PR|記事内に広告が含まれています。

偽装請負とは何か? – 派遣よりさらに劣悪な労働条件

企業の闇 労働・就職
Articles
広告

労働者派遣の自由化とその影響

 偽装請負(ぎそううけおい)とは、日本において、契約が業務請負、業務委託、委任契約もしくは個人事業主であるのに実態が労働者供給あるいは供給された労働者の使役、または労働者派遣として適正に管理すべきである状況のことである。

偽装請負 – Wikipedia

 1999年の労働者派遣法改正により、港湾運送、建設、警備、医療、製造業を除くほぼすべての業務で労働者派遣が解禁された。さらに2004年には製造業にも解禁が及び、実質的に派遣労働は完全自由化された。

 この法改正により、2000年代以降、派遣労働者の数は急速に増加し、2016年には約130万人、労働人口の2~3%を占める規模にまで拡大した。

 派遣労働者は、その多くが有期雇用であり、非正規雇用に当たる。いつでも解雇できる存在として、雇用の調整弁としての役割を不当に押し付けられている。
 このような極めて不安定な雇用形態であるにもかかわらず、90年代以降の長期化するデフレ経済下で、人件費の圧縮を図りたい企業によって、拡大の一途をたどってきた。

 労働者派遣法の規制緩和は、非正規雇用の増加と賃金格差の拡大を招き、深刻な社会問題となった。

 本法には多くの課題があるものの、それでもなお、派遣労働者に対する最低限の保護規定は設けられている。

 しかし一部の日本企業は、労働者派遣法に定められたその最低限の労働者保護規定すら遵守せず、法の抜け道を使って回避するようになった。その代表例が「偽装請負」と呼ばれる違法行為である。

偽装請負とは?

 偽装請負(または偽装委託)は、実態が派遣労働であるにもかかわらず、請負契約を装って労働者派遣法の適用を逃れようとする手法である。これは職業安定法、労働基準法、労働者派遣法など、複数の労働関連法に違反する違法行為である。

 具体的には、派遣労働者を「請負契約による外注先の従業員」や「個人事業主」と見せかけ、企業が本来負うべき使用者責任から逃れようとする。

請負契約と派遣契約の本質的な違い

 請負というのは、「労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法)」をいい、業務の成果にのみ責任を負う
 その業務の遂行方法や人材配置はすべて受注側(請負業者)の責任で行われる。発注側(発注元)は、請負労働者に直接指示を出すことも、勤怠管理を行うことも、人数を指定することもできない。つまり、発注者が、発注先の労働者に指示を与えたり、管理下に置くことは許されない。

 しかし、偽装請負の場合、契約上は請負や業務委託などの形式をとっていながら、実際には、発注元に人材を送り、現場従業員の指揮下で働くという形がとられる。実態は派遣労働だ。

 偽装請負の大きな問題は、労働者の管理責任の所在が曖昧になる点にある。それを避けるために、以下のような行為が、すべて請負契約上決められている。

  • 発注元が発注先の従業員を直接指揮命令系統下に置いてはならない
  • 発注元が従業員数を指定してはならない。また退勤管理を行ってはならない。
  • 発注元が就業場所や勤務形態を指定してはならない。

 本来、請負業務であれば、請け負った業務の成果を達成するために、どのような人材をどのように使うかは、請負業者の問題であって、それに発注元が介入してはならない。

 さらには、発注元の現場で働かせることも本来は避けるべきことで、極めてグレーゾーンだと言える。発注元の現場で現場従業員と混合で働かせると、どうしても発注元の指揮命令系統が発生しやすいからだ。

