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タダで稼ぐ! – 吉本佳生『無料ビジネスの時代』

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吉本佳生『無料ビジネスの時代』(2011)

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広がる無料ビジネス

 2011年刊行。
 ここ数年、無料で利用できるサービスや商品が増えてきて、私のようなド貧民にはありがたい限りだが、企業はどうやってそこから利益を上げるのか少し気になっていた。企業が提供する無料の商品やサービスは、促販のための宣伝行為という程度の理解しかしていなかったが、本書を読むと、無料の背後に企業の巧みな価格戦略があることに驚かされる。

 価値観が多様化し、収入格差が広がっている時代だからこそ、消費者を消費行動に基づいて詳細に分類し、それに沿った価格戦略が必要になる。同一の商品を販売する際にも、他の商品やサービスと組み合わせて付加価値に差を付けて、さまざまな価格帯を準備する。その中の一つとして「無料」という選択肢を効果的に活用するのが、無料ビジネスの基本的な考え方だ。

 無料ビジネスを行う目的もさまざまだ。単純な販促を目的とするものもあれば、顧客情報を収集し、ビッグデータの作成や活用に結びつける場合もある。

 著者によると、無料ビジネスは、個別採算型と総合採算型の2種類に分けられるという。個別採算型は、初期費用や初回利用を無料にし、その消費者の継続利用の中で採算を取ろうとする。それに対し、総合採算型は、無料によって顧客数を増やし、その一部の利用者を有料へと誘導して採算を取る。
 こうしてみると両者は異なる形で金融(finance)が行われていることがわかる。個別採算型は、個人の支出に余裕がなくてもとりあえず使ってもらい、継続的な利用の中で少しずつ利益を回収していく「ローン型」といえる。対して総合採算型は、支払いが難しい消費者には無料で利用してもらい、支払いに余裕のある一部の利用者に対して付加価値のある有料サービスを提供する「株式型」に近い仕組みである。

無料ビジネスが広がる背景

 本書が面白い点は、無料ビジネスを紹介するだけでなく、それが広がった社会的な背景にまで言及していることだ。
 ゼロ年代のデフレ経済によって物価は下がり続けたが、その極限の形が無料ということになる。無料ビジネスはまさにデフレ経済の中から登場したものだが、一方でそれは金融(finance)の機能も併せ持っている。つまり、無料ビジネスは正しく運用すれば、消費不況を脱するための手段になりうるということだ。

 著者はデフレ経済の要因としてさらに興味深い分析を行っている。98年から資源の国際価格は上昇しているのに対し、日本の消費者物価は同じ年から下落に転じている。本来ならインフレ傾向になるはずだが、ここから日本はデフレ経済へと入っていく。その理由として著者は、日本の輸入依存度が極めて低いため、日本の消費者物価指数は、資源価格よりも労働コストの方に左右されやすい、という点を指摘している。

多くの企業が資源価格の上昇に対処するため、労働コストを削減した。しかし、その結果、賃金の低下を招き、デフレをさらに加速させた。これは、非正規雇用の拡大と時期を同じくしており、経済構造そのものの変化と深く関わっている。

 このように格差が広がる中では、単一価格による販売では消費が拡大しない。無料によって消費を促し、支払える人から適切なタイミングで利益を得る無料ビジネスは、デフレ脱却の一手段として有効と考えられる。

 無料ビジネスは、スマートフォン向けのゲームなどで広く用いられているが、説明責任が不十分なまま課金が行われたり、射幸性の強さから社会問題化したりする例もある。そのため、「無料ビジネス」そのものが悪であるかのように受け取られることもある。

 しかし、本来の問題は、こうしたビジネスに対して適切なルールを整備せず、市場の秩序を守ろうとしない政治や行政の側にある。せっかくの新しいビジネスモデルも、日本では企業側の都合が優先される一方で、規制やルールづくりが後手に回るため、悪質な企業が跋扈し、結果的にそのビジネスモデル自体が機能不全に陥る。これは、日本で新興企業やベンチャーが育ちにくい大きな要因の一つといえるだろう。要するに、市場が無秩序なのだ。

 本書は、単に無料ビジネスを紹介するだけではなく、その経済的な背景を説明し、無料ビジネスをめぐる問題と今後の展開まで幅広く論じていて、非常に面白い。身近にある商品をめぐってさまざまな価格戦略が行われていることが分かって興味深かった。

吉本佳生『無料ビジネスの時代』(2011)

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