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エネルギーを自給自足する – 藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義』

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藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義 – 日本経済は「安心の原理」で動く』(2013)

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森林という眠っている資源

 日本の緑被率は2000年時点で67%、農地を含めると81.6%に達する。日本の国土の大部分は山間部で構成され、森林に覆われている。日本はこれほどの森林資源を有していながら、それを十分に活かせていないのは、極めてもったいない

 そこで、現在の最新技術で、森林資源をバイオマス燃料として活用しようという動きが広がっている。
 この技術の発祥は、オーストリア。木材加工の際に生じる「木屑」を長さ2cmほどの円筒状に圧縮して、ペレットと呼ばれるバイオマス燃料へと加工する。このペレットは、灯油とほぼ同様の方法でボイラーの燃料として利用できるほか、火力発電用の燃料としても用いられている。
 山間部の小さな村や町程度であれば、エネルギーの自給自足が可能になる程度まで、技術が進んでいるようだ。

 本書では、岡山県真庭市、広島県庄原市の取り組みが紹介されている。木質バイオマス発電の技術によりエネルギー資源の地産地消と自給自足に日本でいち早く取り組んでいる地域だ。

自立する地方経済

 ペレット型バイオマス燃料の製造には、木材加工の際に発生する木くずが原料として用いられる。そのため、木材の需要そのものが高まらなければ、ペレットの利用も拡大しない。したがって、木材需要の喚起が重要となるが、この分野にも新たな技術革新が起きている。

 2000年頃、オーストリアで開発された「CLT(Cross Laminated Timber)」と呼ばれる建築材は、繊維の方向が直角になるよう板材を重ねて接着した集成材である。この技術によって、それまで不可能とされていた木造による高層建築が実現可能となった。

 耐震性や防火性においても技術が進展しており、実際にヨーロッパではCLTを用いた5階建て、6階建ての木造建築が次々と建設されている。

 CLTにより木材資源の需要を掘り起こし、ペレット製造および利用の拡大へとつなげ、エネルギーの自給自足を実現する。こうした仕組みによって、オーストリアでは都市部から離れた森林地域の経済再生と自立が成功しているのである。

 もともと森林資源に恵まれたオーストリアでは、これを持続可能に活用するための法律や制度も整備されている。たとえば、500ヘクタール以上の大規模山林を所有する者には、「森林官(フォレスター)」を配置し、管理にあたらせることが法律で義務づけられている。また、500ヘクタール以下の山林所有者に対しても、「森林マイスター」を配置し、適切な管理を行わせる必要がある。

 森林官や森林マイスターは、森林全体の資源量の把握、一年間に伐採可能な木材の量の決定、伐採区域の選定、販売先の確保など、多岐にわたる業務を担っている。

 このような取り組みによって、森林に経済的な付加価値が生まれ、雇用が創出され、地域の活性化が促進されているのだ。

新しい時代の経済の在り方

 地方の活性化は、国の政策にも影響を与えている。EUは、2030年までにバイオエネルギーの割合を34%にする目標を掲げていて、オーストリアもこれを目標としている。だが、オーストリアは森林資源を活用することで、すでにエネルギー生産量の約28.5%を再生可能エネルギーによってまかなうことに成功している。34%という目標値は、現実的な数値だ。

 これまで眠っていた森林資源を活用し、それを再生可能エネルギーとして利用する。さらに、それによって地域経済を活性化させていく———

 こうした取り組みは、単なる理想論ではなく、すでに現実として進行している。オーストリアがその先進事例であり、日本国内においても各地で同様の取り組みが始まっている。

 日本は長いデフレ不況に苦しんでいるが、今後、経済が活性化されていくとすれば、それはこのような自立型の地方から始まっていくのかもしれない。

藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義 – 日本経済は「安心の原理」で動く』(2013)

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