労働力希少化時代──
少子高齢化が進み、外国人労働者が増加する時代の労働のあり方を問う 第1回
賃金抑制論の真偽:外国人労働者の実態をデータで読む
日本の労働市場はいま、大きな構造変化のただ中にある。少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少するなかで、国内だけでは労働力を賄いきれない状況が常態化した。その空白を埋める存在として急速に存在感を高めているのが外国人労働者である。
厚生労働省の統計によれば、2025年10月時点の外国人労働者数は約257万人と過去最高を更新した。2007年に届け出が義務化されて以降、一貫して増加を続けており、この10年で約3倍増となっている。雇用事業所数も増え、外国人労働はもはや例外的な存在ではなく、日本経済の一部を構成する常態的な労働力となった。
1. 外国人労働者数の増加の統計
直近の推移
| 外国人労働者数 | 外国人雇用事業所数 | |
|---|---|---|
| 2024年10月末時点 | 230万人(前年比12.4%増) | 34万所(前年比7.3%増) |
| 2025年10月末時点 | 257万人(前年比11.7%増) | 37万所(前年比8.5%増) |
(出典: 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ 2026公表 2025公表)
- 2025年10月時点の外国人労働者数は約257万人と過去最高を更新
- 13年連続の過去最高増加となり、2007年の届出制度導入以降、最高の数字
- 現在の規模は、10年前(2014年:約79万人)と比較して約3倍にまで膨れ上がっている
- 外国人労働者は現在、日本の労働力全体の4.1%を占めている。
2. 外国人労働者の賃金水準の特徴
厚生労働省の統計によると、外国人労働者の平均賃金は上昇傾向にあるが、日本人との差は依然として存在する。
外国人労働者の賃金水準(2024年概況)
| 月収(所定内給与)の目安 | 日本人との比較・傾向 | |
| 外国人全体 | 約24.2万円 | 日本人平均(約33.0万円)の約73% |
| 専門的・技術的分野 | 約29.2万円 | 日本人より低水準 |
| 技能実習 | 約18.2万円 | 日本人平均の約55% |
(出典: 厚生労働省 賃金構造基本統計調査 令和6年概況 2025年公表)
- 厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、外国人労働者の平均給与は日本人全体と比較して低めであり、日本人の7割程度、技能実習生の場合はおよそ半額の5割強となる。
- 在留資格別では、低賃金の技能実習制度や特定技能分野の外国人労働者が賃金平均を引き下げる構造的要素になっている。
外国人労働者の増加が日本の賃金に与えている影響について
外国人労働者の増加が、日本の賃金上昇に対して抑制的に作用しているのではないか、という世論の指摘は根強い。
しかし、日本における外国人労働者の比率は就業者全体の4%前後にとどまっており、先進諸外国と比べれば相対的に低い水準にある。この点を踏まえると、外国人労働者の増加が日本の賃金水準全体に及ぼしている影響は、現時点では限定的だと考えられる。
実際、外国人労働者の増加が賃金上昇を直接的に抑制していることを示す明確な統計は存在しない。賃金水準や賃金上昇率は、労働需給、生産性、企業の価格転嫁力、雇用形態の構成など、複数の要因が複雑に絡み合って決まるものであり、外国人労働者の増加だけを単独の因果要因として結論づけることはできない。
もっとも、統計データや既存研究を詳しく見ると、外国人労働者の増加が賃金構造や平均賃金に一定の影響を与えている可能性を示唆する結果は確認されている。全体として賃金上昇を抑え込む決定的な要因になっているとは言えないものの、業種や労働者属性によっては影響の出方に偏りがある。特に、非熟練労働が中心の分野や、女性のパートタイム労働など、賃金水準が相対的に低い層においては、賃金上昇を抑制する方向に作用している可能性が指摘されている。
統計から見る「賃金抑制」の有無
外国人労働者の増加が日本人の賃金を抑制しているのか──この論点については、内閣府や民間シンクタンクの実証分析がいくつか公表されている。主要な研究を整理すると、影響は一様ではなく、「全体では中立または補完的」「一部の分野では抑制的」という二層構造で理解するのが妥当である。
1. 全体的には「中立」または「補完的効果」
外国人労働者が日本の賃金に与える影響についての実証的な分析は、代表的なものとして以下のものがある。
1. 内閣府(令和6年度 経済財政報告 / 経済財政白書)
内閣府は毎年「白書」を発行していますが、2024年度版(令和6年度)では、外国人労働者の賃金について初めて詳細な分析を行っている。
- 資料名: 令和6年度 年次経済財政報告(経済財政白書)
- 分析内容: 日本人と外国人の賃金差(28%の開き)の要因分析。年齢、勤続年数、学歴などの属性を調整してもなお残る「7%の格差」について言及している。(第2章 第1節「労働供給の現状と課題」)
