DNAのふしぎ – 多様な細胞が生まれる仕組み

同じ一つのDNA、多種多様な細胞

 人間をはじめとした多細胞生物は、さまざまな種類の細胞が集まって成り立っています。人間には、おおよそ200種類の細胞があると言われています。
 しかし、同じ個体(一つの生命)の中では、どんな種類の細胞も、全く同じDNAを共通して持っています。同じDNAを持った細胞が、どのようにして、異なった多様な種類の細胞を生み出すのでしょう?

 DNAは、細胞の設計図です。同じ設計図から、さまざまな種類の細胞が生まれる、というのは、よくよく考えてみると不思議ですよね。

 DNAが多様な種類の細胞を作り出すしくみを見て行きましょう!

細胞とDNA

 細胞には核のあるものとないものがあります。
 核のないものを原核細胞、核のあるものを真核細胞といいます。真核細胞には、核の中にDNAが入っています。
 DNAはタンパク質の設計図です。この設計図に基づいてタンパク質が作られ、生命が形作られます。

 多細胞生物は、さまざまな種類の細胞によって成り立っていて、これら多様な細胞群が集まってひとつの生命となります。そして、その細胞の一つひとつが同じDNAを持っているんです。

 では、同じDNAが、どうやって多様な種類の細胞を作るのでしょうか。

 DNAは、ヒストンと呼ばれる球状のタンパク質に巻き付いています。人間のDNAは全長で2メートル近くになります。この非常に長いDNAが大量のヒストンに少しずつ巻き付いて繊維状になっています。一つひとつのヒストンとDNAの複合体は、クロマチンと呼ばれ、このクロマチンが遺伝情報の情報単位となります。
 クロマチンがさらに長く連なり、繊維状に小さくまとまったものが染色体です。22対の常染色体と1対の性染色体、計46本の染色体が、細胞核に収まっています。

分裂する細胞

 細胞は、体細胞分裂によって、細胞を増殖させます。この体細胞分裂には2種類があります。

 一つ目は、細胞がDNAと核を均等に分裂させ、さらに、自らとまったく同じ細胞質を複製します。これを対称分裂といいます。
 二つ目の体細胞分裂は、自らと異なる種類の細胞を生み出します。DNAと核は均等に分裂しますが、細胞質は異なったものが生まれます。これは、非対称分裂と呼ばれます。この異なった細胞が、それぞれの組織に成長していくことを「分化」といいます。

 細胞は分化によって、元の幹細胞と特定の性質、機能を持った細胞へと枝分かれしていきます。そして、一度分化した細胞は、もう元の細胞へとは戻りません。特定の性質を持った細胞群へと成長していくのです。
 ある細胞は、筋肉細胞になり、あるものは視細胞になり、他のものは、神経細胞になり。。。と、このようにして多様な細胞に分かれて有機体としての生命が機能しています。

 すべての細胞が遺伝情報として同じDNAを受け継いでいます。しかし、それぞれの細胞は機能ごとに分化して、多様な種類の細胞群を作り上げます。この細胞の分化の過程で、遺伝情報単位としてのクロマチンが大きな役割を果たしています。

 細胞は、分裂、成長する過程で、DNAの必要な情報だけを読み取り、必要なタンパク質群だけを選択的に作り出しています。この時のDNAの必要な情報が、クロマチンを単位として読み取られているのです。
 必要のない情報の部分のクロマチンには、読み取られないように鍵がかかっています。
 DNAはヒストンに巻き付いてクロマチンを形成していますが、このヒストンにメチル基と呼ばれる原子群が付いて、鍵の役割を果たし、DNAが読み取られないようになっているのです。

 分化した細胞には、クロマチンにメチル基が付いて、それぞれの細胞へと特化して最長していきます。このようにして、多様な細胞が作られていくのです。