躍進するchocoZAP(チョコザップ)
パーソナルトレーニングジムを運営するRIZAP(ライザップ)が、2022年7月から新業態として、24時間無人運営のトレーニングジム「chocoZAP(チョコザップ)」を展開している。
このチョコザップが現在急拡大している。2023年11月には会員登録数100万人を突破。店舗数も1100店を超えた。事業開始から1年5カ月でこの数字を達成したことになる。
チョコザップが躍進した要因はどこにあるのだろうか?
その最大の一つとして指摘されるものは、利用者層を明確に絞ったことだ。それも今まで、訴求する対象となっていなかった層を狙った。トレーニングジムにも筋トレにもまったく興味がなかったような人たちに向けて新しいジムを展開し、それがこの成功につながった。まさに新たな市場(Blue Ocean)を発見したと言える。
チョコザップの何が今までと違うのか?
すべてが商業化された時代、新たな市場を見つけるというのは、そう簡単なことではない。チョコザップは、今までのトレーニングジムと何が違ったのか――。
チョコザップの特徴をあげると。。。
・小規模で最小限の設備
・着替え、靴の履き替え不用
・シャワーなし
・トレーニングマシーンは初心者向けのもののみ設置
・5~10分程度の隙間時間で利用できる
一般的な総合ジムが、シャワーやサウナ、更衣室を備え、設備の豊富さを競っているのに対し、チョコザップは、導入する設備を限定して、余計なものを一切排除している。無人店舗なので、トレーナーによる指導やレッスンも一切ない。
これらすべてが、経費を削減するために行っているのではないという点が重要だ。あくまで、利用者層を明確に絞った結果、こうなったのだ。
チョコザップはその事業理念を次のように説明している。
「日本中のあらゆる人の声に寄り添い、健康で活力に溢れた社会にコミットし続けることができるサービスをご提供する」ことを目標に、より幅広いお客さまにとって身近な存在として、毎日の生活の中で健康増進に貢献するインフラ的な存在になっていくことを目指しています。
つまり、「筋トレ」をボディビルダーやアスリートなど一部の人たちのためのものではなく、一般の人の体力向上、健康維持のためのものにしようということだ。
コロナ禍の余波が続く中で新事業を展開
日本のフィットネス人口は、比率にして3.3%ほどで、その少ないパイを業界全体で取り合うという状況だった。もう市場は飽和状態で、これ以上の成長は見込めない状態だった。そこに2020年からのコロナ禍が襲ってフィットネスジムの廃業が相次いだ。
だが、コロナ禍によって、一般の人の健康意識はむしろ高まっていて、それはさまざまな市場調査に現れていた。ライザップは、そこに商機を見いだした。健康を意識する一般人にこそトレーニングジムへの潜在的需要が十分見込めると判断したわけだ。コロナ禍がまだ尾を引いている2022年7月、あえてこの状況下で新たな事業を展開した。3.3%ではなく、残りの96.7%のシェアを取りに――。
23年度と24年度は、先行投資の期間と位置付け、経営は赤字が続いた。しかし、事業開始から順調に登録者が増えて手ごたえを感じたライザップグループは、2023年8月には、劣後ローンで最大55億円、銀行からの長期借入金で12億5千万円、合計で最大67億円の資金を調達し、新事業のチョコザップへの投資に充てると発表した。この先行投資により、24年3月期第3四半期の決算において18億円の赤字、純損益の累積は約77億円の赤字となった。だが、業績は急速な伸びを示していて、25年3月期は黒字化を見込む。
参考
RIZAPグループ、最大67億円調達 資本性劣後ローンなど – 日本経済新聞
ターゲットはあくまで普通の人だ。
では、どうすればフツーの人に来てもらえるか。ざっくり言ってしまえば、トレーニングジムへの敷居をどれだけ下げられるか。それがチョコザップの成否を分ける課題だ。
