社会保障格差を考える──
国の一元管理へ向けて(全4回)第2回
第1回 第3回 第4回
日本の社会保障格差 ― 統計データで見る現状
1. 非正規雇用者の割合
総務省の「労働力調査(2024年平均)」によると、役員を除く雇用者全体の約37%が非正規雇用。これは雇用者のほぼ4割に相当し、長期的に高位で推移している。性別で見ると、男性の非正規率は約2割であるのに対し、女性は約5割強と、依然として大きな差がある。
| 項目 | 雇用者数 | 割合 |
| 正規雇用(正社員) | 3,654万人 | 63.2% |
| 非正規雇用 | 2,126万人 | 36.8% |
| 合計(役員除く) | 5,780万人 | 100.0% |
2. 正社員と非正規の平均月収の差
厚生労働省の「令和6年(2024年)賃金構造基本統計調査」によると、雇用形態別の平均月収(所定内給与額)は、非正規雇用者の月収は正社員の約67%にとどまっており、金額ベースでは月々約11万5,500円の開きがある。
| 雇用形態 | 平均月収(千円) | 正社員を100とした指数 |
| 正社員・正職員 | 348.6千円 | 100.0 |
| 正社員・正職員以外 | 233.1千円 | 66.9 |
| 賃金差(格差) | 115.5千円 | – |
3. 年収ベースの比較(賞与を含む)
月収だけでなく賞与(ボーナス)を含めると、差は顕著になりる。正社員の年収には平均で給与の2〜4ヶ月分の賞与が含まれることが多い一方、非正規雇用(特にパート・アルバイト)では賞与が「なし」または「数万円の寸志」にとどまるケースが多いく、その差は300万円以上に広がる。
- 正社員(平均):約530万円〜650万円
- 非正規(平均):約200万円〜300万円
正規・非正規間の格差
- 正規・非正規の差は、「働いた実質内容」に基づくものではなく、「雇用形態」に基づくもの
- これらの統計は、同一労働同一賃金の原則が全く浸透していないことを示している
- 正規・非正規間の異動はなく、流動性に欠け、企業内で実質的に身分化している
これらの統計は、正規雇用と非正規雇用の間に大きな所得格差が存在し、その結果として収入水準と生活の安定性に基づく実質的な階層分化が進行していることを示している。さらに、この所得格差は賃金水準にとどまらず、社会保険の加入状況や将来の年金受給額にも影響を及ぼし、社会保障の水準においても格差として再生産されている。
福利厚生・社会保険の「見えない年収」差
年収差を考える際、額面の給与だけでなく、「社会保険の会社負担」「退職金」「福利厚生費」を含めると、実質的な待遇差はさらに拡大する。
企業のコスト(法定福利費・法定外福利費)を含めた、実質的な待遇差の主な内訳は以下の通り。
社会保険の会社負担(法定福利費)
正社員は原則として社会保険(健康保険・厚生年金)に加入し、企業が給与の約15%を負担している。
- 正社員: 会社が年間約80万円〜100万円程度を肩代わりして積み立てている計算。
- 非正規: 週の労働時間等の条件を満たさない場合、全額自己負担の国民年金・国民健康保険となり、企業の負担は「ゼロ」になる。
退職金・企業年金
企業が行っている退職金積立は、生涯賃金に大きな格差をもたらす要因となっている。
- 正社員: 約7割の企業が導入。大卒正社員の定年退職金の平均は約1,000万〜2,000万円。
- 非正規: 導入している企業は1割未満。生涯賃金で換算すると、ここでさらに数千万円の差がつく。
法定外福利費(家賃補助・家族手当など)
日本経団連の調査(2023年)によると、企業が正社員1人あたりに支出する法定外福利費は平均月額約2.5万円。
住宅手当、家族手当、慶弔見舞金などは、依然として「正社員のみ」を対象としている企業がほとんどという状態にある。
総コスト(企業負担額)の比較イメージ
給与にこれら全ての諸経費を加算した「企業がその人のために支払う総額」を比較すると、以下のようになる。
| 項目 | 正社員(イメージ) | 非正規(イメージ) |
| 年間給与(額面) | 550万円 | 220万円 |
| 社会保険料会社負担 | +82万円 | +0〜33万円 |
| 福利厚生・退職金積立 | +50万円 | ほぼ0円 |
| 実質的な年間コスト | 約682万円 | 約220〜253万円 |
年金受給額の格差
正規社員と非正規雇用者の年金受給額の格差は、「加入する年金制度の違い」と「現役時代の収入差」の2点によって非常に大きなものとなる。
厚生労働省の最新統計(令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況)を基に、その格差をいかに示す。
1. 平均受給額(月額)の比較
日本の年金制度は「2階建て」であり、正社員は1階部分(国民年金)に加え2階部分(厚生年金)を受け取るが、非正規雇用で厚生年金の加入条件を満たさない場合は1階部分のみとなる。
| 区分 | 主な対象者 | 平均受給月額 | 備考 |
| 厚生年金(第1種) | 主に正社員 | 約14.6万円 | 男性平均は約16.2万円、女性は約10.5万円 |
