読書案内
門倉貴史『大失業時代』(2009)
2009年刊行。
また古い本だが、あえて取り上げてみたい。
2008年9月のリーマンショック以降の世界的な需要後退の中で、雇用環境が悪化していく状況を、様々な統計データを示しながら解説している。
統計データに基づきながら、当時の経済状況と雇用環境を淡々と述べているだけなので、経済分析や社会的要因の考察といったものは一切ないのだが、しかし、当時のデータをつぶさに見ていくと、日本の企業の経営体質が読み取れてくる。
内部留保をため込む企業
2008年の後半からは、世界同時不況が発生して国内外の需要が落ち込み、さらに急激な円高が襲った時代で、日本の大企業は「3つの過剰」と言われた「設備過剰、雇用過剰、債務過剰」をより一層削減する必要に迫られていた。その結果、企業は過剰な部分を整理する一方で、経営の防衛策として、内部留保の拡大を一段と進めていった。
実際、2008年度の金融業を除く資本金が10億円以上の大企業の内部留保(利益剰余金+資本剰余金+各種引当金)は、急激に増加している。2008年9月末で255.5兆円で、2007年9月末から約30.8兆円もの増加だ。
2002年から2007年までの景気拡大期において企業の収益は徐々に回復し、内部留保は毎年着実に増えていっているが、賃金はその増加率に見合っただけの増加を示していない。
2008年の世界的な景気後退に直面して、企業は積極的な投資よりも、より一層の内部留保を蓄えることで、防衛に走るようになった。そして、そのしわ寄せはすべて、雇用調整という形で労働者に押し付けている。
それが現在まで続く「格差社会」「実感なき景気回復」といった問題の根源になっている。
リーマンショック後の失業率は?
2008年9月のリーマンショック以降の完全失業率を見ていくと。。。
4.5%(2009年1〜3月期)
5.1%(2009年4〜6月期)
5.4%(2009年7〜9月期)
5.2%(2009年10〜12月期)
4.9%(2010年1〜3月期)
なお、2009年平均では5.1%、2009年の完全失業率を月次でみると、2009年7月に5.6%まで上昇している。
氷河期と言われた2002年の6月と8月に記録した5.5%を超え、過去最悪の水準だった。2010年後半からは日本経済は景気回復局面に入るが、雇用環境は依然として厳しい状況が続いた。
景気後退時、日本の大企業は、その多くが内部留保の拡大に努めて、雇用の保護には向かはなかった。こうした大企業の経営方針が当時のデータからも見て取れる。
本書は、当時の経済データを寄せ集めただけの内容だが、情報が簡潔にまとめられていて読みやすい。リーマンショック後の雇用環境がどのようなものだったのかを知りたい方には、今、読んでも意味がある本だと思う。