はじめに ― 改革を「構想」から「実装」へ
本提言は、雇用形態や企業所属によって分断されている日本の社会保障制度を、国民単位・国責任で一元運営する制度へと転換するための、具体的な実装設計を示すものである。
理念論にとどまらず、
- 財源をどう確保するのか
- 既存制度からどう移行するのか
- 諸外国の制度と比べてどこが同じで、どこが異なるのか
という三点について、政策決定に耐える水準まで落とし込むことを目的とする。
Ⅰ.財源試算 ―「企業負担」から「社会全体負担」へ
1.現行制度の財源構造(概観)
現在の日本の社会保障給付費は、年間約130兆円規模であり、その内訳は以下の三本柱で構成されている。
- 保険料(労使折半・個人負担)
- 国庫負担(税)
- 地方負担
特に被用者保険では、企業が雇用を通じて社会保障財源を担う構造が中心であり、これが雇用形態格差の温床となっている。
2.一元化後の基本財源モデル(試算イメージ)
本提言では、以下の三層構造による財源確保を想定する。
(1)所得比例型社会保障負担(個人)
- 給与所得・事業所得・副業所得をすべて合算
- 一定の基礎控除後、**一律料率(例:15〜18%)**で徴収
- 雇用形態を問わず同一ルールを適用
(2)企業負担分の法人税への一本化
- 現行の「社会保険料としての企業負担」を廃止
- 代替として、法人税率を数%引き上げ
- 利益規模に応じた負担とし、雇用形態による歪みを解消
(3)最低保障部分の国庫負担
- 医療・基礎年金・最低所得保障部分は税財源で賄う
- 消費税・所得税の一部を社会保障目的税化
▶ この設計により、
- 雇用抑制効果の軽減
- フリーランス・非正規の負担と給付の均衡
- 財源の安定性
を同時に達成可能となる。
Ⅱ.段階的移行シナリオ ―「一気に変えない」改革設計
制度改革において最大のリスクは、急激な変更による混乱である。そのため、本提言では10年程度を見据えた段階的移行を前提とする。
フェーズ1(1〜3年):基盤整備期
- 全国民共通の「社会保障口座」を創設
- マイナンバーと連動し、所得・就労情報を統合管理
- フリーランス・短時間労働者の社会保険加入要件を大幅緩和
▶ 目的:制度の「入口格差」を縮小
フェーズ2(4〜6年):制度統合期
- 厚生年金・国民年金の財政統合
- 健康保険組合の段階的統合(地域・全国単位へ)
- 雇用保険を「就労・所得保障保険」へ再定義
▶ 目的:企業単位制度から国民単位制度へ転換
フェーズ3(7〜10年):一元運営確立期
- 社会保険料の個人比例負担への完全移行
- 企業の直接保険料負担を廃止
- 「社会保障庁(仮称)」による一元運営開始
▶ 目的:制度の完成と安定運用
Ⅲ.北欧・フランス型との制度対応表
| 観点 | 日本(現行) | 北欧型 | フランス型 | 本提言モデル |
|---|---|---|---|---|
| 制度単位 | 企業・職域 | 国民 | 職域+全国 | 国民 |
| 財源 | 保険料中心 | 税中心 | 社会拠出 | 税+比例負担 |
| 雇用形態依存 | 高い | 低い | 中程度 | ほぼゼロ |
| フリーランス保障 | 弱い | 強い | 中程度 | 正社員同等 |
| 行政運営 | 分散 | 集中 | 準集中 | 完全集中 |
本提言は、
- 北欧の普遍性
- フランスの社会保険的安定性
を折衷し、日本の財政・労働慣行に適合させた設計である。
結論 ― 社会保障を「国家の基本機能」へ
本提言が目指すのは、単なる制度調整ではない。
- 社会保障を企業福利厚生から切り離し
- 雇用形態による分断を解消し
- 人生の変化に耐える制度を構築する
という、国家の基本機能の再定義である。
社会保障の一元化は、 「安心して働ける社会」 「挑戦が罰にならない社会」 「分断されない社会」
を実現するための、不可欠なインフラ改革である。





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