偽装請負(ぎそううけおい)とは、日本において、契約が業務請負、業務委託、委任契約もしくは個人事業主であるのに実態が労働者供給あるいは供給された労働者の使役、または労働者派遣として適正に管理すべきである状況のことである。
1999年に労働者派遣法が改正され、港湾運送、建設、警備、医療、製造以外の業務へとほぼ全面的に労働派遣が解禁された。さらに2004年には、製造業まで解禁され、実質的に完全自由化という状況になった。
こうして2000年代以降、労働者派遣は、急速に拡大していき、2016年には130万人、労働人口の2~3%を占めるようになった。
【参考記事】
・派遣の現状 – JSA 一般社団法人日本人材派遣協会
派遣労働者は、その多くが有期雇用であり、非正規雇用に当たる。いつでも解雇できる存在として、雇用の調整弁としての役割を不当に押し付けられている。
このような極めて不安定な雇用形態であるにもかかわらず、90年代以降の長期化するデフレ経済下で、人件費の圧縮を図りたい企業によって、拡大の一途をたどってきた。
労働者派遣法は、ほぼ全面的な自由化が行われ、非正規雇用者数の増加と、賃金格差の拡大を招き、社会問題化した。
さまざまな問題を抱えた法律ではあるが、少なくとも派遣労働の下で働く労働者の保護も規定している。
だが、日本企業は、労働者派遣法で定められた最低限の労働者の保護規定すら遵守したくない、という極めて悪質で反社会的な経営態度をとるようになった。
そのなかで拡大していったものが、偽装請負と呼ばれる行為だ。
偽装請負とは?
偽装請負(偽装派遣とも呼ばれる)は、その実態が派遣労働であるにもかかわらず、請負を偽装して、労働者派遣法が定める労働者保護の規定から逃れようとするものだ。
これは、完全な違法行為になる。
雇用形態を派遣元の従業員、あるいは、個人事業主ということにして、使用者責任から逃れようとするもので、極めて悪質な行為だ。職業安定法、労働基準法、労働者派遣法など、労働に関するすべての法に違反する。
請負というのは、「労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法)」をいい、業務の成果にのみ責任を負う。そのため、この業務の成果を達成するために、労働者をどのような形で業務に従事させるかは、すべて受注先に任せられている。受注元が、受注先の労働者に指示を与えたり、管理下に置くことは許されない。
しかし、偽装請負の場合、契約上は、委託業務(業務請負)、個人事業主との任意契約などの形式をとっていて、実際には、現場従業員の指揮下で働くという形がとられる。実態は派遣労働だ。
【参考記事】
・あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ? – 厚生労働省東京労働局
本来、請負業務であれば、請け負った業務の成果を達成するために、どのような人材をどのように使うかは、請負元の問題であって、それに請負先が介入してはならない。
具体的には。。。
・受注先の従業員を直接指揮命令系統下に置いてはならない
・受注先の従業員の勤怠管理を行ってはならない、従業員数を指定してはならない
さらには、受注元の現場で働かせることも本来は避けるべきことで、極めてグレーゾーンだと言える。受注元の現場で現場従業員と混合で働かせると、どうしても受注元の指揮命令系統が発生しやすいからだ。
もし、受注元の現場で働かせたとしても、受注元の就業規則に従わせてはならない。
人材や人数の指定はできない。
こうした直接の管理がすべて禁止されているのは、使用者責任が曖昧になり、労働者の管理、保護がなおざりになるのを避けるためだ。
労働者の不利益
偽装請負の形式で、働いた場合、労働者にはどのような不利益があるのだろうか。
労働者側からすると、請負の場合、形式上は業務を請け負っているだけということになるので、受注先の使用者責任から外れて、労働基準法の適応外になり、労働者保護の枠外に置かれてしまう。
【参考記事】
・偽装請負とは – 社長のための労働相談マニュアル
また、派遣であれば、同一の派遣先で3年以上働いた場合、派遣先がその労働者に対して直接雇用を申し入れなければいけない。(改正労働者派遣法)
派遣という不安定な雇用形態で、長期間同一の現場で働かせることは許されないので、3年目以降は、労働者に派遣先で就職する意思があるかどうかを確認しなければならないのだ。もし、労働者にその意思があれば、派遣先は直接雇用に切り替える義務が生じる。
これが、委託であれば、使用者責任を逃れたまま、何年であろうと無制限に、就労させることができる。
企業が請負を悪用する背景
派遣社員は人件費を圧縮するためだけでなく、会社にとって節税にまでなっている。
人件費は本来固定費であり、下方硬直性といった性質を持つが、派遣社員の給与は外注費として計上され、変動費扱いになる。そして、この外注費には消費税が含まれていることになるので、会社は納税する消費税額を減らすことが出来る。雇用の際に必要な社会保険などの諸費用も不要になるとなれば、派遣がいかに会社にとって都合のいいものであるかがはっきり分かる。
偽装請負はさらに悪質で、税務処理上、さらに節税効果がある。
所得金額に対して事業税のほかに、資本金一億円以上の企業には外形標準課税が課せられる。これは資本金と人件費の額に対して課されるものだが、請負契約に対する報酬については、一切この課税対象とならない。派遣の場合は、費用の75%が対象になっている。偽装請負の場合、企業は労働者を派遣と同等に請け負い先の指示に従わせながら、税金は逃れることになる。
指揮命令系統が請け負い先にあるという労務実体の問題だけでなく、脱税という点でも犯罪行為だと呼べる。
なぜ日本企業には倫理観が欠落しているのか
労働環境の悪化が叫ばれるようになってすでに久しい。景気低迷が長引く中で、労働環境はますます悪化の一途を辿っている。
日本では多くの企業が、現場の労働者に過度の負担を押し付けることで不況を乗り切ろうとする極めて安易な経営に陥っている。その結果、現場は疲弊し、長時間労働が横行する一方で、労働生産性は著しく低いという非常に目も当てらない事態を招いている。
直接管理下に置いて指揮するのであれば、派遣法に従って、派遣労働者を受け入れるべきだ。そして、数年単位で就労させるのであれば、直接雇用にするのが原則だ。使用者責任から逃れようとするべきではない。労働者はモノではない。全ての労働者に正当な待遇が与えられるべきだ。
経営者の都合で労働者を使い捨てにできると考えていると、企業そのものから活力が失われていくだろう。いや、もうすでにそうなっている結果が、今の日本経済に姿なのかもしれない。
[adcode] 読書案内 朝日新聞特別報道チーム『偽装請負』(2007) [adcode] 企業の巧妙な脱法行為 2007年刊行。 偽装請負(委託)について朝日新聞が行った調査報道をまとめたもの。 […]