深夜営業は必要か?- すき屋の報道から考える

深夜営業は必要か?

 牛丼チェーン店すき屋を運営するゼンショーが、2014年4月から12月期の連結決算が最終損益24億円の赤字になると発表した。昨年から、深夜の店舗運営を従業員一人ですべて行わせていたことが問題となっていたゼンショーだが、人手不足を理由に深夜営業を休止したことが、業績悪化の要因の一つと見られている。

日本経済新聞

ゼンショーホールディングスが10日発表した2014年4~12月期の連結決算は、最終損益が25億円の赤字(前年同期は7億1…

 日経の記事によれば、客数は2%減にとどまっているので、輸入原材料の高騰と深夜営業の停止がやはり大きく響いたのだろう。固定費を回収できない店舗が出てきているようだ。
 すき屋は人手不足が解消されれば、深夜営業を順次再開していく方針のようだが、深夜営業をそこまでして継続することに何か意味があるのだろうか。
 今回のすき屋の一連の報道を見て、深夜営業についてちょっと考えてみた♡

労働者を犠牲にして成り立つ経営

 牛丼屋、コンビニ、ファミレス、ハンバーガーショップなど24時間、年中無休の開店を前提にして店舗経営を行っている企業は多い。
 すき屋が深夜営業を停止した途端、減収に転じたように、コンビニや外食産業のなかには、このような過剰な長時間営業によってはじめて営業利益が上がるような経営を行っている場合もある。しかし、24時間年中無休で、しかもそれを最小限の従業員(時には一人)で店舗運営を行って、はじめて営業利益を確保できるという経営は、果たして正しいといえるだろうか。

 こうした業種は一時期、デフレ時代の勝ち組などともてはやされていたが、このような経営で一企業が利益を上げたとしても、社会全体から見れば、むしろ損失と思える部分が多い。
 非正規雇用を増やして格差を助長するだけだし、深夜営業は犯罪を誘発している。また単純労働だけに従事する外国人労働者を増やすことにもつながっている。

 労働環境の悪化を代償として、利益を上げるような経営は、もう許されるべきではない。現在の労働問題は、産業それ自体の性格によるものではなく、企業の経営方針そのものに由来している。この点が、現在のブラック企業の問題とかつての労働問題との違いだろう。
 労働環境が劣悪な仕事というのは、かつても存在したし、今でもそれを改善する余地のない業種というものも存在する。たとえばかつての炭鉱労働や遠洋漁業など、仕事それ自体が過酷で、企業努力によって状況を改善することにはおのずと限界があった。だからこそ、法による保護と組合による権利の保障が必要だった。
 しかし、近年問題にされているブラック企業というのは、労働そのものが過酷な業種というわけではない。企業自らが、自社の経営方針の結果として、苛酷な労働環境を作り出している。

・深夜営業
・最少人数の店舗運営
・非正規雇用者中心の従業員

 サービス業で蔓延するこのような経営は、原価率や販管費率を極端に圧縮することで成り立っている。

 そもそもコンビニや牛丼屋が24時間365日営業する必要が本当にあるのだろうか。経営者側は、一日12時間営業するのも、24時間営業するのも固定費に大きな差は生じないので(限界費用は同じ)、24時間年中無休で店舗を開店させたほうが利益が上がると判断するだろう。
 つまり、24時間365日営業するような過剰なサービス提供は、企業側が必要としていることであって、消費者側の要望に応えて行われているものとは考えにくい。

消費者側の問題点

 消費者はこのような過剰なサービス提供に慣らされすぎている。しかし、本当にこのようなサービスを自分が必要としているのか、もう少し冷静に考え直してみるべきだ。

 コンビニ店舗数が全国で5万店舗、牛丼屋が4千店舗もあり、それがすべて横並びで、地域差も一切考慮せず全国で24時間年中無休の営業を行っている。
 最近では、このような営業形態が他業種にまで飛び火していて、スーパーの24時間営業なども見られるようになった。年中無休などはすでに当たり前のようになっている。(元旦から営業している地元のスーパーを見ていると、確かに便利だが本当にそれでいいの?と思う。)必要性のほとんどない過剰なサービスだろう。実際、このような営業形態を全国的に許している国は、海外ではほとんど見られない。

 日本の提供過剰は、企業側の都合であって、消費者利益の拡大でも利便性の増大でもなんでもない。
 当たり前だが、消費者は同時に労働者でもある。消費者は、最終的にはまわりまわって自らの首を絞めているだけ、ということに気付かないのだろうか。店舗を開けるということは、そのために商品の流通を維持し、製造工場も稼動させなくてはならないということだ。このようにして連鎖的にさまざまな業種に関わる労働者が、長時間休日労働を迫られることになる。

非効率な労働力

 デフレ経済下の薄利多売は、このような多店舗展開と過剰な長時間労働を強いることによってはじめて収益が確保されている。まるで人海戦術のような経営だ。労働力を無駄に使い捨てているだけの極めて効率の悪い経営手法だといえる。

 人材や労働力をまったく活かせていない非効率な労働は、日本の企業の中ではいたるところでみられる。ほとんど客の来ない深夜に店舗運営を任されるアルバイト、ティッシュとビラ配りのためだけに何時間も外にたたされ続ける従業員、このような労働力の無駄な浪費が日本では多すぎる(どこの会社も無駄な会議ばかりやってないですか?)。
 その結果は、日本の労働生産力の低さとして如実に表れている。一人当たりGDPは、世界で24位だ。アメリカ人の7割程度の生産力しかない。休日日数も少なく、労働時間は長いのに、それがまったく生産性につながっていない。非効率な労働に無駄に人材を浪費するだけで、効率的な働き方を促進する制度をうまく構築できない企業があまりにも多すぎる。ほんとにまともな経営者のいない国だ。

2023年の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキングを掲載しています(対象: 世界、191ヶ国)。…

 今回、すき屋の件で、深夜の一人運営を問題視する人は多かったが、深夜営業そのものに疑問を抱く人は少なかったのではないだろうか。むしろ私は、深夜営業当たり前という感覚の大多数の日本人の方に違和感を覚える。

 そりゃなかには夜中の2時に牛丼食べたい、という人もいるだろう。夜中の4時に、洗剤買わなきゃ!という人もいるかもしれない。しかし、全国で数万にも及ぶ店舗が、横並びですべて開けなくてはいけないというものではない。駅前の数店舗だけ開けておけば、それで十分需要には応えられるはずだ。
 たとえ24時間年中無休という店舗がなくなったとしても、消費者がもう少し計画的な買い物を普段から心がけていれば、それで済む話だ。まずは、消費者が賢くならなくては、ブラック企業をはじめとした日本の労働問題は解決しないだろう。