2. 大和総研(DIR)
大和総研は、外国人労働者の増加がマクロ経済(全体の賃金)に与える影響を早い段階から分析している。
- レポート名: 外国人労働者受け入れの賃金・生産性への影響 (2019)
- 分析結果: 外国人労働者比率が1%上昇すると、男性の賃金は0.6%程度押し上げられる一方、女性については影響が見られない、または一部業種で抑制的であるといった「補完関係」と「代替関係」の両面を指摘している。
3. 日本総合研究所(JRI)
日本総研は、現場の視点(中小企業やサービス業)での賃金抑制効果について分析を行っている。
- レポート名: 外国人雇用の増加による賃金への影響(JRIレビュー) (2019)
- 分析結果: 外国人労働者の増加が労働需給面で▲0.2%程度、賃金を抑制している可能性を指摘。特に「宿泊・飲食サービス業」や「中小企業」において、低賃金労働力への依存が全体の平均賃金を押し下げる要因になっていると論じている。
総合的結論
これら主要調査の結果を総合的に見ると、外国人労働者と日本人労働者は、「競合(代替)」関係ではなく、役割分業による補完関係にある可能性を示唆する。すなわち、外国人が補助的・定型的業務を担うことで、日本人が管理職や専門職など付加価値の高い職務へシフトし、生産性と賃金が上昇するというメカニズムである。
マクロレベルでは、外国人労働者増加が日本人賃金を大きく押し下げる統計的証拠は確認されていないと整理されている。
結論として、全国平均レベルでは「賃金抑制の明確な証拠はない」か、むしろ補完効果が観察される。
2. 単純労働・サービス業では「抑制的影響」
一方で、産業別・属性別に分解すると結果は異なる。
(1)宿泊・飲食サービス業
内閣府(2024年分析)では、宿泊・飲食サービス業において、
- 日本人女性
- 若年層アルバイト
- 外国人留学生
の間に代替関係(入れ替え可能性)が存在する可能性が示されている。
この分野では外国人労働供給の増加が賃金上昇率を鈍化させたとの推計があり、特定の労働市場セグメントでは抑制効果が観察されると結論づけている。
(2)単純作業・製造業(技能実習分野)
技能実習生が多く従事する製造業や建設業では、外国人労働者が低賃金帯で供給されることで、
- 人手不足でも賃金を大幅に引き上げずに済む
- 省力化投資や自動化のインセンティブが弱まる
という可能性が指摘されている。
日本総合研究所の分析では、製造業の一部で日本人低技能層の賃金に弱い下押し効果が確認されている。ただし影響幅は限定的であり、マクロ全体を押し下げるほどではない。
統計的整理
研究結果を総合すると、以下のように整理できる。
| 全国平均 | 中立〜やや押し上げ効果 |
| 男性正社員 | 補完効果が確認される |
| 女性・非正規層 | 業種により抑制的影響あり |
| 宿泊・飲食 | 代替関係による賃金抑制の可能性 |
| 製造業の一部 | 低技能層に限定的な下押し |
補足:マクロ影響が限定的な理由
2025年時点で外国人労働者は就業者全体の約4.1%にとどまっている。
この比率の低さが、マクロ全体での賃金押し下げ効果を限定的にしている主因と考えられる。
今後、外国人労働者が全体に占める割合が先進諸外国並みに増加していけば、マクロ経済への影響も顕著になっていくと考えられる。
結論
統計的根拠に基づけば、
- 外国人労働者の増加が日本全体の賃金を抑制している明確な証拠はない。
- むしろ一部では補完関係による賃金押し上げ効果が確認される。
- ただし、宿泊・飲食や低技能労働など、特定の分野では抑制的に作用している可能性がある。
したがって、「外国人労働者が賃金を下げている」という一般化は統計的には支持されない。もっとも、労働市場を業種や技能水準などのセグメントごとに分けて分析すれば、一定の影響が確認される分野もある。これが、現時点での統計から読み取れる結論だと言える。
外国人労働者は過去20年間で急速に増加した。仮にこの増加率が今後も継続すれば、将来的には労働供給の拡大を通じて賃金に下方圧力がかかる可能性は否定できない。
しかし、現時点で確認されている影響は限定的である。賃金の伸び悩みを直ちに外国人労働者の増加に帰するのは適切ではない。
むしろ問題の本質は、30年以上にわたり改善が進んでこなかった日本の労働生産性の低さにある。賃金は中長期的には労働生産性に規定されるため、生産性が伸びなければ持続的な賃金上昇も期待できない。
次回は、日本の労働生産性を低位にとどめている政府介入と労働市場の開放の是非を検討していく。
参考
Foreign Workers in Japan Hit Record High, Accounting for 4.1% of Total Workforce – MerxWire
日本総合研究所(JRI) 外国人雇用の増加による賃金への影響
大和総研(DIR) 外国人労働者受け入れの賃金・生産性への影響



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