予想できなかった関税政策
米国トランプ大統領の関税政策が迷走している。
2025年4月2日、新たな関税政策に関する大統領令を発表。
4月5日から、全ての国から輸入される全ての品目に10%の追加関税を課し、さらに4月9日からは、米国の貿易赤字が大き国に対して個別に相互関税を課すとした。相互関税は、中国34%、EU20%、日本24%などとなっている。
突如として全世界に対して関税がかけられることになった。
トランプ大統領は、2016年の一期目の選挙期間中から、中国に対して関税を課すことを一貫して主張してきた。トランプはたびたび「中国はアメリカの仕事を奪い、不公正な貿易で巨額の貿易黒字を得ている」と主張。特に為替操作や知的財産権の侵害、不当な輸出補助を批判した。
一期目の2018年には、中国製品に対し数千億ドル規模の関税を段階的に実施。対象は、電子機器、機械、鉄鋼、繊維、農産品など多岐にわたった。
中国に対する関税政策は、アメリカ国内の産業を保護したり、貿易不均衡を是正したりする純粋な経済政策としての性格は弱かった。実際、これらの観点において顕著な成果は上がっていない。
むしろ、この政策は中国に対する「経済制裁的」な意味合いが強かったと言える。トランプ前大統領は、中国政府の行動———知的財産権の侵害、ウイグル人権問題、台湾への圧力など———を理由に、「経済的圧力を強化する必要がある」と発言している。関税は、中国の覇権的な外交姿勢や軍事的拡張をけん制する地政学的な圧力手段として用いられていた。
こうした対中強行姿勢は、共和党内でも一致した考えであり、次の民主党バイデン政権においても基本的に受け継がれた。
中国に対し関税をかける———
この政策は一定の合理性を備えており、アメリカ国内のみならず、EU諸国や中国周辺のアジア諸国からも支持を集めた。中国の台頭は、太平洋地域の安定を脅かすものだったからだ。
だが、今回の関税政策は、突如として全世界が対象になった。
だれも予想できなかった。まさに寝耳に水だったと言える。
国家非常事態宣言と関税政策
2025年4月に突如として発表された関税政策は、トランプ大統領を中心とする内閣(閣僚および閣僚級高官)によって決定されたものである。議会はもとより、共和党内においても政策決定に関与した形跡はほとんど見られない。
果たして、大統領の権限だけで国家全体に影響を及ぼすような政策を決定できるのだろうか。その法的根拠は何なのか。
実際、大統領には一定の権限が付与されている。たとえば、「通商拡大法第232条」では、国家安全保障の確保を目的とする限りにおいて、特定の品目や品目群の輸入を制限する広範な権限が大統領に認められている。
2025年4月2日、トランプ大統領は、「相互関税による輸入制限により、米国の巨額かつ恒常的な財貿易赤字に寄与する貿易慣行を是正する」と題する大統領令に署名した。この措置は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくものであり、「貿易関係における相互主義の欠如や、その他の有害な政策によって引き起こされた大規模かつ持続的な貿易赤字」を理由に、国家非常事態が宣言された。
なお、国家緊急事態法(NEA)においては、「国家緊急事態」の定義が明確に規定されておらず、その判断は大統領の裁量に委ねられていると言える。
国際緊急経済権限法(IEEPA)は、従来、明確な軍事的脅威を有する国家に対する経済制裁や金融規制の手段として用いられてきたが、関税措置への適用は前例がない。
国会議員の中には、これは、大統領権限の濫用であり、憲法違反を問う声もある。
歴史的にも、国家非常事態宣言は、独裁者が濫用してきたものだ。
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