チョコザップは市場テストを何度も繰り返している。ローンチ前の実験店舗では、初心者が入りやすいようさまざまな工夫が試みられ、その結果、以下のような結論が得られたという。
・多機能、高性能なものより、分かりやすく使いやすさを重視したトレーニング機具
・上級者向けであるフリーウエイトの器材は置かない
・ランニングマシンをより多く設置
このような市場調査の結果から見えてくる顧客層の特徴とは。。。
。。。といったものだ。一般の人はそれほど、フィットネス業界が考えているほど、筋肉増強、ボディメイクに関心がないのかもしれない。このようなニーズとのずれが、今までのトレーニングジムの利用者が拡大しない一つの要因なのかもしれない。
そして、利用者を増やす上で最も重要な戦略が、価格設定だ。チョコザップは、月額2980円(税別・2024年3月現在)という破格の値段設定を行ってきた。一般的な総合ジムの相場が月額1万円前後と考えると3分の1以下の値段だ。この値段であれば、今までトレーニングジムに関心がなかった人でも試してみようかという気にさせられる。
チョコザップが革命的なワケ
運動習慣のない人に向けて、体力向上・健康維持のためのトレーニングジムを作るという発想は、今までありそうでなかった。まさにコロンブスの卵的発想だ。
チョコザップが掘り起こした新たな需要は、フィットネス業界において画期的だっただけでなく、業界の枠を超えて社会に大きな印象を与えた。さまざまな経済紙・業界紙がチョコザップの急成長を取り上げるだけでなく、一般紙やその他のネットメディアでも話題になっていることがその表れだろう。
今までのトレーニングジムへのイメージは、大変申し訳ないけれども、このようなものだった。👇(*個人の感想です)
トレーニングジムは、これまで一般の人にとって極めて敷居の高いものだったと思う。上級者が常連でいる中、初心者が入りづらい雰囲気があった。(*個人の感想です)
しかし、「筋トレ」が本当に必要なのは、普段運動習慣のない一般人なのだ。
筋トレは、近年、筋肉増強以外にさまざまな効果があることが実証され始めている。
・精神の安定
・認知能力の改善
厚生労働省の調査では、平均寿命と健康寿命との差が、男性で8.73年、女性で12.06年も存在している(2019年調査結果)。この年数は、日常生活に制限がある期間を示していて、介護等が必要になる。この期間を短くするために非常に有効な手段の一つとされているのが、若い頃からの筋力維持だ。予防医療として「筋トレ」が推奨されているのだ。
筋トレの様々な効果が実証されるようになるにつれて、筋トレはボディビルやボディメイクのためだけのもの、というイメージは崩れてきている。筋トレは、世代や性別を問わず、今や幅広い人々に必要とされるものに変わってきた。体力向上・筋力維持を通じて「生活の質」を上げるものとして捉えられ始めている。
そうした筋トレのイメージの変化に伴って、トレーニングジムも新たな形が求められるようになった。
下っ腹がではじめた30代の中年男性、今まで運動経験のない40代の女性、最近体力の衰えを感じ始めた60代男性――
そういった人たちが、気軽に訪れ、10kgや15kgの重さでトレーニングマシンを利用している、そのような場がこれからは必要だろう。
チョコザップは、こうした「健康インフラ」を担う企業として成長していけるだろうか。
今後、競争が激しくなるのは間違いない。しかし、健康インフラという新たな需要を掘り起こしたライザップの功績は高く評価されていいものだと思う。
参考記事
・ライザップ 瀬戸健社長が明かす拡大戦略の深層、「チョコザップ」黒字化で“限界突破”に挑む – esquire
・ターゲットは初心者 上級者向けの器具はあえて置かない戦略 – MarkeZine
・「chocoZAP」誕生秘話。「RIZAP」の屋号を隠した覆面店舗だった!? 無人ジム運営のノウハウゼロから辿り着いた「No! 幽霊会員」への美学 – 集英社オンライン
・チョコザップが「単月黒字化」。ライザップG、通期予想で赤字幅を縮小 – Business Insider