「スマホ無規制世代」が生む新たなリスク
──SNSと脳、そして若年犯罪の構造(全4回)第3回
第1回 第2回 第4回
高齢者だけではない!? 特殊詐欺の低年齢化
刑法犯認知件数の総数は、2003年(平成15年)から2021年(令和3年)まで一貫して減少してきた。しかし、2025年(令和7年)は77万4,142件(前年比+3万6,463件、+4.9%)となり、4年連続で前年を上回るなど、増加傾向に転じている。
なかでも注目すべきは、特殊詐欺の急増である。認知件数は前年比31.9%増と大幅な伸びを示し、被害額も1,414億円を超えて過去最悪を更新した。
日本の詐欺犯罪は、いま質的転換の局面にある。従来は高齢者を主な標的としていた特殊詐欺は、現在では若年層へと急速に拡大しているだけでなく、同時に若者自身が犯罪の担い手として組み込まれる構造へと変化している。単なる件数の増加にとどまらず、詐欺の対象と担い手の双方が変化しているのだ。
では、この変化の背景には何があるのか。特殊詐欺は、被害・加害のいずれにおいても、インターネットとスマートフォンを起点として拡大している。とりわけ、20代・30代が加害・被害の両面で巻き込まれている背景には、スマートフォンやSNSに無規制で接続されたまま育った世代の台頭という構造的要因を見て取ることができる。
出所/参考
・令和7年の犯罪情勢 (PDF) – 警察庁
1. 詐欺は「高齢者の問題」ではなくなった
2025年の警察庁データは、従来の常識を明確に覆している。
特殊詐欺の認知件数は27,758件(前年比+31.9%)、被害額は約1,414.2億円(同+96.7%)と、いずれも過去最悪を更新した。被害額は前年のほぼ2倍に達しており、被害の深刻化が際立っている。
| 年度 | 特殊詐欺の認知件数 | 被害額(億円) | 既遂1件当たりの被害額(万円) |
|---|---|---|---|
| 令和7年 (前年度比) | 27758 (+6715, +31.9%) | 1414.2 (+695.4, +96.7%) | 521.8 (+171.5, +49.0%) |
| 令和6年 | 21043 | 718.8 | 350.3 |
しかし、より重要なのは被害者の属性の変化である。被害者の半数近くが60歳未満となり、特に20代・30代の認知件数は前年比で2倍以上に増加した。特殊詐欺はもはや高齢者中心の犯罪ではなく、若年層へと急速に拡大している。
| 年度 | 特殊詐欺種別 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 |
|---|---|---|---|---|---|
| 令和7年 | 全体 (前年比) | 3042 (+1650, +118.5%) | 3143 (+1923, +157.6%) | 2505 (+1245, +98.8%) | 4394 (+468, +11.9%) |
| オレオレ詐欺 (前年比) | 1744 (+1363, +357.7%) | 2268 (+1736, +326.3%) | 1632 (+1105, +210%) | 1409 (+888, +170%) | |
| うち)ニセ警察詐欺 | 1676 | 2214 | 1592 | 1353 | |
| 令和6年 | 全体 | 1392 | 1220 | 1260 | 3926 |
| オレオレ詐欺 | 381 | 532 | 527 | 521 |
この構造変化を象徴するのが、「ニセ警察詐欺」の急増だ。
この手口は令和6年頃から被害が報告され始めた比較的新しい類型であり、警視庁は令和7年1月からオレオレ詐欺の一類型として統計上の把握を開始している。認知件数は10,936件、被害額は985.4億円に達し、特殊詐欺全体の中核を占める規模に拡大した。実際、オレオレ詐欺(認知件数14,393件、被害額1,121.0億円)の内訳の大部分をニセ警察詐欺が占めている。
さらに注目すべきは、その年齢構成である。ニセ警察詐欺では30代が最多、20代がそれに続くという、従来には見られなかった分布となっている。
ニセ警察詐欺の拡大は、若年層への特殊詐欺被害の広がりを直接的に押し上げる要因となっている。
さらに、SNS型投資詐欺も急拡大している。認知件数9,538件、被害額1,274.7億円と大幅増となり、YouTubeのバナー広告やInstagramのダイレクトメッセージを起点とした誘導が急増した。著名人を装う手口は前年比で21倍に跳ね上がっている。
