AIによって雇用は奪われるのか──
AIと日本の雇用を考える(全3回)第1回
第2回 第3回
AIによって職が奪われる?! ─ 日本の雇用の行方
AIによって仕事が奪われる──
こうした議論は世界的に広がっている。2025年、米国では Amazon、Meta、Microsoft などの大手IT企業がAI投資拡大と同時に大規模なレイオフを実施し、「AI=雇用削減」という印象が強まった。
では、日本ではどうか。
日本は現在、構造的な人手不足局面にある。AI導入は雇用削減をもたらすのか、それとも労働力不足の緩和に寄与するのか。本稿では、以下の統計調査をもとに実態を整理する。
参照調査
- OECD
Artificial Intelligence and the Labour Market in Japan(2025年) - マイナビキャリアサーチLab
企業人材ニーズ調査2025年版(2026年) - 公益財団法人日本生産性本部
日本の労働生産性の動向2025
1. マクロで見た結論:大規模な雇用喪失は確認されていない
複数調査を総合すると、日本ではAIによる広範な失業増加は現時点では確認されていない。
背景には以下の構造要因がある。
- 慢性的な労働力不足
- 長期雇用慣行
- AI導入率そのものの低さ
つまり、日本では「雇用削減圧力」よりも「人手不足圧力」のほうが依然として強い。
2. 人員削減の実態:影響は限定的
労働者側の認識
- 「自社または同業他社でAIによって職を失った人を知っている」
→ 全産業平均 4.3%
これは、体感レベルでの影響がまだ限定的であることを示す。
AI導入企業に限定すると
- 金融・保険業:12.9%
- 製造業:15.0%
導入が進んでいる業種では影響が顕在化しつつあるが、それでも多数派ではない。
採用担当者調査
- 「既にAIの影響で人員削減が出ている」
→ 全体の12.3%
結論:一部企業・一部業種では影響が確認されるが、マクロ的な雇用減少には至っていない。
3. 企業規模による格差
AIの影響は企業規模によって異なる。
| 企業規模 | 「既に影響あり」 |
|---|---|
| 1,000人以上 | 16.2% |
| 300人未満 | 影響なしとの回答が多数 |
さらに中小企業では、
- 83%が「生成AI導入後も必要スタッフ総数は変化なし」と回答
日本では中小企業が雇用の約7割を占める。
このセクターで雇用削減が進んでいないことは、マクロ統計上の安定性を説明する重要要因である。
4. そもそも日本はAI活用が遅れている
AI導入率自体が国際的に低い。
- 日本で仕事にAIを利用している従業員:8.4%
- 生成AI利用:6.4%
これは比較可能国の中で最低水準。
特に金融・製造といった主要産業では、米国との差が30ポイント以上開いている。
日本では「AIによる雇用破壊」以前に、「AI活用の遅れ」が競争力リスクとなっている。
5. 不安は高いが、実害は限定的
興味深いのは心理面との乖離である。
今後10年間について:
- 金融・保険業:73.8%が失職不安
- 製造業:71.3%が失職不安
さらに、
- 「現時点では影響なしだが、今後影響が出そう」
→ 22.9%
この背景には、
- AI導入の急速な進展予測
- スキル陳腐化への懸念
- 終身雇用制度の将来的持続可能性への疑問
が存在すると考えられる。
実態以上に将来不安が先行している構図が明確である。
6. 雇用創出への期待
一方でAI利用者の間では、
- 「雇用機会は減る」よりも
- 「新たな雇用機会が増える」
とする回答が上回っている。
これは技術革新に伴う職種転換(job transformation)が主シナリオであり、単純な職の消滅ではない可能性を示唆する。
日本は「雇用破壊」より「雇用再編」段階
統計的に整理すると、日本のAIと雇用の関係は次のようにまとめられる。
- 大規模失業は確認されていない
- 影響は大企業・特定業種に限定
- 中小企業では雇用維持が主流
- 導入率が低いため影響も限定的
- 不安は高いが実態との乖離あり
したがって、現段階の日本は
「AIによる雇用破壊局面」ではなく「限定的な雇用再編の初期段階」
にあると評価できる。
今後の論点
- 生産性向上と雇用の両立は可能か
- リスキリング投資は十分か
- AI活用の遅れは国際競争力を損なわないか
日本の課題は「AIで雇用が減るか」よりも、
AIを活用できず、成長と賃金上昇を逃すリスクのほうが大きい可能性がある。



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