「これはもう、九割九分、間違いねぇ!」
まぁ世の中には、威勢のいい啖呵を切る人がいるってものです。
たいそうな自信ですが、世の中には「絶対」というものはありません。
残りの1%で、間違う可能性もあるわけで。
なので、「十割」と言わずに、「九割九分」と言って、一分を残しておくわけですな。まぁ、保険です。
「これはもう、九分九厘、間違いあるめぇ!」
最近ではあまり聞かなくなった表現ですが、今でも「九分九厘(くぶくりん)」を「ほぼ間違いない」という意味で使う人がいます。
威勢のいい啖呵を切っている割には、自信があるんだか、ないんだか、良く分からない言い方です。
9.9%は当たる!と言われても、1割にも満たないのかよ!とツッコミたくなりますな。
が。
早合点は禁物。実は、「九割九分」と「九分九厘」は、同じ割合なのです。
え?99%と9.9%が同じなわけがあるめぇ、って?
いや、日本語では、99%と9.9%が同じになるんですな。ほんと、日本語とは厄介な代物で。
では、なぜ同じになるのか、種明かしをしていきましょう。
尺貫法と十分率
昔の人は、長さや重さの単位に「尺貫法」というのを使っていました。
たとえば、長さは、1丈が10尺、1尺が10寸で、寸が一番小さい単位。
重さは、1貫が100両、1両が10匁(もんめ)で、匁が一番小さい単位、といった具合。
じゃぁ、「寸」や「匁」より小さい場合は、どう表現するかというと、「分・厘・毛」という単位を補助として使っていました。それぞれ上位の単位の「10分の一」を表しています。
これを「%」の「百分率」に対して、「十分率」と言います。
つまり。。。
0.1 = 1分
0.01 = 1厘
0.001 = 1毛
と、なるわけです。
長さであれば、五寸六分みたいな言い方で使います。
で。ここからが本番。
割合を示す単位としては、「割」が使われていました。日本では「十分率」が基本なので、「割」も10分の一を表します。
なので。。。
1割 = 0.1
です。つまり、10%です。
じゃぁ、それよりも小さい割合を示す時はどうするのか?
やっぱり、ここでも「分・厘・毛」を補助単位として使います。それぞれ、上位の単位の10分の一です。
0.1 = 1割なので、それに「分・厘・毛」を加えると。。。
0.1 = 1割
0.01 = 1分
0.001 = 1厘
0.0001 = 1毛
となり、「九割九分」で0.99、百分率で99%となるわけです。
これが今でもよく使われている馴染みのある表現ですな。
しかし、この「割合」を表す表現、そもそもの基準となる「割」がすでに「10分の一」を表しています。「10分の一」である「割」を基準にして、さらにそこから十分率の補助単位「分・厘・毛」を当てています。
本来、「分・厘・毛」は、十分率なので、ある長さや重さを「1」とした場合、先ほど示したように。。。
0.1 = 1分
0.01 = 1厘
0.001 = 1毛
となる単位です。これが尺貫法における「分・厘・毛」の本来の使い方です。
あれ?
割合の時と一桁ずつズレてますね。そりゃぁ、「割合」を示す際は、そもそもの基準の「割」が、0.1から始まるので、一桁ずつズレてしまうのです。
尺貫法で長さや重さの最小単位である「寸」や「匁」を「1」とすると、とーぜん、一分が10%で、「十分」は、100%になります。
不足がない、という意味の「十分(じゅうぶん)」は、ここから来ています。
一分を10%(「十分」で100%)として捉えた場合の表現は、実はけっこうあります。
腹八分目
三分咲き、八分咲き
そんで。。。
「九分九厘(くぶくりん)」もそうした表現のひとつで、「十分」に1厘足りないという意味。百分率で解釈すると、99%になってしまうわけです。
これで、「九割九分」=「九分九厘」という摩訶不思議な計算式が成り立つことになりました。
今も残る尺貫法の表現
割合を表現する単位「割・分・厘・毛」は今でも使われています。
しぶといですな。
しかし、尺貫法の方は、メートル法に置き代わって使われなくなりました。そうすると、割合の表現に釣られて、「分」が「100分の一」を表すという理解が広まってしまいました。
「十分に」という表現も「100%」とは理解されなくなり、「充分」といった当て字が使われたりする有り様。
ですが、本来は「分」は「10分の一」を表す単位で、尺貫法がまだ身近であった時代は、本来の意味での「分」が表現として生きていました。
尺貫法に基づく表現というのは、今でもけっこう残っています。
一寸先は闇
十二分にある(120%あるってことですな)
寸止め
挙げればきりがないので、ここらでやめておきましょう。
昔の表現は、調べるとなかなか面白いですな。