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【吉本闇営業問題】反社との関わりそっちのけで、よしもと「お家騒動」に

漫才 事件・不祥事
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参議院選挙投票日に起きたこと

 7月21日、参議院選挙が行われた。投票率は48.80%と、戦後2番目の低さを記録し、国政選挙で50%を下回ったのは24年ぶりである。特に若年層の投票率の低さが顕著で、10代全体では31.33%、なかでも19歳に限れば28.05%と、2割台にとどまった。

 この選挙期間中、社会全体として国政に対してどれほどの関心が向けられていたのだろうか。多くの人々の注目が、政治ではなく別の話題に集まっていたのではないか——それは、よしもとの闇営業問題だった。

よしもと芸人「闇営業」問題とメディアの注目

 吉本興業に所属していた複数の芸人が、反社会的勢力とされる団体の宴会に無断で出演し、金銭を受け取っていたことが6月初旬に週刊誌で報じられた。いわゆる「闇営業」が発覚した形だ。この問題を受け、吉本は一部の芸人との契約を解除した。

 ところが、この騒動はそれだけにとどまらなかった。報道から1か月以上が経過した7月20日、すなわち選挙投票日の前日、契約解除となった芸人たちが記者会見を開いた。その場で、彼らは当初から謝罪会見を開こうとしたが、吉本興業の社長から「会見をすれば契約解除にする」と止められていたことを明かしたのだ。

 この発言をきっかけに、世論の関心は「反社会的勢力との関係」から一転し、吉本興業の経営体制やパワハラ体質へと向かっていく。芸人側が「被害者」として語られる場面も増え、問題の本質であるはずの「反社会勢力との接点」は次第に論点の中心から外れていった。

 その後、大物から若手まで多くの芸人が相次いで吉本批判を展開し、マスメディアもそれを大きく取り上げたことで、問題は「芸人 vs 吉本経営陣」という社内対立の構図に塗り替えられていった。

選挙と芸能報道の「重なり」

 吉本興業はさらに、選挙当日に社長自らが記者会見を行うと発表。これにより、投票日当日の報道は大半が芸能スキャンダルに割かれることになった。結果として、多くの国民が政治から目をそらされ、選挙とその争点よりも、芸能界の内情に注目することとなった。

吉本社長の歴史的会見

 7月22日、参議院選挙の翌日。吉本興業の社長による記者会見が開かれた。
 正直、それまで芸人の闇営業問題にはほとんど関心がなかったのだが、この会見を見たときには思わず引き込まれてしまった。

 なにしろ、社長の発言は要点が定まらず、質問への受け答えもどこかちぐはぐ。戸惑いや焦りがにじむ様子に、会見は一気に異様な空気に包まれていった。気がつけば、「お笑い」番組的な、妙な引力のようなもので目が離せなくなっていた。
 「ああ、吉本って、やっぱり“人を惹きつける力”はすごいんだな」と、半ば感心しながら見ていた自分がいた。

 歴代の「やらない方がましだった三大悪手記者会見」といえば。。。
・日大アメフト逆切れ会見
・野々村議員号泣会見
・船場吉兆ささやき会見
・吉本社長しどろもどろ会見 ←New!!

 もう歴史に残る会見になることは間違いないだろう。

会見の内容と“ずれていく論点”

 記者会見の中で、吉本興業の社長は、闇営業を行なった芸人に対して、自身の「テープ録ってないやろな」や「全員クビにする力がある」といった脅迫発言について問われた。これに対して社長は、「冗談だった」「場を和ませようとした」と釈明。
 「笑わせるつもりだったが、まったく笑われなかった」といった発言まで飛び出し、まるで“笑ってはいけない記者会見”のような空気が会場に漂っていた。(下手な芸人にやらせるよりよほど面白かったのではないだろうか。)

 終始しどろもどろで、大の大人が涙を浮かべながら語る言い訳は、到底納得できるような内容ではなかった。
(釈明するにしても、もう少し説得力のある説明はできなかったのだろうか。)

 このやり取りだけを見ると、突っ込みどころの多い社長の失態という一場面に見えるかもしれない。しかし、問題はそこではない。この会見の根本的な目的と、その内容がすれ違っていた点こそ、注目すべき論点である。

 この会見が開かれた背景には、芸人側から相次いで吉本批判が巻き起こったことがある。そのため、会見は事務所側の姿勢を示し、彼らの批判に応じるための場として設けられたものだった。会見冒頭、社長は闇営業を行った芸人たちに対する自身の発言について謝罪し、さらに、いったん下した契約解除処分を撤回すると明言した

 一転して、闇営業を行なっていた芸人たちは、被害者となった!!

 この処分撤回の判断は、ある種の“温情的対応”として受け止められた一方で、問題の本質が見えにくくなった瞬間でもあった。
 そもそも問われていたのは、芸人たちが反社会的勢力と接点を持っていたこと、そしてそれに対する事務所としての管理体制や説明責任である。だが会見では、話題の中心が「社長の発言の是非」や「芸人との関係性」にすり替わってしまい、当初の論点は次第に後景に退いていった。

 結果的に、会社も芸人も明確な責任を取らないまま、話題は「内紛」や「人間関係のもつれ」として消化されつつある。
 本来問われるべきは、「反社会的勢力と芸能界との関係がなぜ生まれたのか」「なぜ防げなかったのか」という構造的な問題だったはずだ。

 情報が感情的・劇場型に消費される中で、私たちがどこに焦点を当てるべきなのか。
 この会見は、その問いを逆に浮かび上がらせたのかもしれない。

よしもと茶番劇

 会見後、待遇や経営方針に不満を持つ芸人たちが次々に声を上げ、吉本興業への批判が一気に噴き出した。おそらく、その背景には派閥的な対立や、経営陣の人事をめぐる思惑もあったのだろう。
 だが、これらは基本的には企業内部の問題であり、いわば「お家騒動」の範疇を出ない話だ。

 今回、社会的に問われるべき核心は、芸人たちが反社会的勢力との接点を持っていたという点、そしてそれに対する企業としての対応と説明責任である。芸能界が長年抱えてきたこの構造的な問題に、正面から向き合うことができるのかどうか。それが経営者に課せられた最も重要な責務のはずだった。

 ところが、記者会見の場で吉本の社長は、芸人への発言について謝罪しつつ、「また一緒にやっていきたい」と涙ながらに語った。和解や関係修復を望む気持ちは理解できるものの、肝心の「反社会的勢力との関係」についての説明や再発防止策への具体的な言及は、ほとんど見られなかった。

 問題が表面化するにつれ、今度は芸人同士の意見や立場の違いが目立ち始め、状況はますます複雑化。かつて強く吉本を批判していた芸人たちの発言も次第にトーンダウンし、論点はますますぼやけていった。

 なぜ記者会見が止められていたのか。なぜ闇営業の実態が黙認されていたのか。その背後に、企業側にも“触れられたくない関係”があった可能性は否定できない。今回問題になった反社会団体が、かつて吉本のスポンサーであったという情報も出てきている。

 それにもかかわらず、今のところ誰も明確な責任を取ろうとはしていない。このまま騒動が収束に向かえば、何事もなかったかのように芸能活動が再開される、ということも想像に難くない。

 笑いとは本来、社会の矛盾や不条理を鋭く突くものでもあるはずだ。だからこそ、今回のような「茶番」に対してこそ、冷静に問い直す視点が必要なのではないか。

 問題を「内輪の騒ぎ」として処理してしまうのではなく、なぜこうした構造が生まれたのか、そして今後どう是正していくのか——。それを曖昧にしたままでは、同じことが繰り返されるだけだろう。

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