犯罪の温床となる巡回販売 ― 法的規制の必要性
地域に対して責任を持たない「巡回販売業者」が、近年ますます悪質化・犯罪化しやすくなっています。廃品回収車、竿竹売り、焼き芋やその他の食品販売など、不特定の地域を移動して商売を行うこれらの業者には、以下のような構造的な問題があります。
- 連絡先が不明確:消費者は業者の身元や連絡先を把握できない場合が多い。
- 顧客との継続的関係がない:常に地域を移動しており、同じ顧客と再会することは稀。
- 行政の監視が困難:営業所を持たないため、自治体が事業者の実態を把握しきれない。
- 無許可営業の蔓延:行政による監督が行き届かず、無許可での営業が横行している。
こうした背景から、恐喝、詐欺、不法投棄、空き巣、窃盗といった犯罪行為が、何十年も前から巡回販売業者の一部によって繰り返されています。
巡回販売業者が犯罪に結びつきやすい背景
高齢者を狙った犯罪の増加
近年では、特に独居の高齢者を狙った詐欺や恐喝が目立つようになりました。高齢化社会の進行に伴い、社会的弱者をターゲットにした悪質な巡回販売業者による犯罪が増加しているのです。これは、振り込め詐欺などと同様の社会背景が影響していると考えられます。
行政と議会の無策
このような巡回販売という業態には、構造的な問題が内在しているにもかかわらず、行政も議会も長年にわたり効果的な対策を講じていません。現状では、これらの業者が野放し状態で活動しているのが実情です。
法的規制の検討を
もはや「巡回販売」という営業形態そのものを見直す時期に来ています。公共の安全を守るためにも、巡回販売業者を法的に規制する枠組みを早急に検討すべきではないでしょうか。
巡回販売と移動販売・訪問販売の違い ― 法的規制の線引きを明確にするために
「巡回販売の全面禁止を求めるのは、高齢者など外出が困難な人々にとって不便ではないか」という意見があります。たしかに一部の移動型販売は、そうした人々の生活を支える重要な役割を果たしています。
しかし、ここで問題にすべきは、「すべての移動型販売」ではなく、犯罪の温床となりやすい「巡回販売」という特定の業態です。以下に、巡回販売と類似の形態とされる「移動販売」や「訪問販売」との違いを整理し、それぞれの社会的リスクの違いを明確にします。
① 移動販売 ― 地域密着型の出張営業
移動販売は、「店舗が移動できる」形態であるものの、販売そのものは特定の場所に一時的にとどまって行うという特徴があります。これは、むしろ「出張販売」に分類されるべき業態です。
- 特定の販売地点(駅前・オフィス街・集落など)に車両型店舗などを設置し、一定時間営業する。
- 自治体の営業許可を受けて、登録された場所で営業している。
- 高齢者や過疎地域の住民にとって、生活支援的な意味合いが強く、公共的価値も高い。
- 営業場所が固定されているため、業者の特定が容易で、行政の監視も届きやすい。
このような背景から、移動販売では、恐喝・詐欺・高額請求など巡回販売に見られるような深刻な被害はほとんど報告されていません。仮に悪質な事例があったとしても、行政への届出があるため、指導や取締りが可能です。
つまり、「移動販売」と「巡回販売」は明確に区別すべきであり、前者を規制対象とする理由は乏しいといえます。
*ここでの「移動販売」とは特定の販売地点・時間を持ち、拡声機による告知を必要としないものを指します。
② 訪問販売 ― 巡回販売と同様のリスク構造
一方、訪問販売は「拡声機による告知」は行わないものの、不特定多数の家庭を直接回って営業を行うという点では、巡回販売と非常に類似しています。
- 特定の地域・顧客に限定されず、広範囲を回る。
- 業者の身元や連絡先が不明確になりやすく、トラブルが発生しても追跡が困難。
- 営業の実態を行政が把握しにくいため、無許可営業や悪質商法が横行しやすい。
実際、訪問販売は過去から何度も社会問題化しており、訪問販売法(現・特定商取引法)による法的規制が整備されています。営業スタイル・構造上の問題点から見ても、巡回販売と訪問販売は極めて近い性質を持っているといえます。
巡回販売とは何か ― 問題の本質
以上を踏まえ、巡回販売を次のように定義できます。
巡回販売とは、「拡声機による告知を行いながら、不特定の地域を移動しつつ商品を販売する営業形態」である。
この営業形態には以下のような重大なリスクがあります:
- 顧客や地域との継続的関係を持たず、責任の所在が曖昧。
- 営業実態を行政が把握できず、無許可営業が横行。
- 拡声機による営業が騒音問題や不安感を引き起こす。
- 恐喝・詐欺・高額請求・不法投棄などの深刻な被害が多発している。
さらに、このような巡回販売の形態は国際的にも極めて特異であり、同様の営業形態は他国ではほとんど見られません。
巡回販売の規制は急務
移動販売や訪問販売と比較しても、巡回販売特有のリスク構造と被害の深刻さは明白です。生活を支える移動販売とは切り分け、「巡回販売」という業態そのものを法的規制の対象とする必要性は極めて高いといえるでしょう。
被害をこれ以上拡大させないためにも、行政・立法機関は早急に対応策を講じるべきです。
巡回販売による被害をなくすために
巡回販売については、「需要があるから成立している」「外出が困難な高齢者にとっては利便性が高い」といった擁護論が、いまだに広く流通しています。
しかし実際に、巡回販売による被害者として多く報告されているのは、まさにその“利便性を求めている”とされる高齢者たちです。彼らは、被害情報や注意喚起に触れる機会が限られており、情報弱者として詐欺や高額請求などの標的になりやすい立場にあります。
「需要があるから問題ない」として巡回販売を長年放置してきた結果、こうした弱者への被害が拡大しているのです。需要の有無ではなく、構造的に悪質な行為が発生しやすい仕組みにこそ、着目すべきです。
したがって、情報弱者を守る観点からも、巡回販売に対する行政の明確な規制が不可欠です。利便性の陰に隠れて見えづらくなっている被害の実態に、社会全体が目を向けるべき時期に来ています。
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