改正水道法の可決
2018年12月6日、改正水道法が衆議院本会議で可決・成立した。これにより、地方自治体が保有する水道施設の運営権を、民間企業に売却できる仕組みが法的に整備された。
水道は、国民の生活を支える最も基本的、かつ重要なインフラの一つである。その運営をなぜ今、民間に委ねる必要があるのだろうか。
新自由主義の考えに基づく民営化論が、世界で巻き起こっていた1990年代以降、公共サービスの効率化や財政負担の軽減を目的に、各国でインフラの民営化が進められてきた。しかし2000年代以降、その弊害も明らかになってきた。特に水道事業の民営化では、料金の高騰やサービスの質の低下などの問題が生じ、多くの国や自治体で再び公営に戻す「再公営化」の動きが広がっている。
こうした国際的な流れに逆行するかのように進められた今回の水道民営化だが、実は、これは国民の生活基盤を営利企業へと売り渡す「自由化」のほんの序章でしかない。
今回の水道民営化法案は、PFI法という自治体の保有する公共施設全般の民営化を促進するための法律の枠組みの中で行われた、ほんの一例に過ぎないのだ。
民営化を後押しするPFI法とは
PFI法、正式名称を「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」という。
PFIとは「Private Finance Initiative」の略で、公共施設の建設や運営を民間に委ねる仕組みを指す。要するに、公設民営の手法を制度化したものである。
この法律は1999年に施行されたが、2011年の改正によって「公共施設等運営権(コンセッション方式)」という新たな制度が導入された。これは、施設の所有権は自治体などの公的主体が保持したまま、その運営権のみを民間に譲渡する方式である。運営企業はその間、独占的にサービス提供を行う。
では、この「公共施設等運営権」の対象とは何か。PFI法第2条では、以下のような公共インフラが列挙されている。
- 道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、水道、下水道、工業用水道などのインフラ
- 賃貸住宅、教育・文化施設、医療施設、社会福祉施設、駐車場、地下街などの公益施設
実質的に、ほぼ全ての公共インフラが対象となる。このことからも、今回の水道法改正は、より広範な公共施設の民営化を進める中での一施策であることがわかる。
参考
コンセッション方式 – Wikipedia
将来的には、公共機関が担うさまざまな事業を民間へ売却していこうという政府の意図がはっきりと見て取れる。
「利権ありき」の民営化
水道事業の民営化を含むPFI政策の推進役として、またしても名前が挙がっているのが竹中平蔵氏である。彼は小泉政権以降、日本の規制緩和政策の中心人物として、労働市場や公共政策に大きな影響を与えてきた。
これまでの規制緩和は、競争の促進やコスト削減といった建前が掲げられてきたが、実際には特定企業への利益誘導だけが実現してきた。経済は回復しないまま、非正規雇用の拡大、賃金の低下、労働環境の悪化など、社会にさまざまな影響を及ぼしてきた。その政策的な総括は不十分なまま、同じ人物が引き続き政権中枢に関与し続けている。
そして、世界では急速に揺り戻しと見直しが進んでいる民営化をまさに時代に逆行するかのようにして、推進しているのである。
不透明な政策決定過程
民営化は、巨大な利権となる。国民にとって必要だから、民営化されるのではない。初めからすべてが民営化ありきで議論が進んでいく。それは、自民党が極端な一強体制を敷いているからだ。
厚生労働省が海外事例に関して調査したのはたったの3件。
国会での審議時間はわずか8時間。衆議院の厚生労働委員会にいたっては、なんと審議なし!
そして、6日の強行採決。
初めから、民営化ありきで国会審議が進んでいるのだ。
まともな審議がないため、結局、なぜ民営化が必要なのか、その理由も根拠も全く示されることがなかった。
そして、さっそく利権に群がる連中どもの利益誘導が始まっている。

民営化は本当に合理的か?
民営化の目的としてしばしば挙げられるのが、財政負担の軽減である。実際、自治体によっては経営が困難な事業もあり、その整理は必要だろう。
だが、水道のような国民生活、いや、国民の生命そのものに直結するような事業を安易に民営化することが正しいこととは思えない。
利益追求を前提とする民間企業に公共サービスの根幹を委ねた結果、料金の上昇やサービス低下につながった事例は世界各地で報告されている。
実際、2000年から2016年の間に、少なくとも世界33ヵ国267都市で、水道事業が民営化から再公営化へと移行した。
民営化が失敗する理由は単純である。
民間企業とは、営利活動を行うための組織だからだ。
四半期ごとに決算報告が求められ、株主への利益還元が優先される——公共の利益とのバランスを取ることが構造的に困難なのだ。
日本の経済状況を見ても、企業の内部留保は過去最高を更新し続ける一方で、実質賃金は低下し、個人消費も伸び悩んでいる。これは、企業が利益を社会に還元するとは限らない現実を端的に示している。
水道事業においても同様であり、民間企業が参入したからといって、自発的に住民の利益や水質を最優先するとは限らない。むしろ、コスト削減が優先される中で、安全性や公平性が後回しにされるリスクがある。
民営化の進行と政治の責任
結局のところ、問題の本質は「民営化そのもの」ではなく、「誰の利益のために、どのような手続きが行われているのか」にある。
今の政治は、果たして国民の生活や安全を最優先にしているのか。それとも、特定の企業や経済団体の利益を代弁しているのか。安倍政権と自民党が、一体誰のための政治を行っているのか?
その点について、有権者一人ひとりが冷静に見極め、声を上げることが求められている。
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