PR|記事内に広告が含まれています。

会社は職歴を磨くために利用するべきもの – 山崎元『会社は2年で辞めていい』

労働 労働・就職
Articles

読書案内
山崎元『会社は2年で辞めていい』(2007)

広告

これから働き出す若い人たちへ

 デフレ経済の長期化により、日本の雇用を取り巻く環境は大きく変化した。現在では、終身雇用を素朴に信じる人はほとんどいない。企業側も、社員の人生すべてに責任を持つことなどできない。企業は常に経済合理性に基づいて行動する。終身雇用の維持が困難であれば、人員整理を進めるだろうし、新卒一括採用が非合理的であると気づけば、中途採用による即戦力の確保など、新たな人事戦略を打ち出していくだろう。今後、労働市場の流動化はさらに進んでいくはずだ。

 そうであるならば、個人は自らの市場価値を高め、いつでも転職できるよう心構えを持っておくべきだ。「転職は良くない」「経歴に傷がつく」といった古い考え方にとらわれている場合ではない。企業自体が、経済状況の変化に応じて従来の雇用慣行を見直しつつあるのだから。

 本書は、特に若い世代──これから社会に出ようとしている人や、働き始めたばかりの人々──に向けて、「転職のススメ」を説いている。就職に失敗はつきものであり、会社が自分に合わないと感じたら、すぐに転職を考えるべきだという。時間こそ、最も無駄にしてはならない資源なのだ。また、たとえ今すぐ転職を考えていない場合でも、いつでも転職できるよう、社外でも通用する技術や人材としての価値を高めながら働くことが、これからの時代には必要だろう。

 本書では、転職に際しての心構えや注意点などが、著者自身の経験に基づき、具体的に述べられている。

 著者の方法論は大体次のような感じだ。

・2年くらいを単位にして計画実行すると良い。
・経歴に空白を作らない。
・内定をもらい転職が確実になるまで、会社を辞めない。
・同僚に転職の相談はしない。
・時間、収入、やりがいの何を求めて転職するのかをまず自分自身が明確にすること。
・転職の機会は、28歳、35歳が一般的なので、その年に向けて、自らの市場価値を高められるよう計画的なキャリア形成を考えること。

 これから働き始める若い人にとっては、非常に参考になる考え方だと思う。
 しかし、こうした具体的な方法論は、あくまで著者個人の経験に基づいているため、どこまで一般化できるのかについては疑問が残る。著者自身は12回の転職経験があるというが、それはいずれも金融や証券といった、日本でも比較的転職市場が発展している分野での話である。他の業界では、転職市場そのものがまだ十分に成熟しておらず、著者が言うように容易に転職できるとは限らない。依然として、転職や中途採用を受け入れない企業文化が根強く残っている。

これからの労働市場

 日本の労働市場は、依然として閉鎖的な側面が強い。たとえば、既卒者、非正規労働者、あるいは結婚や出産などで一度職を離れた女性たちに対しては、正規の就職や転職の機会すら十分に与えられていないのが現状だ。残念ながら、本書にはこうした日本の労働市場の課題に対する問題意識が、ほとんど見受けられない。現状を追認したうえで、いかに個人が納得のいく、損をしない働き方を選べるか、そのための戦略を提示しているに過ぎない。

 とはいえ、著者の言うように、会社に依存せず、自立した働き方ができる人が増えていけば、やがて日本の雇用慣行も徐々に変化していく可能性はあるだろう。

 「これからは自らの市場価値を意識して働くべきだ」という著者の主張自体には、大いに賛同できる。これから社会に出る人にとっては、ぜひとも参考にしてほしい考え方だ。会社とは、あくまで自分自身のキャリアを磨くための“手段”として「活用」すべき存在なのだから。

山崎元『会社は2年で辞めていい』(2007)

コメント

タイトルとURLをコピーしました