PR|記事内に広告が含まれています。

「年功序列」の正体──日本型雇用の制度的背景を読み解く:職能給と職務給の違いから考える

企業の闇 労働・就職
Articles
広告

年功序列とは?

 年功序列は、終身雇用と並ぶ「日本型雇用」の典型とされ、特に大企業や官公庁で広く採用されてきた人事制度である。年齢や勤続年数を評価基準の基礎とし、役職や賃金を決定する仕組みであり、能力や成果よりも在職期間が重視される。だが、勤続年数を人事評価において優先する人事慣行として広く捉えれば、中小を含めた日本の企業のほとんどに見られるきわめて一般的なものだといえる。

 高度経済成長期を通じて、年功序列が日本企業の間にあまりにも広範に広まったせいもあって、年功序列はあたかも日本の「文化」であるかのような理解がなされてきた
 しかし、90年代に入って日本経済が長期停滞を始めると、この人事制度に歪みが現れ始め、多くの労働問題、社会問題を生む要因になっている。今では、年功序列という制度は、経済が成長し続けるという前提の下にしか成り立たないということが明らかになりつつある。

 年功序列は高度経済成長という一時的な経済状況の下で成立した制度に過ぎない。経済が右肩上がりで成長することを前提とした仕組みであり、成熟経済や人口減少社会では持続困難である。特に市場の変化が激しく、企業に柔軟な対応力や革新性が求められる時代においては、保守的で変化を嫌う年功序列的な組織文化が、むしろ企業改革の足かせとなっている。
 時代にそぐわなくなれば、当然弊害の方が目立つようになるし、そうなれば年功序列に代わる新たな制度を模索していく必要があるだろう。

 今の日本は、この当然と思われてきた制度を見直さなければならない時期にさしかかっている。年功序列とは一体どのような制度だったのか今ここで考え直してみたい。

職務給と職能給

 年功序列という言葉は、今では広く当たり前のように使われている。
 だが、多くの人は、年功序列について、年齢や勤続年数に応じて昇給、昇進していく人事制度と漠然とした理解はしていても、それがもたらす社会的な意味を明確に理解をしている人は少ないのではないだろうか。

 海外、特にアメリカで一般的な給与体系である職務給と対比させるとその本質が非常に分かりやすくなる。

職務給とは?

 職務給は、労働者の「職務内容」に基づいて給与を決定する制度である。営業、人事、会計など、細かく分類された業務ごとに給与水準が設定されており、担当する職務が明確に規定される。業務内容に対する範囲の明確さと説明可能性の高さがその特徴だ。そのため、採用や評価の基準も明確になる。

 企業は労働者の専門性や職歴、技能などを重視して人材を採用・評価する。したがって、労働者にとっても、自分に求められるスキルやキャリアパスが明確であり、専門性を高めることに集中しやすい。自らの職業人生を主体的に設計できる制度だといえる。

職能給とは?

 職務給に対し、日本の年功序列といわれる人事評価が行われているところでは、職能給が一般的だ。

 日本で一般的な「年功序列」は、「職能給」という制度と強く結びついている。職能給は、労働者の職務遂行能力によって給料額を査定する制度だ。職務内容に関わらず、個人の職務遂行能力を評価するという点で、属人給といえる。

 職能給では、人事評価が業務内容から独立している。そのため、企業側は業務内容を予め指定する必要がなく、比較的自由な人材採用や人事異動が行える。
 しかし、これは労働者からすれば自分に何が求められているのかが事前には分からない、ということでもある。配属先すら不明の場合も多い。
 業務内容は、人事部の決定や直属の上司の指示によってその都度決定されていく。そのため人材採用の時点では、専門性や特殊技能はほとんど問われない。特に職歴のない新人を採用する場合は、学歴だけが評価の対象になりやすい。専門性や業務内容を基準として採用するわけではないので、実際の職務にあたる際は、職場内研修 (On the Job Training) によって、現場に入ってから仕事内容を覚えていくことになる。

職能給の問題点と年功序列の形成

 職能給が最も課題を抱えるのは人事考課(評価)の場面である。個人の職務遂行能力を公平かつ客観的に評価するためには、精緻で透明性のある基準が必要だが、それを策定するのは非常に困難である。特に、日本企業のように人事異動が比較的容易で職務内容が頻繁に変わる環境下では、なおさら評価基準が不透明で曖昧なものになりやすい。

 結果として、評価において最も分かりやすく、形式的に「公平」に見える年齢や勤続年数が重視され、年功序列が人事制度として自然に定着していく。

年功序列がもたらした日本型雇用の「文化」

 職能給は、企業にとって比較的柔軟な採用と配置転換を可能にする一方、個人の専門性を軽視する傾向を生みやすい。日本企業は、特に高度経済成長期のように市場が安定して成長していた時期にこの傾向を強め、年功序列と密接に連動したさまざまな雇用慣行を発展させた。
 こうして生まれた雇用慣行は、さらにガラパゴス的な日本独自の進化を遂げ、ついには年功序列と終身雇用、専門性を重視しない大学新卒者の一括採用という「文化」を生み出したのである。

日本の雇用制度を理解するために

 年功序列は、高度経済成長期に日本社会に根付いた人事制度の結果であり、その背後には職能給という制度的な土台が存在する。その特徴と課題を理解するには、職務給との比較を通じて、雇用のあり方そのものを問い直すことが必要である。

コメント

タイトルとURLをコピーしました