インターネットバンキングを通じた高額送金も増加しており、若年層がデジタル経路で集中的に狙われている実態が浮かび上がる。
| 年度 | SNS型投資詐欺の認知件数 | 被害額(億円) | 既遂1件当たりの被害額(万円) |
|---|---|---|---|
| 令和7年 (前年度比) | 9538 (+3125, +48.7%) | 1274.7 (+403.6, +46.3%) | 1342.7 (-15.8, -1.2%) |
| 令和6年 | 6413 | 871.1 | 1358.5 |
もはや詐欺は「電話と高齢者」の問題ではない。SNSと若年層の問題へと構造転換している。
出所/参考
・令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値) – 警視庁
2. ほぼ全員がネットに接続する世代の出現
この変化を支えている基盤が、インターネットとスマートフォンの低年齢への普及だ。
内閣府・こども家庭庁の調査によれば、青少年(10〜17歳)のインターネット利用率は98.2%に達し、そのうち84.8%がスマートフォンを利用している。また、インターネットを利用する青少年のうち、92.3%がスマートフォンを子ども専用として保有しており、親との共有は4.9%にとどまる。
さらに、低年齢層(0〜9歳)においても78.5%がインターネットを利用しており、日本では極めて早い段階から広範な普及が進んでいる点が特徴である。インターネット環境は一部の年齢層に限られたものではなく、幼少期からほぼ全面的に行き渡っている。
| 年齢 | インターネット利用率 | インターネット利用時間 |
|---|---|---|
| 通園中 (0~6歳) | 72.7% | 1時間49分 |
| 小学生 (6~9歳) | 91.4% | 2時間24分 |
| 小学生 (10歳以上) | 97.2% | 3時間44分 |
| 中学生 | 98.1% | 5時間2分 |
| 高校生 | 99.4% | 6時間19分 |
重要なのは、これが単なる普及ではなく、「規制なき普及」である点だ。
日本ではSNS利用年齢を法的に直接制限する制度は存在せず、フィルタリングやペアレンタルコントロールの導入も推奨にとどまっている。スマートフォンやSNSの利用は、実質的に家庭や本人の自己責任に委ねられている。
しかし、その家庭内統制も十分に機能しているとは言い難い。「インターネット利用に関する家庭内ルール」の有無についての調査では、青少年の3割以上、低年齢層でも2割近くが、ルールがない、または内容を認識していないと回答している。さらに、青少年と保護者の回答には乖離が見られ、十分なコミュニケーションや合意形成がなされていない実態が浮かび上がる。
| 年齢 | ルールを決めている | ルールを決めていない | わからない・無回答 |
|---|---|---|---|
| 青少年 (10~17歳) | 67.5% | 25.1% | 7.4% |
| 青少年保護者 | 77.8% | 20.7% | 1.5% |
| 低年齢層 (0~9歳) 児童の保護者 | 81.6% | 17.0% | 1.4% |
また、インターネットに関する啓発や学習の経験について、「ある」と回答した青少年は85.1%にとどまっている。これは、青少年のインターネット利用率である98.2%を下回っている。
つまり現在の若年層は、
- 極めて早い幼少期からインターネット環境に接していること
- 家庭環境に依存した規制のない利用が行われていること
- 十分とは言い難いリスク教育しか受けていないこと
という三つの状況下で成長している。
出所/参考
・令和6年度 青少年のインターネット利用環境実態調査調 (PDF) – 子ども家庭庁
3. リスク認識の歪みが「騙されやすさ」を生む
このような環境が生み出すのは、単に、不適切な利用習慣というにはとどまらない。より本質的なのは、リスク認識そのものの歪みである。
SNSのアルゴリズムは利用者の関心や嗜好に最適化され、「自分にとって魅力的な情報」を優先的に提示する。その設計は、発達途上にある児童の認知や判断力に強く作用する。
結果として、偽広告や詐欺的勧誘が日常的な情報の延長として受け取られやすくなり、「簡単に稼げる」といった都合の良い情報だけが選択的に蓄積される。また、オンライン上の人物に対する信頼判断も相対的に甘くなる傾向が生じる。
