タダは金になる!? – クリス・アンダーソン『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』(2009)

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クリス・アンダーソン『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』(2009)

 2009年刊行。

 出版直後から非常に話題になっていた本。本屋でも平積みになっていて、非常に気になっていたのだが、「分厚い」「ハードカバー」「1800円+税もする!」というのが妨げになって、結局、買わなかった。

 そのうち、買わないまま一年ぐらいが過ぎ、Bookoffで、本書が半額で売られているのを見つけた。

 「1000円。。。まだ、高いな。。。」

 その時点でも、まだ買うのをためらった。フリーの経済効果を謳っているのに、なんで本書が無料じゃないんだ!自己矛盾だろう、それ。(決して金がないわけじゃない。いや、ホントに。え?ほんとですって!)
 で、結局、買わないままになってしまった。

 んで。2015年。もう本書の存在もすっかり忘れかけていた頃に、Bookoffで200円で売っているのを見かけた。

 「200円。。。まぁ、これなら妥当か。。。」

 そうして、ようやく購入決断っ!!やっと買った。
 だが、もう時代遅れ感が酷くて、そのまま1年ちかく、ほったらかしたままになり、ようやく今年になって読んでみた。実に7年越し!!

人によって異なる商品価値

 本書は非常に興味深い内容だったが、本書の発表された頃から、Freemiumは話題になっていて、いろんなところの記事や他の本でその内容を読んでいたし、身近にもさまざまなfreeの商品が溢れるようになって、書いてあることはおおよそ予想できるものだった。

 本書を読んでも読まなくても、結局は、Freeの販売戦略、Freemiumの考え方は、遅かれ早かれ、他の所で知ることができたのだから、はじめから自分には、本書の価値は200円ぐらいが妥当だったということなのだろう。

 2000円払ってでも、すぐに読みたいという人もいれば、7年後でもいいから、200円にしてくれ、という私のようなドけちもいる。

 同じ商品であっても、それに見出す価値というのは、人によってそれぞれ違う。
 実際に商品開発や販売に携わっていて、価格戦略に思いあぐねている人にとっては、本書のような情報をいち早く得るために(2000円もの!)多額の費用を支払うことに躊躇はないだろう。だが、その一方で、私のように単に知的好奇心から興味があるだけの人にとっては、最新でなくてもいいので費用を低く抑えたいと考えるだろう。
 立場によっても、モノの価値というのは変わってくる。

価格戦略としてのFree

 同一の商品であっても、単一の値段をつけるのではなく、利用者の多様性や、価値観の違いを反映して、価格にも幅広い選択肢を与えることが、「物が売れない時代」には重要になる。
 同じものでも、少しずつ付加価値をずらした多様な選択肢を持った商品が今では多く開発されるようになった。Freeとは、そうした選択肢の一つとして、広く一般化し始めている。
 無料という選択肢は、単に客寄せや宣伝のためにやるのではなく、そうした価格戦略の一つとして位置づけられるべきものだ。本書は、そうした考え方を最初に明確に打ち出したものの一つだろう。

 本書も原書の電子書籍版は、当初無料だった。海外で話題になり、邦訳の出版が決まれば、あとは、高額な値段をつけても売れるようになる。そして、それでもお金を払いたくない私のような人間は、読むまでに7年待たなければならなくなる。
 同じ商品でも購入時期によって価格は変わってくる。それを価格戦略として明確に捉えようというのがFreemiumだ。本書も時期によって、購入層も価格も変化した。本書自体がFreemiumを実践しているのだ。

 このように同一商品の付加価値をずらす方法は、さまざまに開発されている。最も一般的に行われているものをいくつか上げてみると。。

・販売時期や機能制限に差を設けるもの。
・利用回数や利用人数に差をつけること。
・顧客をいくつかの類型に分けて、それに応じた段階を作ること。

 こんなところだろうか。
 今では、もっと巧妙な価格差、付加価値差が作られるようになった。特にFreemiumが最初に広く広まった分野であるsoftwareやvideo gameの分野では、課金の仕組みが複雑になりすぎて、もうよく分からなくなっている。

Freemiumの今後

 FreemiumやFreeの価格戦略が広まってもう10年近くが経とうとしている。だんだん、こういった手法も陳腐化して顧客の反応がいまいちになっていく一方、手法はますます複雑になって、むしろ利用者には不利になっている面も出てきはじめた。
 Smart phone gameの「ガチャ」という課金手法が問題となっているように、1%の中毒的な高額利用者と99%の無料利用者で成り立っているようなgameも大量に現れるようになった。
 せっかくのbusiness modelも日本では碌な発展の仕方をしない。

 本書が執筆された当時は、freeという価格戦略がもたらした意味は大きかった。しかし、こうした考え方が人々の間に広く膾炙されるようになると、その効果もそれほど期待できなくなる。
 今、本書を読んでまだ価値があるとすれば、当初のFreemiumの考え方から、現状の無料をめぐる価格戦略を見つめ直してみることだろう。
現在、行われている多くの価格戦略は、単に消費者を騙すだけのようなものに歪んでしまっているようにも見える。
 Freeという価格戦略にはまだまだ可能性があるように思う。また一から新たにbusiness modelを組み立てなおす必要があるだろう。それができた人こそ、次に市場を席巻することになるんだろう。