アネクドート(анекдо́т、anekdot)とは、ロシア語では滑稽な小話全般を指すが、日本ではそのうち特に旧ソ連で発達した政治風刺の小話を指して用いられることが多い。
どうしてもロシア人というと、すごく硬い印象があって、常に厳つい顔しているような人たちって勝手に思っていたが(たぶん、8割ぐらいプーチンのせい)、この前、ふとしたきっかけで、ロシアの方と話す機会があった。
まぁ、ともかく陽気で、親切。ときどきshyなところもあって、日本人としては非常に話が合いやすいように感じた。
もちろん個人の問題だから、「国民性」といった怪しげなものに、すぐに一般化するのは慎むべきだろうが、ロシア人に対する印象がかなり変わったのは確かだ。
そのとき、ふと思ったのだが、ロシアのお笑いというか、comedyってどんなものがあるんだろうと疑問に感じて、あとでnetでちょっと調べてみた。
そこで見つけたのが、アネクドートっていう言葉。
旧ソ連時代の政治風刺なのだけれど、これが結構面白い。Wikipediaにいろいろ上がっていたので、いくつか紹介したい。
独裁者がお忍びで映画館に。ニュース映画では独裁者の映像ばかり。観衆は本人以外大喝采。「あんた、気持ちはわかるけどね、ぶち込まれたくなかったら拍手しなよ」
「お前の職業は?」
「著述業です」
「ふん、労働者じゃないな。ではお前の両親は?」
「商売をしておりました」
「なんだ、ブルジョアか。お前の妻は?」
「貴族の娘です」
「ああ、ダメだダメだ!お前は社会主義国には相応しくない!……あ、一応名前だけでも聞いておこうか」
「……カール・マルクス」
ユダヤ人の会話。「上の兄は○○で社会主義国家を建設している。下の兄も××で社会主義国家を建設している」「他に兄弟は?」「テルアビブに弟がいるよ」「やっぱり社会主義国家を?」「馬鹿言え、何で自分の国で」
スターリンは党大会で報告を読み上げていた。そのとき誰かがくしゃみをした。
「誰だ、くしゃみをしたのは?」(沈黙)「第一列!立て!射殺せよ!」(拍手)
「誰だ、くしゃみをしたのは?」(沈黙)「第二列!立て!射殺せよ!」(長い長い拍手)
「誰だ、くしゃみをしたのは?」(沈黙)…そして背後から落胆しきったすすり泣く声がした
「わたしです。」スターリンは身を乗り出して言った、「お大事に、同志!」
赤の広場で酔っ払いが「ブレジネフはバカだ!」と叫んでいた。直ぐ様KGBが駆けつけ酔っ払いを逮捕、彼は裁判にかけられ懲役22年の判決が下った。
「国家侮辱罪で22年って、凄ぇ重くないんじゃねすかね?」「いや、国家侮辱罪に因るのは2年だけだ」「残りの20年は?」
裁判官が酔っ払いの許へ行き小声で耳打ちした。「国家機密漏洩罪だ」。
ブレジネフが誘拐されて誘拐犯から電話があった。「100万ドル払え。さもないとブレジネフを生かして帰すぞ。」
ブレジネフは母親に自分が偉くなったところを見せて喜んでもらおうと、母親をモスクワへ呼んだ。豪華な執務室・幹部用住宅・幹部用別荘などを連れ回すうちにだんだん母親の顔が暗くなっていくのでわけを聞いたブレジネフに母親曰く、「お前が偉くなってくれたのは確かに嬉しいよ。でもレオニードや、赤軍が攻めてきたらどうするんだい?」
ブレジネフとコスイギン首相の間で、海外に出国する国民が増えている問題が話題になった。
「このままだとソ連に残る者は、我々2人だけになってしまいかねんぞ。」とブレジネフは述べた。
コスイギンは答えた。「2人とは、閣下と誰のことを指すのでしょうか?」
イタリアの女優ソフィア・ローレンがブレジネフを表敬訪問した。
「君の願いなら何でも叶えてあげようじゃないか。」
「じゃあ、亡命したい方は無条件でさせてあげてくださいませんか?」
「おいおい、もしかして君は私と二人きりにでもなりたいのかね?」
ブラント西独首相が神に尋ねた。「神よ、西ドイツ経済はいつ良くなりますか。」神は答えた。「あなたの任期中に良くなる。」
ニクソン米大統領が神に尋ねた。「神よ、アメリカ経済はいつ良くなりますか。」神は答えた。「あなたの任期中には無理だ。」
ブレジネフソ連書記長が神に尋ねた。「神よ、ソ連経済はいつ良くなりますか。」神は答えた。「私の任期中には無理だ。」
こうしてみると、やたらとブレジネフネタは奮ってるなぁ。
ブレジネフの時代(1964-82)は、共産主義経済の失敗が明らかになりつつあり、西側諸国との間の経済格差がはっきりとしてきた頃だ。
厳しい時代に生きていても、希望や期待があるうちは、人間は意外と現状に耐えられるものものだと思う。だが、共産主義への期待も破れて、それが幻滅に変わると、人々は現状に対して、さまざまな不満や鬱憤を持つようになる。
そうした人々の不満が、アネクドートという形で表れていたのだと思う。ブレジネフはまさに格好のネタだったのだろう。もちろん公には出来ないものだったのだろうけど。
だが、そうした人々の不満や鬱憤も限界まで来て、冗談で笑って済ませられるほどではなくなったときに、ソ連は崩壊したのだった。
「最近のアネクドートは、あんまり面白いのがないねぇ」
「そりゃ、ソ連が崩壊したからさ」