一橋総合研究所『「身の丈」起業のすすめ』(2005)
起業に対する考え方をもっと柔軟にするために
「身の丈起業」とは非常にいい言葉だと思う。
起業というとかなりな資本金を準備し、非常に高いriskをとるものという印象があるが、むしろ将来性が不透明な経済状況の中でこそ、保険(risk hedge)として起業を考えるべきだという。
その際の起業とは、副業としての起業であったり、転職の間のつなぎとしてのものであったり、自分の納得できる仕事をするためであったりと、従来の起業家にありがちな強い上昇志向から起業するものではなく、「身の丈」にあった範囲で行うことを勧めている。
「起業なんて簡単だ。誰でもできる。一流の企業をつくろうなんて気負うから難しく感じるだけだ。」
これは、ある起業家が語っていた言葉だが、まさにその通りだと思う。
法人化にこだわらない、上場は必ずしも利益につながるとは限らない、奇抜な発想よりも堅実な収入源を確立することを重視する、安易な資金調達は避ける——そういった「身の丈」に合った起業のための助言が、本書にはわかりやすく書かれている。
本書は、起業に対する考え方を柔軟にするための最初の一冊として非常に良い。起業についての価値観を見直すきっかけになるだろう。
ただし、「では実際に起業するにはどうすればいいのか?」という具体的な話はあまり書かれていない。いくつか事例は紹介されているが、それらの多くは比較的成功したケースであり、上場を視野に入れているような企業も含まれている。
「身の丈起業」を勧めているにもかかわらず、「本当にそれ、身の丈なの?」と思ってしまうような事例もあり、少しちぐはぐな印象を受けた。
起業の具体的な方法や、より小規模なスモールビジネスの事例などが紹介されていれば、もっと身近に起業を感じられたかもしれない。
一橋総合研究所『「身の丈」起業のすすめ』(2005)
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