読書案内
藤井孝一『週末起業』(2003)
起業への第一歩
2003年刊行。
10年以上前の本だが、今でも週末企業の基本的な考え方は重要なものだと思う。
会社に一度就職してしまえばそれで自分の人生は安泰という時代はすでに過ぎ去っている。終身雇用も崩れてきているし、年功序列も将来の昇給を保障するものではない。将来の経済的な不安定要素は増えていく一方だ。
そこでリスクヘッジとしての副業を始める人も増えてきているが、本書は副業からさらに一歩進めてそれを週末起業にしようと勧めている。
副業として空いている時間にアルバイトをしたり、別の会社に掛け持ちで働いたとしても、それは結局、誰かに雇われている立場であることには変わりがない。会社の意思一つで自分の去就が決まるのは同じことだ。だったらいっそ、自ら起業したほうが、すべて自分の裁量で出来るのだからよっぽど面白いだろう。自分の好きなことや趣味を仕事に出来れば、やりがいもある。
こうしたやりがいを求める仕事は、個人にとってだけでなく、社会全体にとっても必ず利点になると思う。チェーン店ばかりで、マニュアル化された仕事ばかりの国よりも、個性的な仕事が増えたほうが、経済活動に多様性が生まれるし、消費者にとっても刺激的だろう。著者も日本を起業家で溢れる国にしたいという思いから本書を書いたと述べている。
今では起業も非常に簡単になった。ネット環境の進展が、起業を非常に身近なものへと変えていった。ネット上のサービスを利用すれば、個人でオンラインショップを開くことも、集客、宣伝も、マーケティングも出来る。あとは発想次第だ。
ただし、成功するかどうかの保証は全くない。だからこそ、会社に勤めたまま始めてみようというのが週末起業だ。まずは、何事も実際にやってみて、試行錯誤をしながら、成功の見通しが立ったらそこで初めて起業、独立を考えればいい。
週末起業で一番問題になることは、やはり、会社の服務規程だろう。副業や自社以外の他業務に従事することを禁止している企業は未だに多い。この点をどう解決できるかが、多くの人にとっての一番の問題になっている。日本企業の息苦しさを感じる。週末起業を成功させることが出来るかどうか、ということ以前に、こんなことで悩まなければいけない日本の労働環境というのもなんとも情けない。
本書でも少しではあるが、会社にバレない、あるいは、承認させるための方法も紹介されている。
ただ、まぁこの手の本にありがちな情報を小出しにするのはご愛嬌(笑)。この類の「びじねす本」は、著者のHPやメルマガ、セミナーへの参加を誘導するための入り口みたいなものだから仕方がない。具体的な話はほとんど期待しない方が良いです。
何か始めてみたいけど、まだ迷っているという人に、ぽんっと背中を押してくれる本です。
副業から週末起業へ、さらにそこから起業へと進んでいく人が多くなれば、きっと日本の経済も活気あるものになっていくと思う。
藤井孝一『週末起業サバイバル』(2009)
夢のある起業から生き残りのための起業へ
2009年刊行。
前著『週末起業』が刊行された2003年よりもさらに日本の経済状況は悪くなり、デフレ経済の出口が見えない時期に刊行されたため、著者の週末起業に対する考え方が、かなり厳しいものへと変わっている。
民間給与実態調査によると2007年には年収300万以下の人口は38.6%になる。非正規雇用も1737万人を超え就労人口の34%を占める。今では多くの人が、夢のある起業を目指すのではなく、本当に生活するために起業を始めているという状況なのだ。
著者によるとこのような起業の流れは、アメリカと同じものだという。アメリカにおいても70年代までは終身雇用が主流であったが、80年代から日本製品が大量に市場に出回るようになって、国際競争が激化した時期から、downsizing(要は日本のリストラ)が広まり、自立して起業せざるを得なくなった人が増えたのだという。会社を頼れない時代には、否が応でも起業家が増えるのだ。
しかし、こうした時代の変化を悲観する必要はない。危機は転機だ。自活する力を養う良い機会と捉えて、週末起業を始めてみるのもいいだろう。
著者は、週末起業の利点を、収入源の複数化ということ以外に、さまざまにあげている。
・経験が得られる。
・社外に新しい人脈を築ける。
・経済や税金について敏感になる。
・新しいやりがいを見つけられる。
・自信につながる。
週末起業はやはり、新しい働き方の一つとして意味を持っている。そのため、ただ稼げればそれでいい、という考え方にはやはりそぐわないと思う。
今ネット上では、副業として、Amazonを使った転売やネットオークション、ドロップシッピング、まとめサイトのキュレーター、せどりなどが注目を集めているが、それはどれも既存のサービスを利用したもので、そのシステムを作った企業だけが大きな利益を得るものでしかない。他人のために働いているようなものだ。フランチャイズへの加盟もその意味では同じだ。
こうした方法は始めるのは簡単だが、自立ということからは程遠いものだろう。その会社が、サービスの提供を止めてしまえばそれでおしまいだ。経験を積むための最初の第一歩として利用するのはいいだろうが、それを目的にするのは何か違う気がする。やっぱり、どうせ始めるなら意味ある週末起業家を目指すべきだ。
著者の挙げている週末起業を成功させるための心構えも参考になるものが多かった。たとえば、趣味の延長として週末起業を始めてしまうと利益が上がらなくても自己満足で続けていければそれでいい、という発想に陥りがちだが、それではいつまでたってもビジネスにならない。週末起業は時間が限られているからこそ、付加価値を付けた単価の高い仕事を目指さないといけない。でないとただほんとに、貧乏暇なしといった状況になっていしまう。等々。
すでに週末起業を始めている人にはあまり役立つ情報はないが、週末起業を始めようかどうか迷っている人なら、本書から得るものは多いと思う。相変わらず具体的な話には乏しいが、何か新しく始めてみようという気にはさせられる。会社勤め一筋という人もこういう生き方があるんだなと参考にする意味でも一読をおススメする。