大量発行され続ける日本国債、ホントに大丈夫? – 辛坊治郎・辛坊正記『日本経済の不都合な真実』

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辛坊治郎・辛坊正記『日本経済の不都合な真実』(2011)

日本政府の借金、1000兆円間近っ!!

 中央政府の借金である国債発行残高が、そろそろ1000兆円に近付いている。このまま大量発行を続けていて、日本国債は、海外からの信用を維持し続けることができるのだろうか?
 日本の国債が信用を失ったとき、金利はどう変化するのか?財政にどのような作用が及ぶのか?国際貿易を中心とした実体経済にはどのような影響があるのか?

 議論噴出で一般人には分かりづらいこの論点をサルでも分かるように手短に解説している本がないかなと探していたところ、キャスターとして有名な辛坊治郎氏と会計士?の兄、正記氏との共著が面白かったので紹介したい。マスコミで流布されている国債安全論をひとつずつ暴論として切って捨てている。

なぜ日本国債は売れ続けるのか

 日本の国債は現在においても暴落することなく高値で取引され、利回りも1%前後を維持している。2010年11月時点で10年物長期国債の利回りはアメリカが2.87%、ドイツが2.70%、イギリスが3.38%であるから日本の国債の人気の高さが窺える。デフレ下で物価が下がっているため、実質金利は上がっているが、それだとしてもずいぶんな低金利だ。

 日本国債の低金利を支えている要因の一つは、日銀の金融政策にある。日銀は銀行間の短期金融市場で0%から0.1%とという超低金利を続けている。日銀から低金利で融資された資金が、銀行による国債の購入にまわされているため、実質的に日銀が国債を買い支えていることになる。

 もし日銀が国債価格の維持を放棄し、国債が暴落して金利が欧米並みに上昇すれば、国家財政はたちまち破綻する。900兆まで膨れ上がった政府債務の金利が3.5%になったとすると過去の借金の利払いだけで32兆円になる(900兆×3.5=32兆)。2010年度の税収が37兆円であるから、利払いだけで税収が吹っ飛ぶ計算だ。そのため日銀は0%という政策金利を続けて国債を買い支えることで政府の放漫財政を支えてやらなくてはならない。

 そして、長期金利を低く抑えている最大の要因がデフレと低成長経済だ。デフレ下では現金の価値が上昇していくため、利回りの低い投資を行うよりも現金化しておいたほうが有利になる。
 1400兆円を超える個人金融資産はそのほとんどが預金、貯金という形で保持されていて株式や債券へは回っていない。低経済成長のなかで企業が設備投資を控えるため、株式市場に余計にお金が回らなくなっている。つまり、銀行と郵便局(今のゆうちょ銀行)に行き場のない巨額な資金が貯められているということだ。
 そして、この行き場のない資金を銀行は、国債購入に当てている。ゆうちょ銀行にいたっては民営化されているにもかかわらず、相変わらず国債を買うことだけが存在意義のような組織だ。本来であれば銀行が投資先を開拓し企業の成長を助けるべきところを、その責任を放棄し安易に国債購入を選んでいる。

 マクロ経済で見れば、日本はまだこのように行き場のない個人金融資産が潤沢であるため、国債購入へ回る資金は十分にあると海外からは判断されている。短期的には日本国債は安全と見られている。デフレのために円の価値が上昇していることもあって海外、特に中国からの円買い、国債購入の流れが続いている。

 これらの要因が日本政府の巨額な債務にもかかわらず、国債が高値で取り引きされる理由になっている。しかし、これは低成長経済でデフレが続いているからこそ可能なのであって、少しでも景気が上向き金利が上昇すれば、国債を高値に維持した条件など簡単に崩れてしまう。

 日銀が政策金利で間接的に国債価格を買い支えていることからも窺えるように、政府や日銀にとっては、民間の設備投資や起業が盛んになって国債より有利な投資先が現れては困るのだ。つまり、日本国民が低経済成長であえぐことが、結果として日本の財政を支える要件になってしまっている。
 全くふざけた事態だと思わないだろうか。財政が不健全だということは、これほど国民の経済生活に影響するのだ。国民はデフレ下での非正規雇用の拡大と失業率の上昇、産業の空洞化にこれ以上耐えられるのだろうか。

 これならデフォルト起こしてIMFに管理してもらったほうがましだと思うのは私だけだろうか。IMF管理下に置かれれば、公益法人やら特殊法人やら地方の利権集団やらは間違いなく外圧の下で一斉整理されるはずである(ギリシャで公務員が一斉整理されたように)。
 政治家がどれほど政治主導を唱えても規制緩和も構造改革もろくに進まず、財政支出の圧縮に失敗しているのだから、日本には完全に自浄作用がないと海外からは思われている。日本は外圧を利用しなければ、利権団体を排除できないのだろうか(ほんと歯の裏に出来た歯石みたいな集団だ。自分の歯磨きでは取れず、結局、歯医者に頼らなくてはならない)。
 IMF管理下における構造改革によって何が起こるか、官僚と政治家はそれがわかっているから、IMFによる管理というのが彼らが最も恐れるべきシナリオなのだ。そのためメディアを使って国債安全論をひたすら流布し、その一方で増税へ舵を切ろうとしている。国民はこうした議論に決してだまされてはならない。

国債安全論の中身

 国家が財政破綻することがないといわれるのは、国家が徴税権と通貨発行権を持っているからである。つまり、財政問題は、最終的には増税かインフレによってしか解決しないということである。
 日本はまだ個人金融資産も潤沢であり、経常収支も黒字を続けていて民間に巨額の対外債権がたまっている。いざとなればそれを増税(預金封鎖)で取り上げてしまえばよい。あるいは政府紙幣を発行してそれを国債の償還金に当てればよい。
 しかし、これは国民が北朝鮮のように政府の圧制に対して従順で何の反乱も暴動も起こさなければ可能だ、ということでしかない。

 国債安全論の主張をまとめると大体以下のようになる。

1.経常収支が黒字で日本は巨額の対外債権を抱えているから破綻することはない。
2.政府紙幣を発行すればよい。
3.無利子非課税国債を発行すればモーマンタイ!

 1と2は政府の徴税権と通貨発行権を楯に国民に増税とインフレを強いるもの。3の無利子非課税国債とは、利回り0%の代わりに相続税が額面分だけ免除されるというもの。しかし相続税の対象になる土地と株が一斉に売られ始め大暴落する危険がある。

 このインフレか増税か、という選択肢を避けるためには、持続的な名目GDPの成長が必要になる。名目GDPの成長率が国債の利回りを上回っている限り、財政は破綻を避けられるからだ。金利の上昇を抑えつつ、それを上回る成長率が必要なのだ。
 しかし、それは本当に実現可能なのだろうか。

需要不足を解消するためには

 日本では現在、20兆から40兆の需要不足が生じているといわれている。つまり、日本の持つ労働力と設備を最大限用いれば、あと20兆から40兆円分の供給を生み出せると推計されている。この需要不足が300万の失業者を生んでいる。

 ではこの需要不足をどのようにして埋めればよいか。ここで著者二人は供給側の強化を主張している。デフレギャップに対しては、公共事業を中心とした財政支出によって有効需要を生み出すことが重要とよく言われるが、こうした考えには著者の二人はどうやら疑念を持っているようだ。

 日本における公共事業は乗数効果をほとんど生んでいない。それは、公共事業が民間の資金需要を押し退けてしまっているからだ。また、巨額な財政支出が公共事業依存体質の経済を作り上げ、企業の新陳代謝を遅らせ国際競争力を落とさせている。こうした点を考慮に入れれば、需要不足解消のための供給側強化という考えは、長期的な観点から見て決して的外れなものとは思えない。

 実際、アメリカは日本の台頭によってGMといった車産業が凋落して以降、産業の中心がIT関連に大きく移行しApple、Amazon、Googleといった国際競争力のある企業を育てることに成功した。しかし、日本は中国、韓国が工業国として台頭して以降も規制と公共事業で既存の企業を保護することしか行っていない。

 日本の製造業が過去の成功体験にすがって同じものを生産し続けても、人はすでに持っているものに対しては、なかなか買い換えようとはしない。中韓が台頭し過当競争にあるなかで、従来の生産を続けることが供給過剰となりデフレを悪化させている。公共事業にいたっては市場原理に全くそぐわない不必要なものを作り続けている。規制強化と公共事業は一時的なカンフル剤でしかなく、使いすぎれば時代にそぐわない古い産業構造をいつまでも存続させてしまうことになる。

 規制緩和を中心とした供給側の強化とは、単に生産力を挙げるために必要なのではなく、産業構造を変化させるためにこそ必要なのである。その意味で、供給側の強化によってデフレ下で生産量を上げればデフレが悪化するという批判は、供給強化の本来の意図を無視している。

 規制緩和と労働市場の流動化は必要である。日本企業がまだ体力があり産業が空洞化しない内に、国際競争力のある産業を育てなければならない。ITは出遅れ家電では出し抜かれた日本も自然エネルギーや環境の分野でならまだ進出する余地があると思うのだが。医療と食の分野における規制緩和には賛成できないが、新しい産業分野を育てることが重要であることは間違いないだろう。

ちょっと言い訳

 この記事はアベノミクス以前の2012年に書いたものですが再録しておこうと思います。当時はメディアの論調にすっかり騙されて、財政危機は最終的にインフレか増税によってしか解決されない、それを避けるためには、金利の上昇を抑えるしかない、と考えてました💦。
 しかし、日銀が国債を買い入れて国債金利の上昇を抑えつつ、金融緩和によって名目GDPの成長を実現する政策として、インフレターゲットが注目され、ようやく考えを改めました。。。まぁ、アベノミクス以前はこういった議論がよくなされていた、という記録も兼ねて再掲しておきます。

追記

 2013年、安倍政権下でインフレターゲットが始まった。日銀の金融政策も無担保コールレートからマネタリーベースを基準としたものに変更され、国債の直接買い入れが始まった。この政策変更によって、日銀が国債を永久に買い入れれば財政は問題化しないという議論まで登場した。この「国債いくら刷っても大丈夫理論」は、MMT(現代貨幣理論)として海外の経済理論によってお墨付きを得るまでになっている。しかし、MMT理論を実践した国はまだどこにもない。このまま緩慢財政を続けていれば、日銀が世界で初のMMT理論を実践した中央銀行になってしまうかもしれない。人柱ならぬ国柱として、世界の実験台になってしまうかも。。。まぁ、成功すればいいのだが。。。