深刻化する都市部の豪雨災害
2025年9月、三重県四日市市の地下駐車場浸水被害
2025年9月12日、三重県四日市市で観測史上最大級となる1時間あたり123.5ミリの猛烈な雨が降り、市中心部の地下駐車場が深刻な浸水被害を受けた。駐車場は地下2階建てで、地下2階部分は天井まで完全に水没し、地下1階でも約1.2メートルの高さまで水が達した。
この浸水により、地下1階で160台、地下2階で114台が水没したとされ、合計約274台が被害に遭ったと報道されている。排水作業は数日間にわたり行われ、完全な排水には4日を要した。
駐車場の入口や複数箇所から水が流入し、非常用ポンプや止水板は十分に機能しなかった。停電により照明や安全確保にも支障が生じたと報告されている。
この駐車場を管理する企業は、調べに対して、浸水があまりに早すぎたため、対応が間に合わなかったと答えている。
東京都で広がる「止水板設置」助成制度
近年のゲリラ豪雨や台風による浸水被害を受け、東京都内の各区では建物出入口に設置する「止水板」の設置工事を助成する制度が広がっている。助成内容は区によって異なるが、工事費の半額から4分の3程度、上限は50万~150万円とされる場合が多い。
対象は住宅や店舗、事務所、マンション管理組合などで、申請には事前相談が必要となる。従来の浸水被害後の復旧支援に加え、被害そのものを防ぐ予防策として注目されており、今後さらに制度を導入する自治体が増えるとみられる。
ヒートアイランド対策を政治が決断すべき時だ
近年、夏場の気温上昇が引き金となり、都市部でのゲリラ豪雨が深刻化している。被害は突発的かつ局所的であり、事前に予測することは極めて困難だ。四日市市の地下駐車場浸水のように、被害規模は年々拡大しており、市民生活に甚大な影響を及ぼすようになっている。今回の四日市市の災害では幸いにも人的被害は発生しなかったが、温暖化が進む現状を考えれば、今後も安心はできない。夏場に地下街を歩くことさえ危険になる未来は、すぐそこまで迫っている。
こうした状況を受け、東京都では地下施設の浸水を防ぐために止水板の設置費用を助成する制度を広げている。もちろん被害を最小限に抑えるための備えは欠かせない。しかし現状の対策は、災害「後」の被害を減らすことばかりに偏っている。肝心の「災害の発生そのものを抑える」根本的な対策がなおざりにされているのは、あまりに馬鹿げた現実だ。
本来であれば、根本的な対策として都市熱(ヒートアイランド)を抑える政策こそが、まず実施されなくてはならないはずだ。気候変動という地球規模の問題に対して、都市行政を担う地方自治体ができること──それが都市熱対策に他ならないからだ。具体的には、過度な舗装、緑地の減少、24時間営業の過剰な店舗運営、自動販売機の大量稼働、無制限な交通量などが都市の気温を押し上げる要因となっている。その結果、局地的豪雨が誘発され、さらなる災害を呼び込む悪循環に陥っている。
都市行政としては、このような都市熱要因を規制する政策こそ最優先に取り組むべきだろう。
では、なぜ根本的な気温抑制策が進まないのか。理由は明らかだ。都市熱(ヒートアイランド)対策は、国民の生活様式や経済活動の見直しを不可避にするからである。例えば、緑化や透水性舗装の拡大には費用がかかるし、エネルギー多消費型の生活や産業活動を制限せざるを得ない場合もある。政治がこれに踏み込めていないのは、国民に不利益や負担増を説明し、合意を得る覚悟がないからに他ならない。
だが、このままの先送りは、結局のところより大きな社会的コストとして跳ね返ってくる。浸水対策に税金を投じ続けながら、気温上昇と豪雨災害は一向に止まらないという「堂々巡り」から抜け出すためには、政治が都市計画や経済活動のあり方にまで切り込むしかない。
ヒートアイランドは、人間の生活が作り出した災害の土壌である。ならば、その抑制策も人間の生活を変えるところから始めなければならない。求められているのは、技術的対策の積み重ねではなく、社会全体の構造を見直す決断力である。
都市熱対策として、自動販売機をすべて撤去せよ
都市部の気温上昇が深刻化する中、ヒートアイランド現象による豪雨や浸水被害のリスクも高まっている。しかし、根本的な都市熱対策はほとんど進んでいない。背景には、生活様式や経済活動の見直しが避けられないという現実がある。国民自身がある程度の負担を受け入れる覚悟を持たなければ、都市熱を抑える取り組みは成立しないのだ。
まず手をつけるべきは自動販売機の屋外設置禁止
そこでまず、市民生活に影響の少ない取り組みから始めるべきだろう。そのひとつが、自動販売機の屋外設置に対する全面禁止である。
日本では自動販売機はなんら規制がなく無制限に設置されている。無秩序かつ大量に設置された自動販売機は24時間365日稼働し続け、熱源となっている。都市部では店舗は十分なほど充実していて、自動販売機が規制されたとしても、市民生活に与える影響は少ない。また、災害を防ぎ、市民生活を守るという公共的な価値を犠牲にしてまで、守らなくてはならないほど社会性のある営利活動ではない。むしろ海外では都市景観を破壊するものとして、規制されているのが一般的だ。
国民の覚悟なければ、都市熱対策は絵に描いた餅
もし、この程度の規制すら実現できないのであれば、都市熱対策そのものが不可能である。国民にもある程度の覚悟が求められている。被害が深刻化していく中、自らの生活を改める気は一切ないという態度はもう許されないところまで状況は深刻化しているのだ。
自動販売機撤去は単なる象徴的措置ではなく、生活様式の転換と責任ある消費への覚悟を問う試金石である。
自動販売機撤去の意義と「パスカルの賭け」の発想
もちろん、「自動販売機を撤去しても、本当に都市熱が下がるのか?」という疑問の声もあるだろう。確かに、地球温暖化や都市熱の上昇は多様な原因が複雑に絡み合う現象であり、単純に一つの要因を取り除くだけで解決するものではない。都市気温は建物の密集度、交通量、エネルギー消費、緑地の割合、さらには生活スタイルまで、多岐にわたる要素によって左右される複雑系の現象である。
しかし、複雑系の現象だからといって、何も手を打たないことが許されるわけではない。原因が特定できず、多岐にわたる問題に対しては、ある意味で「パスカルの賭け」の態度で行動するのが最も合理的である。つまり、たとえ自動販売機撤去だけでは都市熱の低下に大きな影響を与えるかどうか不明だとしても、やらないよりは遥かにましだという判断だ。
都市熱対策は一度に全てを解決できる魔法の策ではない。だが、影響の小さいところから着手すること、自らの生活を見直すこと、そしてできる限りリスクを減らす行動を積み重ねることは、長期的に見て都市の安全と快適さを守る最も現実的な手段である。自動販売機の撤去は、象徴的な一歩であると同時に、行動の転換を国民に問いかける合理的な賭けなのである。
私たちの覚悟にかかっている未来
都市を守るために必要なのは、国民ひとりひとりの意識と行動の変化だ。ヒートアイランドの悪循環を断ち切るために、今、私たちは不便や制限を受け入れる勇気を示さなければならない。都市の未来は、私たちの覚悟にかかっている。


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