現代の青少年は、SNSの危険性に対する社会的認識が十分に確立されていない時期から、無自覚のまま、アルゴリズムによって最適化された情報環境に晒されて育っている。その結果、「情報に慣れている」という自覚とは裏腹に、情報の信頼性を批判的に検証する力が十分に育っていない。
いわゆるデジタルネイティブ世代は、技術的な操作能力には長けている一方で、アルゴリズムにより構築された情報環境の構造的リスクに対しては無防備かつ無自覚である。そのため、むしろ詐欺や不正勧誘に対して脆弱な層として浮上している。
したがって問題の本質は、アルゴリズムによって形成される歪んだ認知環境と、それに対抗するリテラシー教育の不十分さにあると言える。
4. 若者は「被害者」であると同時に「加害者」でもある
問題は若年層の被害の拡大だけではない。若者は同時に、犯罪の担い手としても急速に取り込まれている。
令和7年、匿名・流動型犯罪グループ(いわゆるトクリュウ)によるとみられる資金獲得犯罪の検挙人員は6,679人(前年比1,476人増、28.4%増)に達した。このうち詐欺が3,075人(同420人増、15.8%増)と、全体の46.0%を占めている。
年齢別にみると、20代前半が23.4%で最多となっており、20代までの若年層が全体の約6割を占める。
また、検挙人員の約3割は、SNS上の犯罪実行者募集情報を契機として犯行に加担しており、SNSが犯罪参加の主要な入口となっている実態が明らかとなっている。
その典型が、いわゆる「闇バイト」である。SNS上では、高額報酬をうたう投稿を起点にして、匿名性の高いアプリで接触が行われ、断片的な指示によって犯罪が実行される。
この構造では、指示役は匿名化される一方で、実行役は流動的に入れ替えられる。また、一度関与すると、個人情報を取られていることから離脱が困難になる点も特徴である。
こうした仕組みは、スマートフォンとSNSを前提とする世代の行動特性と強く適合している。匿名的な関係性への心理的抵抗の低さや、オンライン上の危険に対する認識の弱さが、結果として犯罪構造への取り込みを容易にしているのである。
出所/参考
・令和7年の犯罪情勢 (PDF) – 警察庁
5. 無規制環境が「犯罪の入り口」になっている
日本では、スマートフォンやSNSの利用に関して、年齢制限を法的に直接規制する制度が存在しない。青少年インターネット環境整備法も、フィルタリングの推奨などを定めるにとどまり、利用そのものを制限する仕組みではない。
このため、児童のインターネット利用は基本的に各家庭の判断に委ねられている。しかし実態としては、2〜3割の家庭で明確なルールが設けられておらず、子どもに利用を任せている状況がある。
その結果、多くの子どもたちは、極めて低年齢の段階から、ほぼ無制限にSNSへアクセス可能な状態に置かれている。
こうした環境のもとで、子どもや若者が、オンラインゲームやSNSを通じて犯罪者と接触し、勧誘や誘導を受け、十分な警戒心を持たないまま加担してしまうという経路が常態化している。
幼少期は、情報の持つ意味を正しく理解できない時期だ。この時期から無制限にインターネットに接することは、コミュニケーションや情報取得の機会を与えるという利点よりも、むしろ犯罪への接続経路として機能してしまう危険性のほうが大きい。
実際、トクリュウ型犯罪の実行犯の一定割合は、SNS上の募集情報を契機として犯行に関与している。
つまり、現在の日本においては、スマートフォンとSNSが、制度的空白の中で、若年層を犯罪へと接続する実質的な「入り口」として機能しているのだ。
6. 結論
以上を踏まえると、現在進行している詐欺被害の低年齢化や若者の犯罪流入は、個々人のモラルや注意力といった問題だけでは説明できない。
むしろそれは、
- スマートフォンの早期普及
- SNSの無規制利用
- そして不十分なリテラシー教育
といった環境の中で形成された「スマホ無規制世代」という制度的空白によって引き起こされている現象だ。
そして、この世代は今後も拡大していくことが予想される。
問われるべきは個人の自己責任ではなく、こうした環境そのものの設計である。規制なき接続を前提とした社会のままでは、犯罪の低年齢化を抑止することは困難だろう。



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