 もし、発注者の現場で働かせたとしても、その現場の就業規則に従わせてはならない。

 こうした直接の管理がすべて禁止されているのは、使用者責任が曖昧になり、労働者の管理、保護がなおざりになるのを避けるためだ。

偽装請負が労働者にもたらす不利益

 偽装請負の形式で、働いた場合、労働者にはどのような不利益があるのだろうか。
 労働者側からすると、請負の場合、形式上は「業務委託契約」であるため、労働者は受注先の従業員ではなく、「外注先の作業員」という扱いになる。発注者の使用者責任の枠外に置かれてしまう。
 さらには、もし仮に「個人事業主」として契約させられていた場合は、労働基準法をはじめとする労働者保護法制の適用対象から外れ、最低賃金、労働時間、休憩、残業代、安全配慮義務など、通常の労働者が受けるべき保護が全て受けられなくなる。

 また、偽装請負によって派遣契約の体裁を避けることで、派遣法上の保護措置も回避されてしまう。

 たとえば、派遣労働であれば、同一の派遣先で3年以上継続して働かせることは原則として認められておらず、3年を超えて継続勤務する場合には、派遣先企業が労働者に直接雇用を申し入れる義務が生じる(改正労働者派遣法)。

 この制度は、派遣という不安定な雇用形態のまま長期間働かせることを防ぐためのものだが、偽装請負を使えばこの規制を回避し、企業は労働者を半永久的に非正規のまま、低コストで使い続けることが可能になる。

 つまり、偽装請負によって、企業は使用者責任を免れつつ、労働者は労働者としての保護を一切受けられない状態に置かれる。このような構造は、労働者の地位と権利を著しく損なう違法かつ悪質な行為である。

企業が請負を悪用する背景

 企業が派遣社員を活用する目的は、人件費の削減にとどまらず、節税の手段としても機能している。

 本来、人件費は固定費であり、削減や調整が難しい(下方硬直性を持つ)。しかし、派遣社員の給与は「外注費」として計上されるため、変動費として扱える。これにより企業は、経費として柔軟に管理できるうえ、外注費には消費税が含まれるため、仕入税額控除を利用して納税する消費税額を軽減することも可能となる。
 さらに、直接雇用で必要となる社会保険料や福利厚生費も発生しないことから、派遣労働は企業にとって極めて「都合のよい」コスト削減手段になっている。
 派遣がいかに会社にとって都合のいいものであるかがはっきり分かる。

 偽装請負はさらに悪質で、税務処理上、さらに節税効果がある。

 資本金一億円以上の企業には、所得金額に対して事業税のほかに、外形標準課税が課せられる。これは資本金と人件費を基準にして課税される仕組みだが、請負契約に対する支払い額はこの課税の対象外である。一方、派遣契約の場合は費用の75%が課税対象となるため、偽装請負を使えば、企業は実態としての労務管理を行いつつも、課税を回避できる。

 つまり、偽装請負は、労働法上の違法行為であるだけでなく、脱税に等しい税逃れ行為であり、二重に悪質な構造を持っている。

なぜ日本企業には倫理観が欠落しているのか

 労働環境の悪化が叫ばれるようになってすでに久しい。景気低迷が長引く中で、労働環境はますます悪化の一途を辿っている。
 日本では多くの企業が、現場の労働者に過度の負担を押し付けることで不況を乗り切ろうとする極めて安易な経営に陥っている。その結果、現場の疲弊や長時間労働の常態化、そして世界的に見ても低水準の労働生産性という深刻な事態を招いている。

 労働者を企業の直接の指揮下に置いて働かせるのであれば、労働者派遣法に則り、適切な手続きで派遣労働者として受け入れるべきである。さらに、長期にわたって就労させる場合には、直接雇用へ切り替えるのが原則だ。使用者責任から逃れようとすることは、法の趣旨にも社会倫理にも反している。

 労働者はコスト削減の道具でも、使い捨ての存在でもない。すべての労働者に対して正当な待遇と権利が保障されるべきであり、それこそが持続可能な経営の土台となる。

 経営者が、自らの都合で労働者を使い捨てにできると考える限り、企業からは次第に活力が失われていくだろう。いや、その結果がすでに顕在化しているのが、今の日本経済の停滞した現状なのかもしれない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました