働く貧困層の増大した2000年代初頭を振り返る – 門倉貴史『ワーキングプア』

読書案内

門倉貴史『ワーキングプア』(2006)

 2006年発行でだいぶ古い本であるが、あえて取り上げてみたい。
 今見ても当時の「数字」がいかに異常であるかということがよく分かる。10年以上もの間この問題が放置され続けていること、現在、状況はむしろ悪化していることを改めて考えるきっかけになると思う。

 2006年というのは、5年5カ月に亘った小泉政権が終わった年だ。それからおおよそ10年近くの月日が流れた。
 今では、小泉政権は、現在につらなる非正規雇用問題の原因をつくり出したとみられている。日本経済を効率的な構造へと変革し、国際競争力を付けることを政策目標とし、規制緩和と自由化を押し進めた。
 特に影響が大きかったのは、労働市場で、非正規雇用に関する規制緩和が進んだ。だが、緩和されたのは非正規雇用のみで、正規雇用に関しては一切の改革が進まず、転職市場も育たず、労働市場全体の流動化も起こらなかった。その結果起きたことが、正規雇用の既得権益化だ。

 その副作用として今現在起きていることが。。。

・正規雇用と非正規雇用の格差拡大
・「追い出し部屋」と呼ばれる強制退職の横行
・「ブラック企業」と呼ばれる労働者使い捨ての職場環境の増大

 …といった問題である。労働環境が悪化している原因のほとんどがこの時代の政策に由来している。

 非正規雇用の問題は、小泉政権下でもかなり深刻化していた。本書ではその実態が、さまざまな数字とともに示されている。
 本書で取り上げられている「数字」をいくつかここで紹介してみたい。

貧困の実態

 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2005年、所定内給与(賞与、残業代等を除く)が200万円未満の労働者の数は、546万860人。調査対象労働者の25%に相当する。
 男女別では、男性217万6580人、女性328万4280人。

 男性労働者全体における所定給与200万未満の割合は、2001年12.2%から2005年14.4%。
 職場における中核年代である30歳から34歳の年齢層での比率は、2001年6.0%、2005年9.4%。

 2006年生活保護世帯106.6万世帯、被保護実人員150.1万人

労働格差の実態

 経営上の都合による離職者数は、91年25万1300人、2001年84万2300人。10年間で3.4倍。

 派遣労働者数は、1992年65.4万人、2004年226.6万人。12年間で3.5倍。
 15歳から34歳の非正規社員数は、2002年507万人、2006年592万人。
 15歳から34歳の正規社員は、2002年1383万人、2006年1243万人。
 内閣府「若年層の意識実態調査」(2003年)では、非正規雇用者(20~34歳)で正社員を希望する割合は、男性76.2%、女性68.5%。

 景気には必ず波がある。なので普通の国では、生産の増減に合わせて、雇用調整することが一般的だ。だが、不思議の国ニッポンでは、雇用に「身分制度」を持ち込むことでそれに対応した。現在の格差は、景気後退によってもたらされたものではなく、経済状況の悪化に対して既得権益層を保護することで対処しようとしたことから生まれたものだ。そこに経済合理的な理由は一切ない。ただの歪な政策の結果だったと言えるだろう。