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【消費税増税】税とは誰のための制度か ― 直間比率の見直しという欺瞞

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税の直間比率と税収の安定性

 2019年10月、ついに消費税が10%に引き上げられる見通しとなった。消費税増税の議論では、決まって「直間比率の見直し」が話題に上がる。

 「直間比率」とは、税収に占める直接税(所得税や法人税など)と間接税(消費税など)との比率のことを指す。日本では現在、約6対4(直接税6:間接税4)となっており、これを「ヨーロッパ諸国並みの5対5」に近づけるべきだという声が繰り返されている。

 その理由として挙げられるのが、消費税などの間接税は景気に左右されにくく、税収が安定するという点だ。日本のマスメディアでは連日こうした主張が繰り返されている。しかし、実際の国際比較を見てみると、直間比率の構造は単純ではない。

国際比較から見える多様性

 財務省による2015年の調査によれば、主要国の直間比率は以下の通りである。

  • 日本:66:34
  • アメリカ:78:22
  • イギリス:56:44
  • ドイツ:53:47
  • フランス:55:45

 ヨーロッパ諸国はたしかに5対5に近いが、アメリカでは8対2と極端な直接税偏重である。日本はちょうどその中間に位置している。

 では、この直間比率の違いは、実際に税収の安定性にどう影響しているのだろうか?

リーマンショック後の歳入比較

 世界金融危機の影響を受けた2008年〜2009年の歳入データを比較してみよう。
 2009年は、GDP成長率が前年比で、アメリカが-2.5%、イギリスが-4.2%となっている。

  • アメリカ:2008年 4兆5103億ドル → 2009年 4兆868億ドル(約10%減)
  • イギリス:2008年 5685億ポンド → 2009年 5334億ポンド(約6.2%減)

 たしかに、イギリスの方が税収の落ち込みは小さい。他のヨーロッパ諸国もおおむね同様の傾向にあり、間接税比率が高い国ほど、景気後退期でも税収の減少幅が抑えられていると見てよさそうだ。

 このデータを根拠に、「直間比率を見直し、間接税比率を高めることで税収の安定性が増す」という主張には一定の説得力がある。

それでもアメリカはなぜ議論しないのか?

 では、なぜ税収の安定性を確保するために、アメリカでは直間比率の見直しが議論されないのだろうか。

 その理由は明快だ。「税収の安定化」は税制の目的そのものではないからである。

税制による景気調整効果 ― Built-in Stabilizer(自動安定化装置)

 そもそも、税とは何のために存在するのか

 税の社会的役割には、一般に次のような項目が挙げられる。

  • 公的サービスの提供
  • 産業政策の実施
  • 富の再分配
  • 景気の調整

 ここで注目したいのは、「景気の調整」という点だ。

 景気が悪化した際には、税率を下げて民間の消費や投資を促し、景気回復期には税率を上げて過熱を抑制する。このように、税制は景気循環に応じて調整機能を果たすことがある。特に、累進課税制度では、所得が減れば税率も下がり、所得が増えれば税率が上がるため、自動的に景気安定化の効果が発揮される。この仕組みは「自動安定化装置(built-in stabilizer)」と呼ばれている。

 そして、この効果は、税の累進性が強いほど、より有効に機能するとされている。

米英の比較から見える自動調整効果の違い

 では、実際にこの自動安定化装置はどれほど機能しているのか。先に挙げたアメリカとイギリスの例をもとに、GDPに占める税収割合から比較してみよう。

アメリカ(景気と連動して税率が変化)

  • 2008年:30.66%
  • 2009年:28.29%(▲2.37ポイント)
  • 2010年:28.89%
  • 2011年:29.19%
  • 2012年:29.22%
  • 2013年:31.40%(景気回復とともに上昇)

イギリス(税率の変動幅が小さい)

  • 2008年:35.76%
  • 2009年:34.47%(▲1.29ポイント)
  • 2010年:35.53%(早期に回復)
  • 2011年:36.03%
  • 2012年:35.96%
  • 2013年:36.31%(高水準を維持)

 この比較から明らかなのは、アメリカの方が景気の変動に応じて税率が柔軟に変化しているという点である。これに対し、イギリスは不況時でも高い税率を維持しており、調整効果は限定的である。

経済成長率の比較と税制の影響

 この間の両国の経済成長率を見ると、次のようになっている。

  • 2010年:アメリカ +2.6%、イギリス +1.9%
  • 2011年:アメリカ +1.6%、イギリス +1.5%
  • 2012年:アメリカ +2.2%、イギリス +1.5%
  • 2013年:アメリカ +1.8%、イギリス +2.1%(逆転)

 全体として、アメリカの方が不況からの回復過程において高い成長率を維持しており、税制が景気を下支えする役割を果たしていると解釈できる。
 2013年にはアメリカでも税率が上昇し、景気過熱に対する引き締め効果も確認できる。(GDP上昇率の前年比も2013年は、アメリカ1.8%、イギリス2.1%と上昇率が逆転)

 こうした点からも、アメリカが直間比率8対2という直接税中心の税構造を維持しているのは、単に税収の維持ではなく、景気調整機能を重視しているためであると言える。

本質的な問い ― 税制とは誰のためのものか

 ここで改めて確認したい。税の社会的役割のひとつである「景気の調整」という観点から見ると、アメリカの税制の方が効果的に機能している。一方で日本では、「税収の安定化」や「直間比率の見直し」が語られる際、こうした本質的な議論はほとんどなされていない。

 税収の安定化は、政府側の都合にすぎない。それが、税制度の第一目的になるべきではない。税制は、経済の方向性を決め、社会の在り方を規定し、国民の暮らしを左右する基本制度である。だからこそ、制度設計には本質的な視点が不可欠だ。

 にもかかわらず、現在の日本では「ヨーロッパは5対5だから」「税収の安定が必要だから」といった表面的なフレーズだけが繰り返され、本質的な議論が欠如している。

最後に ― 国民一人ひとりが考えるべき時

 来年には再び消費税の引き上げが予定されている。政府の方針をただ受け入れる前に、「税とは何か」「どのような税制が社会にとって望ましいのか」という問いに、私たち一人ひとりが向き合うべきである。

 税は、単なる財源ではない。社会のかたちを決める「設計思想」そのものである。


参考
直間比率の国際比較 – 財務省
アメリカの歳入・歳出の推移 – 世界経済のネタ帳
イギリスの歳入・歳出の推移 – 世界経済のネタ帳

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