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自炊は違法? – 自炊代行へ差し止め判決

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自炊代行業をめぐる裁判

本の自炊とは?
「本の自炊(じすい)」とは、自分が所有する紙の本をデジタル化する行為を指す日本の俗語。

 Smart Phoneの流行によって、電子書籍に対する関心が高まっている。特に、2010年に発売されたiPadは、電子書籍を身近なものにした。

 しかし、電子書籍の販売はまだまだ一般的でなく、販売されている書籍も限られている。そこで、数年前から、自炊を始める人が急激に増えていった。電子書籍が販売されていないなら、自ら作ってしまえ、というわけだ。

 しかし、この自炊という行為、実際、行おうとすると非常な時間と労力を要する作業で、個人でやるにはあまりに非効率過ぎる。さらに、自炊を始めるためには、機材として裁断機とスキャナーを準備する必要があり、初期投資としてもかなりの出費が強いられる。まともな機材を購入しようとすると10万円前後必要となる。
 そのため、この作業を委託したいという要望は当初からあり、自炊が広がるとともにそれを代行する業者が現れるようになった。

 2012年頃には自炊代行業者が乱立する状況ができていた。
 しかし、この「自炊代行」という行為が知的財産権の侵害に当たるのではないかと今議論が起きている。出版業界や一部の作家が、電子化や自炊代行行為に反対し訴訟を起こしている。

 そして、昨年(2014年10月)、知財高裁で自炊代行業者に賠償命令を下す判決が下りた。

・2012年11月作家、漫画家7名が自炊代行業者に対して行為の差し止めを求めて提訴。
・2014年10月知的財産高等裁判所は原告側(作家ら)の差し止め請求及び損害賠償請求のいずれも認め、代行業者側の控訴は棄却された。

 今回の裁判は作家側の勝訴となった。
 自炊代行は、著作権法第30条において認められている「私的利用を目的とした複製」に当たらないとの判断が下された。
 音楽CDの複製が個人利用の範囲で広く行われている中、なぜ今回のケースでは認められなかったのか。一貫性に欠けるようにも思えるが、今回の裁判では、「利用者」と「複製者」という行為主体が異なること、そして複製者が業として行っている点が重視され、「私的使用の複製」の範囲には含まれないと判断されたようだ。

 この判決は、自炊代行の流行に一定の歯止めをかけるものとなった。

乱立する悪質企業

 今回の裁判は、特定の事業者に対してのみ判断が下されたものだ。そのため、この判決が「自炊」行為そのものを違法としているわけではないことには、注意が必要だ。自炊「代行」全般を違法行為として判断したものかどうかは、まだ議論されているようだ。

 作家や出版社側は、数多く存在する業者に対して個別に差し止め訴訟を起こすことで、自炊代行のすべてを封じ込めようとしているようだが、これは“いたちごっこ”に陥る可能性が高いのではないかと思う。

 確かに、自炊代行業者が乱立する中で、明らかに悪質な著作権法違反を行っていた業者が存在していたのも事実だ。たとえば、以下のような手口が問題視されていた。

 Amazonなどから購入した書籍の郵送先を事業者に指定し、事業者は書籍のデータのみを依頼者に送る。書籍の返却は行わない。
 事業者が以前に自炊してデータ化している書籍について、同じ本の依頼があった場合は、前のデータを流用し、自炊を行わなかった本に関しては、転売する。(Amazonなどから購入した本を直接事業者に送らせているので依頼者は実物を見ていない。そのため、自分の送った本が自炊されたのかどうかは確かめようがない。)

 これらは明らかに「私的使用のための複製」の範囲を逸脱しており、知的財産権の侵害に該当すると言えるだろう。(よくこんな手法を思いついたものだ。)

 また、急激に業者が増加したことで、質の低い業者も多数出現し、利用者からも不満の声が相次いだ。たとえば、「ページが抜けている」「画像の一部が欠けている」「文字が潰れて読めない」「書籍を紛失された」など、SNS上では粗悪な業者に関する苦情が後を絶たなかった。

 このような悪質な業者に対しては、訴訟が起こされるのも当然であり、市場から排除されるべきである。

 だが──あえてここで言いたいのは、
 書籍の電子化そのものは、もはや時代の流れであり、逆行は不可能だということだ。

 今後、「自炊」への需要は増えこそすれ、減ることはないだろう。それは、海外における電子書籍の需要の高さを見れば明らかである。

 たとえば、アメリカではすでに電子書籍の売上が紙の書籍を上回っている。出版業界や作家は、紙の書籍と、自炊を含めた電子書籍が共存できる方法を模索するべき時期に来ている。

 個人が行う「自炊」については、著作権法第30条における「私的使用のための複製」として認められるべきであり、現行法のもとでも特に問題とはされていない。一方で、「自炊代行」については、今後も議論が続くものと見られる。

 それでも──
 出版社がこうした問題に反対の姿勢ばかりを取るのではなく、電子書籍の出版を積極的に進めていくことこそが、はるかに建設的な対応ではないだろうか。

 電子書籍という新たな需要を掘り起こす方が、結果的には出版業界全体の発展につながるはずである。結局、自炊代行を根本的に減らす最も有効な方法は、出版社自身がもっと多くの書籍を電子化して提供することなのではないだろうか。

自炊代行を防ぐ最善の方法

 電子書籍は、制作における追加費用(限界費用)がほとんどゼロである。流通コストも在庫リスクも存在しないため、本来であれば、より廉価に販売することが可能なはずだ。価格の安い電子書籍が増えれば、自炊代行業者に依頼する人も必然的に減っていくはずである。

 なぜなら──

 本を電子化したい人にとって、もし正規の電子書籍が手頃な価格で提供されていれば、手続きに手間のかかる自炊代行を利用するより、電子書籍に買い替える方がはるかに簡単で便利だからだ。市販の電子書籍にはコピー制御が施されており、購入者のアカウントでしか読めないようになっている。そのため、データが流用されるリスクも少ない。

 本をよく購入する人にとって、本の置き場というのは結構深刻な問題だ。自炊を行う人の多くにとって、最大の目的は「保管場所の確保」であって、電子化さえできれば、それが自炊によるものであろうと正規の電子書籍であろうと、どちらでも構わないというのが実情だろう。実際、私自身も本の収納場所に悩んでいて、最近は電子書籍への買い替えを進めている。確かにコストはかさむが、品質に不安のある自炊代行業者に頼むくらいなら、正規の電子書籍を購入する方がはるかに安心できると感じるからだ。
 (もっとも、現在販売されている電子書籍はすべて「使用権」の購入であり、「所有権」が伴わない点には不安もあるが、これはまた別の問題である。)

 現在、日本で販売されている電子書籍の価格は、紙の書籍とほとんど変わらない。さらに、出版数そのものが少ない。このような状況では、電子書籍の利便性がどれほど高くとも、紙から電子への買い替え需要はなかなか喚起されない。

 現状では、たとえばBookOffなどで100円で購入した書籍を自炊代行業者に依頼する方が、結果的に電子書籍を安価に入手できてしまう。これでは、自炊代行を利用する人が増えるのも無理はない。

 結局のところ、自炊代行を根本的に減らすためには、出版社自らが低価格かつ多様な電子書籍を積極的に提供していくしかない。これは出版社自身のビジネス戦略の問題である。

 遅かれ早かれ、書籍の電子化は確実に進行していくだろう。電子化の潮流に逆らうことは、もはや時代錯誤でしかないように思う。

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