教育委員会制度改革の試み – 中野区の準公選制

中野区による準公選制の導入

 1956年に制定された「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」によって教育委員会は、住民が選挙で選ぶ公選制から、自治体の首長による任命制へと改められた。

 その結果、教育行政の民主化と地方自治は大幅に後退し、教育委員会は形だけの形骸化が進んでいった。

 この状況を改めようとして始まったのが、中野区による教育委員会準公選制の試みだ。

住民運動として始まった教育改革

 中野区による制度改革は、住民運動をきっかけにして始まった。1978年、中野区の住民が教育行政への住民への参加を求めて署名活動を開始。2万人以上の署名を集めることに成功、中野区へ教育委員会の準公選制を求める直接請求を行った。

 この時、提案された準公選制という考えが非常におもしろい。
 教育委員の任命権は、現行の法律では区長が持っている。であれば、その候補者を住民による選挙で選べばよいという考えで、事実上の公選制を復活させる案だった。
 任命権は区長のままだが、公選制に準ずるという意味で、準公選制と呼ばれた。
 この条例案は、同年、中野区議会によって可決、採択された。

教育行政の改革とその挫折

 教育委員の任期は4年なので、4年置きに選挙が実施されることになった。
 第1回の選挙は、81年。投票率は、42.98%で、地方自治体の教育委員を選ぶだけの選挙としてはそれなりの成果だったと言えるだろう。

 この条例をきっかけとして、中野区は教育委員会の改革を進めていく。
 具体的には。。。

・栄養士の全校配置
・図書館司書の配置
・会議回数の増加
・会議での傍聴市民の録音、写真撮影、発言の許可

 等々。。。
 住民へ開かれた会議を行い、住民の参加意識を呼び起こしていった。

 だが、この制度改革は、長くは続かず、挫折していくことになる。

 まず問題となったのがその適法性だ。教育委員会の在り方を定めた現行の法律では首長による任命をその趣旨としている。そのため、法の趣旨に反するのではないかという疑いがあった。
 教育の中央一元化の崩壊を恐れた文部省と自民党が、この点を特に徹底的に批難した。

 二つ目の問題は、住民の参加意識の低さだ。教育行政に限らず、地方行政全般に言えることだが、住民の「お上任せ」の体質は、ここでも現れている。
 最初のうちこそ話題となり、関心も集めるが、時間が経つにつれ急速に関心が薄れていく。教育委員会準公選制選挙は、81年から93年まで計4回行われているが、第2回以降は投票率が低迷し20%前半台が続いた。住民の投票率が下がるにつれて、特定団体の組織票が大きな比重を占めるようになり、政治的な中立性が危ぶまれることになった。

 最終的に、1995年、中野区議会で自民党が廃止条例案を提出、教育委員会準公選制は廃止された。

中野区教育改革の意義

 教育行政は、文部省を頂点とした完全な縦割り型上意下達の方式で、地域住民の意思や要望は全く反映されない状況が続いてきた。その結果、住民の教育への参加意識は非常に低く、「学校任せ」という態度が全国的に蔓延していた。
 この状況に一石を投じた意義は非常に大きい。

 時代の変化に合わせて、教育の在り方も変わろうとしている。

 英語教育の早期化の是非、詰め込みかゆとりか、愛国心教育の是非、等々。。。意見の分かれる議題は多い。
 また、多文化・少数派への理解、寛容を求める道徳教育、ITや金融など時代に即した分野の教育など、新たな教育分野の導入をどう進めるかも重要な課題だ。

 特に近年急速に問題となっているのは、子供のSNSの使用だ。社会的分別の未熟な子供によるSNSの使用は、一歩間違えると非常に危険なものだ。
 しかし、危険だからと言って一概に否定してしまうと、その子供が学校や地域から孤立してしまう恐れもある。個々の家庭で対応することが非常に難しい問題だ。こういう問題こそ地域全体で取り組まないといけない。

 時代が変化して、今までになかった新たな教育の課題がさまざまに生じている。それを文部科学省の上意下達で一元的に全国一律で決めてしまうことが果して正しいのだろうか。

 それぞれ住民が意見を出し、議論を重ねること自体が、教育行政の活性化につながる。議論は、民主主義の基礎であり土台だ。今の教育行政には、より住民の議論の成果を取り入れ、反映できる制度設計が必要だろう。
 現在の教育委員会は、地方自治と民意の反映という点で、何ら機能を果たしていない。というか存在自体、必要なのかどうか怪しい。あまりに閉鎖的で、保守的過ぎて、教育環境の変化に全くついて行けていない。そして、何もしようとしない。税金を食いつぶしているに過ぎない。天下りに群がるだけの事なかれ主義の連中に任せたままにしておけば当然そうなる。

 中野区の試みは、挫折したとはいえ、今でも参考になる点が多い。教育行政はいま一度見直されるべき時期に来ている。自分の地域の教育は、自分たちで考えるべきだろう。

参考

【PDF】教育委員準公選制の到達点と論点 三上昭彦
教育委員会 – Wikipedia
中野区教育委員候補者選定に関する区民投票条例 – Wikipedia

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