日本郵政、豪トール社買収で巨額損失 ― 民営化後初の赤字へ
経緯:買収から減損処理へ
日本郵政は2015年、豪州の物流大手「トール」を約6200億円で買収した。しかし、業績が低迷し、2025年3月期決算で約400億円の純損失を計上する見通しとなった。これは、2007年の民営化以降、初の最終赤字となる可能性がある。
買収当初からトールの実力に対する懐疑的な見方はあり、「高値づかみ」との指摘も存在した。実際、買収額はトールの純資産額を約4700億円も上回っており、この差額は「のれん代」として計上されていた。
しかし、そののれん代(当時約3860億円)は、期待された収益が得られなかった場合、資産として認められず、損失として処理されることになる。今回の減損処理は、まさにその典型例である。
背景:業績不振と見通しの甘さ
トールの業績は、資源価格の低迷などを受けて買収後すぐに悪化。2016年4〜12月期の営業利益は前年同期比で7割も減少し、買収前に描かれた成長シナリオとは大きく乖離した。
買収は、日本郵政が株式上場を控える中で行われたもので、成長戦略として国際物流市場への進出をアピールする狙いがあったとされる。しかし結果的には、過大な期待と見通しの甘さが巨額損失を招いた。
経営責任の行方 ― 国民に責任を押し付ける無責任体質
責任の所在:経営判断とその人物
この買収を主導したのは、当時の社長・西室泰三氏である。西室氏はかつて東芝の社長を務め、2006年には同社による米原子力企業ウェスチングハウス(WH)の買収も主導した。その際も実態以上の高額買収が行われ、後に東芝は巨額損失と不正会計問題で経営危機に陥った。
今回のトール買収も、東芝のケースと極めて類似しており、「のれん代」が損失化するという同様の構図をたどっている。市場関係者の間では、「日本郵政でも今後さらなる悪材料が出てくるのでは」との懸念も広がっている。
国策企業としての影響と責任
日本郵政は、政府が保有株を売却して東日本大震災の復興財源に充てる予定だった企業であり、今回の損失はその資金計画にも影響を与える。日本郵政と東芝、いずれも「官製企業」としての側面が強く、結果として経営責任の所在が曖昧になりがちである。
特に西室氏に関しては、東芝退任後も経営に関与し続け、「チャレンジ」と称して無理な業績目標を課すなど、不正会計の温床を作ったとする指摘もある。東芝が原子力事業から撤退できなかった背景には、彼の院政的な影響もあったとされており、二度にわたる大企業の混乱に深く関わってきた。
総括
日本郵政のトール買収失敗は、単なる経営判断ミスにとどまらず、「国策」として進められたM&Aの問題点を浮き彫りにしている。適切なリスク評価や企業統治が欠如していたことが明らかであり、巨額の損失にもかかわらず、責任の所在が曖昧なまま終わる可能性が高い。
このままでは、またしても納税者や一般社員がツケを背負わされる形となりかねず、今後の国策企業の在り方を問う必要がある。
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