週末起業のススメ

藤井孝一『週末起業サバイバル』(2009)

夢のある起業から生き残りのための起業へ

 2009年刊行。
 前著『週末起業』が刊行された2003年よりもさらに日本の経済状況は悪くなり、デフレ経済の出口が見えない時期に刊行されたため、著者の週末起業に対する考え方が、かなり厳しいものへと変わっている。

 民間給与実態調査によると2007年には年収300万以下の人口は38.6%になる。非正規雇用も1737万人を超え就労人口の34%を占める。今では多くの人が、夢のある起業を目指すのではなく、本当に生活するために起業を始めているという状況なのだ。
 著者によるとこのような起業の流れは、アメリカと同じものだという。アメリカにおいても70年代までは終身雇用が主流であったが、80年代から日本製品が大量に市場に出回るようになって、国際競争が激化した時期から、downsizing(要は日本のリストラ)が広まり、自立して起業せざるを得なくなった人が増えたのだという。会社を頼れない時代には、否が応でも起業家が増えるのだ。

 しかし、こうした時代の変化を悲観する必要はない。危機は転機だ。自活する力を養う良い機会と捉えて、週末起業を始めてみるのもいいだろう。

 著者は、週末起業の利点を、収入源の複数化ということ以外に、さまざまにあげている。
 ・経験が得られる。
 ・社外に新しい人脈を築ける。
 ・経済や税金について敏感になる。
 ・新しいやりがいを見つけられる。
 ・自信につながる。

 週末起業はやはり、新しい働き方の一つとして意味を持っている。そのため、ただ稼げればそれでいい、という考え方にはやはりそぐわないと思う。
 今ネット上では、副業として、Amazonを使った転売やネットオークション、ドロップシッピング、まとめサイトのキュレーター、せどりなどが注目を集めているが、それはどれも既存のサービスを利用したもので、そのシステムを作った企業だけが大きな利益を得るものでしかない。他人のために働いているようなものだ。フランチャイズへの加盟もその意味では同じだ。
 こうした方法は始めるのは簡単だが、自立ということからは程遠いものだろう。その会社が、サービスの提供を止めてしまえばそれでおしまいだ。経験を積むための最初の第一歩として利用するのはいいだろうが、それを目的にするのは何か違う気がする。やっぱり、どうせ始めるなら意味ある週末起業家を目指すべきだ。

 著者の挙げている週末起業を成功させるための心構えも参考になるものが多かった。たとえば、趣味の延長として週末起業を始めてしまうと利益が上がらなくても自己満足で続けていければそれでいい、という発想に陥りがちだが、それではいつまでたってもビジネスにならない。週末起業は時間が限られているからこそ、付加価値を付けた単価の高い仕事を目指さないといけない。でないとただほんとに、貧乏暇なしといった状況になっていしまう。等々。

 すでに週末起業を始めている人にはあまり役立つ情報はないが、週末起業を始めようかどうか迷っている人なら、本書から得るものは多いと思う。相変わらず具体的な話には乏しいが、何か新しく始めてみようという気にはさせられる。会社勤め一筋という人もこういう生き方があるんだなと参考にする意味でも一読をおススメする。