読書案内
若宮健『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』(2010)
日本で報道されなかった韓国のパチンコ全廃
パチンコ産業では、韓国・北朝鮮資本がほとんどを占めていることは、一般に良く知られていることだが、韓国がパチンコを全廃したという事実はこの書籍が出版される以前はほとんど知られていなかったように思う。
私自身も本書を読む以前は、日本ではどんなに小さな商店街でも必ずと言ってよいほどパチンコ店が存在しているのだから、当然韓国には日本以上に多くのパチンコ店が存在しているのだろうと漠然と考えていた。
そのため本書の題自体が非常に衝撃的だった。他のメディアがほとんど報じなかった事実を一般に広めたというだけでも非常に価値のある著作だ。
しかし、これは逆に言えば、日本のメディアというのが如何にパチンコ産業の資本に依存しているのかということをも示している。パチンコの広告はテレビCM、雑誌、新聞、駅中広告と、今やありとあらゆる場面で見かける。
日本のメディアは広告主の不利になることは一切報道しない。さらに業界全体で忖度という名の自主規制が行われている。
この忖度のために、パチンコ産業に直接融資や広告収入を受けていない企業においてまで、広告産業全体の意向(俗に言うデンツー支配)に従ってパチンコに不利な情報はまったく報道しないということが起こっている。各社横並びで一斉に情報の締め出しを行っているのが実情だ。(これで多くの日本人が中国共産党の情報統制を批判したり嘲笑したりしているのだからあきれる。)
短期間でパチンコを全廃した韓国
韓国では2000年代の初頭に、日本のパチンコ台を輸入し、改造したメダルチギが流行し始めた。一時は1万5000店にまで広がり、3兆円規模の産業にまでなったが、射幸性が極めて高かったためにすぐに社会問題化した。そして早くも2006年には法改正を行ってメダルチギの営業そのものを禁止にしてしまった。社会問題化してから法規制までの期間が非常に短いことに驚かされる。
日本のようにすでにパチンコ産業の歴史が長く、メディア、産業界、警察、政界にまで深く根を下ろしているような状態では、韓国のような対応はほぼ絶望的に期待できないだろう。日本の政治、行政、産業界に自浄作用など働くわけもなく、期待するだけ無駄だろう。
しかし、韓国においても法改正に至るまでは、まずは市民運動から始まっている。日本においてもまずは草の根的なことからはじめていけばいい。
難しく考える必要はない。デモやビラ配りなどといった左翼臭く、大規模なものは必要ない。ただの不買、不利用運動をすればいいだけ。これなら個人で出来る。そして、身近にパチンコをしているような人がいれば、「くだらないことに人生の大切な金と時間を無駄にするな」と声をかけるだけ。それだけ。草の根的な運動が重要だ。
実際、近年パチンコの売り上げ、出店数ともに落ち込んでいる。若い世代がスマホのゲームに流れているだけなのだろうが、パチンコ人口の減少傾向は続いている。どれほど政界やメディアに強力なコネがあったとしても、利用者が減ればパチンコ産業は縮小せざるを得ないのだ。
身近な人から利用者を出さないように個々人が気を使えば、それだけでパチンコ産業というのは潰せるものだと、楽観的に考えることも重要だろう。著者の言うとおり、韓国人に出来たのだから日本人に出来ないわけがない。