拡声機を使った巡回販売は本当に必要か?
住宅街を拡声機で騒がしく回りながら営業を行う廃品回収車や灯油販売車が横行しているのは、一定の需要があるからだとよく言われる。しかし、「需要がある」という理由だけで、地域の静穏な生活環境を犠牲にしてよい理由にはならない。
拡声機を使用した商業行為を規制する際には、「生活環境の保護」と「商業活動の自由」のどちらを優先すべきかが問題となる。こうした権利の衝突においては、社会的により公益性が高いと認められる方が優先されるべきだろう。つまり、商業活動に対し、住民の平穏な生活よりも明確な公益性が認められる場合には、規制は慎重に行うべきだが、そうでなければ制限されるのは当然だ。
では、拡声機による巡回販売に公益性は認められるのだろうか。代表的な業種を取り上げ、その実態と課題を検討する。
① 灯油の巡回販売の場合
拡声機による巡回販売の典型として、灯油販売車がある。重く取り扱いが面倒な灯油を自宅近くまで運んでくれる点では、確かに一定の利便性がある。しかし、拡声機で住宅街を騒がせながら営業する必要があるかといえば、疑問だ。
必要な消費者は、個別に業者へ連絡して配達を依頼することができる。巡回車を「偶然通るのを待つ」という非効率な仕組みに頼ること自体、現代の通信環境下では不合理である。
確かに業者側にとっては個別配達は手間とコストがかかるかもしれないが、新聞配達のように契約制を導入すれば、ルート効率化やコスト低減も可能だ。拡声機を使わなければ成り立たないのは、企業努力の不足に過ぎない。
加えて、エアコンやガスファンヒーターの性能向上により、都市部での灯油利用の必要性自体が低下している。取り扱いに注意が必要な灯油よりも、環境負荷の低さや安全性の面から、消費者は灯油機器から電気やガス機器への切り替えを進めるべきだろう。
② 廃品回収業者の場合
廃品回収車については、全国の消費生活センターに多くの苦情が寄せられている。その中でも特に問題となっているのが「先積み」と呼ばれる手口で、粗大ゴミを積み込んだ後に高額請求を行う詐欺的行為が多発している。
また、回収を依頼していない品物まで勝手に運び出されたり、キャンセルを申し出た際に不当なキャンセル料を請求されるといった、悪質な事例も多数報告されている。中には不法投棄や窃盗、空き巣など、明確な犯罪に関わるケースもある。
都内でも同様の被害が後を絶たず、都の統計によれば、毎年100件以上の相談が寄せられている。しかし、こうした実態がありながら、都は廃品回収車に対する有効な対策を講じていない。
このように、トラックでの巡回販売という形態自体が、業者の特定を困難にし、不正行為を助長している。これは一部の悪質業者の問題ではなく、業態そのものに内在する構造的な問題といえる。
消費者の行動が健全な取引環境をつくる
粗大ゴミの処理は、自治体に依頼するのが最も信頼できる方法だ。どうしても民間業者に依頼する必要がある場合も、拡声機で回ってくる回収車ではなく、自分で信頼できる業者を探し、個別に連絡を取るべきである。
このようにすれば、業者の連絡先や所在も把握でき、詐欺や恐喝、高額請求といった被害を避けることができる。さらに、業者間での健全な競争が促進され、サービスの質や価格面での改善も期待できる。
拡声機による巡回営業は、経済的合理性にも欠け、被害の温床になりやすい形態だ。インターネットやスマートフォンの普及により、連絡手段も多様化している今、こうした旧態依然とした販売方法に依存する理由はもはやない。
③ 焼き芋屋や竿竹屋などのその他の移動販売について
焼き芋屋や竿竹屋も、拡声機を用いた巡回販売の代表的な例である。「い〜しや〜きいも〜」という独特な音声は、ある種の季節風物詩として懐かしさを覚える人もいるかもしれない。竿竹屋にしても、かつては需要が一定あった業態だ。
しかし、ここでも「風情がある」「昔ながらの商売だ」という感情的な理由だけで、地域住民の静穏な生活環境を侵害してよいとはいえない。特に住宅街においては、小さな子どもの昼寝や在宅ワーク中の妨げ、高齢者の安寧な生活への悪影響といった問題が無視できない。
そもそも昔は「地声」で販売していたから風情があったのであって、現在のように録音した音声を拡声機で垂れ流すことに風情などない。
さらに、これらの業種は現在においても、本当に“必要とされている”のかが疑問である。焼き芋であれば、コンビニやスーパーでも簡単に手に入るし、竿竹に至ってはホームセンターやネット通販で必要な時にいつでも購入可能だ。つまり、拡声機を使って不特定多数を相手に呼びかけながら販売する必然性が、ほとんど存在しない。
また、特に竿竹屋については「価格表示のない販売」「高額請求」など、不透明な販売方法がしばしば問題視されており、消費者庁が何度も注意喚起を行っている。
近年では、パン屋、豆腐屋、弁当屋など、さまざまな業者が拡声機を用いた巡回販売を行っている。拡声機を使って注目を集め、衝動買いを促すこの手法は、消費者の利便性や需要に応えるためというよりも、業者側の一方的な利益追求によって始められたものである。こうした一方的な販売手法が、現代の社会において本当に許容されるべきなのか、冷静に見直す必要がある。
巡回販売全体に共通する課題
灯油、廃品回収、焼き芋、竿竹――いずれの巡回販売においても共通しているのは、「拡声機で不特定多数に呼びかけながら販売する」という営業スタイルが、現代の通信手段や購買手段と著しくかけ離れており、合理性を欠いている点である。
このような旧来型の商法が「利便性」や「需要」という曖昧な言葉で野放しにされている限り、騒音・トラブル・不当請求などの被害はなくならない。
たとえ一部の業者に悪意がなかったとしても、その営業形態自体がトラブルの温床になりうる以上、抜本的な見直しが必要だ。行政による規制はもちろん、消費者一人ひとりが、便利さよりも確実さと安心を選び、不要な巡回販売に依存しない購買行動を取ることが、地域の静穏と安全につながっていく。
結論:「拡声機巡回販売」はもはや不要
以上の検討から明らかなように、拡声機を使った巡回販売は、生活環境に悪影響を与える一方で、公益性や経済的合理性にも乏しい。むしろ、それを放置することが、悪質な業者の温床となっている。
規制を強化し、消費者には、静かな暮らしと安全な取引環境を守るための意識と行動が求められている。
一言でいえば、「そんな商売、もう必要ない」ということだ。
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