使い道にこそ、厳格な審査と透明性を設けるべきである。
そうでなければ、納税者の納得など得られるはずがない。
特に、わたしが納得できない!
なぜ、これほど収入の少ない人間から、そんなに税金を取るのか!!!
……と、怒りが収まらないが、とりあえず最後にお伝えしておきたいこと。
みなさん、確定申告の期限は3月15日までですよ~。
最終日はめちゃくちゃ混みますので、どうぞお早めに!
大村大次郎『税務署の正体』(2014)
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