危機に立つ日米韓同盟 —— 韓国の進路と日本の課題
韓国は今、どこに向かおうとしているのだろうか。
2017年5月に大統領に就任した文在寅政権は、日米韓の安全保障協力よりも、朝鮮半島の統一に重きを置いているように見える。その姿勢は、日米韓の軍事的枠組みを損なってでも北朝鮮との関係改善を優先しようとする意図として表れている。
象徴的な出来事が、2018年12月に発生した韓国海軍によるレーダー照射事件と、その後の日韓の対立である。この一件は、文政権が日韓の安全保障協力を軽視していることを印象づけた。
さらに、米韓関係にも緊張が走っている。トランプ米大統領は、在韓米軍の駐留経費増額を韓国側に求めたが、文政権はこれに難色を示した。その結果、防衛費分担金協定は2018年末に期限切れとなり、更新が危ぶまれている。このまま交渉が難航すれば、在韓米軍の縮小や撤退というシナリオも現実味を帯びてくる。
日米韓の三国同盟は、冷戦後の東アジアの安定と国際秩序を支える柱として機能してきた。日韓間では歴史問題をめぐる対立もあったが、歴代の両国政府は、軍事的協力の枠組み自体を否定するような行動は慎んできた。それは、日米韓の同盟が地域秩序の前提であるという共通認識があったからである。
しかし、文政権以降に見られる一連の動きは、韓国政府が日米韓同盟の継続に必ずしも固執していないという新たな現実を浮き彫りにしている。言い換えれば、同盟の崩壊すら辞さないという、韓国側の強硬な外交姿勢が見て取れる。
もっとも、こうした姿勢は感情的・衝動的なものではなく、日中韓の経済力や軍事バランスの変化といった、過去20年間の地政学的な動向を踏まえた戦略的判断である可能性が高い。
すなわち、韓国は北朝鮮との統一を進めると同時に、中国の後ろ盾を得ることで、従来の日米韓同盟に代わる新たな国際秩序の形成を模索しているのかもしれない。
そのように見たとき、むしろ戦略的に不利な立場に追い込まれているのは日本である。従来の安全保障枠組みに依存してきた日本が、新たな地域秩序の変化にどう対応していくかが、今後の大きな課題となるだろう。
変化する日韓の国力バランス —— 軍事と地政学の視点から
近年、日本と韓国の国力差は著しく縮小している。
たとえば、2017年の名目GDP(米ドル建て)を見ると、日本は約4兆8,000億ドルで世界第3位、韓国は約1兆5,000億ドルで第12位である。この絶対値だけを見れば大きな差があるように思えるが、人口規模を考慮すれば様相は変わる。一人当たりの名目GDPで見れば、日本は38,000ドル(第25位)、韓国は29,000ドル(第29位)と、数値はかなり接近している。
参考
・世界の名目GDP(USドル)ランキング
・世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング
つまり、経済規模ではなお日本が上回るものの、生活水準や生産性といった点では両国の差はそれほど大きくないと考えられる。
軍事力の面では、局面によっては韓国の方が優位に立っている。
防衛省『平成30年版防衛白書』によれば、日本の陸上自衛隊の人員は約14万人に対し、韓国陸軍は海兵隊2.9万人を含めて約52万人に達し、兵力では韓国が3.7倍の規模を誇る。
海軍力では、日本の海上自衛隊が135隻(総トン数約48.8万トン)、韓国海軍は240隻(同21.5万トン)と、隻数では韓国が多いが、総トン数では日本が優位である。
空軍力では、航空自衛隊と海上自衛隊の固定翼作戦機を含め約400機、韓国空軍は約640機を保有し、機数では韓国が1.6倍にのぼる。
ただし、質的な面や戦術・装備の精度、また海洋国家としての戦略的立地などを考慮すれば、日本の海空軍は依然として強みを持っており、韓国が日本本土への着上陸作戦を展開することは現実的には極めて困難と考えられる。
一方で、問題は「継戦能力」、つまり戦争を継続するための体制整備にある。
日本の予備自衛官の定員は、2018年時点で約4万8,000人にとどまり、有事の際の兵力補充には限界がある。また、物資や輸送、インフラ、エネルギーの動員制度も整備されておらず、弾薬や装備の緊急生産能力・備蓄量も限定的である。
対照的に、韓国は兵役制度を通じて広範な予備役を確保している。陸軍21カ月、海軍23カ月、空軍24カ月の兵役期間を終えた後、8年間の「予備役」期間が設けられており、その後も40歳までは「民防隊」として訓練義務が課される。この制度により、1990年時点では予備役・民防隊合わせて350万人以上が登録されていた。
このような人的動員体制は、韓国の強気な外交・軍事的姿勢の背景にあると見るべきであろう。
国際秩序の再編と日本の選択肢
日本にとって最悪のシナリオは、韓国が日米韓同盟から離脱し、軍事的に対立する構図に進展することである。もしそのような状況になれば、韓国は中国との協力を強化しつつ、アメリカに対しては中立を促す外交的働きかけを行う可能性がある。
仮にアメリカが介入をためらうような状況が生まれれば、韓国は北朝鮮との軍事的緊張を緩和し、やがては軍事同盟へと発展させる道を選ぶだろう。そして、その統一国家は中国の支援を受けながら、日本に対抗し得る体制を築いていくことが予想される。
このように、韓国が南北統一と中国との連携を視野に入れて動いているとすれば、日米韓の同盟に対する冷淡な態度や、日本に対する強硬姿勢もその延長線上にあると見るべきだろう。
しかし、これは同時に、朝鮮半島が中国の勢力圏に取り込まれることを意味し、東アジアの戦略環境は大きく変容することになる。
そうした国際秩序の再編が現実のものとなった場合、日本の対応は極めて困難となる。北朝鮮・韓国・中国の軍事的結束に対して、現状の日本の国力と備えでは十分な抑止力を維持するのは難しい。
したがって、日本が今後取るべき最優先の戦略は、韓国を日米韓の安全保障枠組みの中にとどまらせ、東アジアの安定を維持することである。韓国の地政学的な離反、いわば「赤化」を防ぐことこそが、今後の日本の外交・安全保障政策の要となっていくだろう。
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