為替変動の決定要因とは?
円、ドル、ユーロ———
日々変動する外国為替相場は、私たちの生活や企業活動に大きな影響を与えています。
では、為替レートは何によって決まるのでしょうか?
一般的には、通貨の需給関係、各国の金利差、貿易収支、政治的リスク、さらには中央銀行による為替介入など、さまざまな要因が影響するとされています。しかし一部では、為替レートはもっと単純な要因によって決まっているという見方もあります。
その一つが、「通貨供給量の比率」によって為替レートが決まるという理論です。
通貨供給量と為替レートの関係
この考え方では、たとえば円とドルの為替相場(USD/JPY)を考えるとき、日本とアメリカの通貨供給量、つまりマネタリーベースの比率を使って為替レートを概算します。
マネタリーベースとは、中央銀行が供給する「ベースマネー(base money / high-powered money)」で、現金通貨(紙幣・硬貨)と、民間銀行が中央銀行に保有する当座預金の合計です。これは経済全体の貨幣供給の土台となるものです。
仮に日本のマネタリーベースが350兆円、米国のマネタリーベースが3.5兆ドルだとすると、
350兆 ÷ 3.5兆 = 100
となり、「1ドル=100円」という為替レートが導き出されるというわけです。
この手法に基づいた分析を実際に行ったことで知られるのが、著名な投資家ジョージ・ソロスです。彼の名を冠して、このマネタリーベースの比率と為替レートを重ねたグラフは「ソロス・チャート」とも呼ばれています。
マネタリーベースと為替の関係はどれほど有効か?
1970年から2010年までの約40年間の為替相場をこの理論で分析したところ、概ね7~8割程度はマネタリーベースの比率で説明できたとされます。つまり、長期的には両国の通貨供給量の変化が為替レートに大きく影響していたということです。
ただし、この理論がうまく当てはまらなかった期間もあります。たとえば:
- 1985年のプラザ合意前後:主要先進国(日本、英国、西ドイツ、フランスなど)が協調して米ドル高を是正した。
- 2001年3月~2006年3月:日本銀行が大規模な量的緩和政策を実施。
- 2008年以降:リーマン・ショック後、米連邦準備制度理事会(FRB)が大規模な量的緩和を実施。
これらの特殊な政策環境では、通貨供給量の増減が一時的に為替と乖離することもありましたが、それでもこの理論の信頼性の高さを示す例外的事象として位置付けられています。
為替相場の変動は一見複雑に見えますが、長期的な視点では通貨供給量という比較的単純な指標によって、一定程度説明可能であるという点は注目に値します。
もちろん、短期的な為替変動には投資家心理、地政学的リスク、政策発表なども大きく影響します。しかし、長期的なトレンドを見極める際には、各国のマネタリーベースや中央銀行の政策スタンスを注視することが有効といえるでしょう。
参考
高橋洋一『日本経済の真相』(2012)
コメント