日本のシューカツをおかしなものに歪める人たち

佐藤孝治『<就活>廃止論 ~会社に頼れない時代の仕事選び~』(2010)

結局は、新卒の一括採用を温存させるだけの結論

 著者は就職、採用活動のコンサルタントであって、要は就活ビジネスに関わっている人だ。そういった立場の人が就活廃止論などはじめから提言できるわけもなく、本書の題はただの煽りでしかない。
 終身雇用が崩れて、企業の採用活動も変わり始める中で、従来の新卒一括採用が、企業にとっても学生にとっても極めて不合理なもとしかなっていないことを指摘しつつも、その後の著者の提言は現状を追認しているようなものばかりだ。

 著者は、今後の就活のあり方として五つの案を挙げている。

・選考試験を大学一年から始めること
・複数年入社パスの発行
・入社意思表示は大学四年の10月
・選考試験フィードバックの実施
・新卒通年採用

 以上の五つだが、これでは学生に対して早めの就職活動の開始と企業に対する選考期間の長期化を提言しただけで終わってしまい、問題の本質である新卒一括採用という慣行自体を改めようという話にはならない。
 米国のように職業経験者を対象とした採用活動を基本として、学業と就労の間を自在に行き来できるような仕組みを作ることが今の日本に必要とされているように思うのだが、そうした問題には2ページ程度でさらっと触れておしまい。
 学生に対して、早くから就職に向けて意識的に準備し、インターンシップを積極的に活用することを提言し、就活における5%の勝ち組になれるよう指南しているだけで、自己啓発系の就活マニュアルにあるような内容に終始している。

 題の過激さにひかれて、本書を手に取ってみたが、「就活」というこの日本独特の制度の問題点を洗い出して、就活という制度それ自体を見直そうとする問題意識は、本書からはほとんど感じられなかった。著者は所詮は「就活屋」であって、その域をまったく超えていない。実際、現在の就活のあり方を固定している大きな要因の一つである就職支援業界の利益構造という問題には、ものの見事に一切触れていない。

 もちろん、これから就活という日本の不合理な制度に直面しなければならない学生は、読む価値はあると思う。学生時代の貴重な時間を自分のキャリアに全くつながらない小遣い稼ぎだけのアルバイトで過ごすべきではなく、著者の言うようにインターンシップなどキャリアに結びつく活動をするべきだ。しかし、本書は題から期待できるような内容ではまったくなかった点が非常に残念。