| 国民年金(基礎年金) | 非正規・自営業など | 約5.6万円 | 全額納付した場合の満額は約6.8万円(令和6年度) |
| 格差(月額) | – | 約9.0万円 | – |
2. 生涯受給額の格差シミュレーション
65歳から85歳までの20年間、年金を受給したと仮定した場合の生涯受給額の差は以下の通り。
- 正社員(厚生年金):14.6万円 × 12ヶ月 × 20年 = 約3,504万円
- 非正規(国民年金):5.6万円 × 12ヶ月 × 20年 = 約1,344万円
- 格差(生涯):約2,160万円
現役時代の働き方の違いが、老後の受取額において2,000万円以上の差として現れる。
3. なぜこれほどの差が出るのか?(統計的背景)
この格差を生む要因は主に3つある。
- 報酬比例部分の有無
厚生年金は現役時代の「給与額」と「加入期間」に比例して受給額が決まる。正社員と非正規では月収に約11.5万円の差があるため、それがそのまま将来の年金額に反映される。 - 企業の保険料負担
厚生年金の保険料(給与の18.3%)は労使折半であり、企業が半分を負担している。正社員はこの「企業負担分」の恩恵を受けられますが、国民年金のみの非正規雇用者は全額自己負担(月額約1.7万円)となり、将来の受給額も増えない。 - 加入期間の安定性
正社員は定年まで継続して加入する傾向が強い一方、非正規雇用者は雇用の中断や未加入期間が生じやすく、受給資格期間や平均標準報酬額が低くなりやすい傾向がある。
年金格差 – まとめ
統計データから見ると、正社員と非正規雇用者の間には月額で約9万円、生涯で約2,000万円超の年金受給格差が存在します。
ただし、近年は「社会保険の適用拡大」により、パート・アルバイトでも週20時間以上勤務などの条件を満たせば厚生年金に加入できるようになっている。これにより、非正規雇用であっても厚生年金に加入している層は、国民年金のみの層よりも受給額が多くなる。
- 非正規雇用者の場合、国民年金(基礎年金)のみの受給額では月6万9000円程度にとどまる一方、厚生年金に加入していた正規労働者では厚生年金の上乗せ分が加わり、受給額は大きく異なる。
- 具体例として、平均的な非正規労働者が厚生年金にも加入していた場合でも、国民年金との合計は月11万1000円程度と試算され、必要生活費(65歳以上の単身世帯で月15万8000円程度)を大きく下回るという分析もある。
- また、キャリア形成や雇用期間の長さによっては、正規雇用者と比べて年金受給総額が大きく乖離するシミュレーション結果も報じられている。
こうした統計的事実は、単なる賃金差だけでなく、生涯所得・老後の生活基盤の差として非正規格差が累積する実態を裏付けている。
諸外国との制度比較 ― 北欧/フランス等の制度設計
日本の社会保障制度は他先進国と比べると、企業・雇用形態依存の色が強いと言われる。
北欧モデル(例:フィンランド等)
北欧諸国の社会保障制度は、個々の雇用形態にかかわらず、包括的な社会保険・社会サービスが保障される傾向が特徴である。たとえばフィンランドなどでは国が主導して社会保険・医療・失業保険・年金等の包括的保障を構築し、被保険者の広いカバレッジを目指す仕組みが基本とされている。
北欧モデルは、雇用形態の違いによる保障格差を抑えるために、税財源主導の再分配機能や最低所得保証・高水準の社会サービスを充実させている点が大きな特徴であり、社会保障を**「生活全般の安全網」として普遍的に提供する設計**となっている。
フランス等の大陸型
フランスでは医療保険・失業保険・年金などの社会保障は、法的にほぼ全雇用者が強制的にカバーされる仕組みを有するとともに、基金や体制の統一化を図っている。医療保険では、雇用形態にかかわらず広範なカバレッジと家族保障が整備されている例もある。
このように、欧州の多くの国々では、日本に見られる雇用・企業依存型の社会保障から脱却し、国民全体を包括的に保障する制度設計が進んでいる。
制度的視座 ― 世界的基準とベーシック・ソーシャルインシュランス
国際機関の視点
OECD等の社会保障分析では、社会保障は単なる給付機能ではなく、貧困や脆弱性を低減し、生活全体のリスクを包括するシステムとして設計されるべきと位置づけられている。OECDの報告では、社会保護制度は生活周期全体をカバーし、リスクプロファイルに応じた十分な給付と公平なカバレッジが必要であるとされる。
ベーシック・ソーシャルインシュランス(基本的社会保障)の考え方
これまでの社会保険は、特定の被保険状態(雇用・加入資格)に依存して給付が決まる形式が多いが、基本的社会保障の議論(ユニバーサルベーシックインカムを含む議論を含めて)は、すべての住民に普遍的・最低限の所得保障を提供するという方向性を模索する考え方を指す。
ユニバーサル・ベーシックインカムの議論では、所得や就業状態に関係なくすべての者に現金を給付することで、従来制度が抱える加入条件の壁や格差をなくす方向性が検討されている。これは、非正規や不安定就労者が制度から漏れ落ちる問題を根本から解消する可能性を持つ仕組みとして、国際的な議論でも注目されている。
日本の制度改革の方向性 ― 格差是正に向けた政策論
1. 社会保険の加入条件見直し
現在、厚生年金・健康保険・雇用保険の加入要件は労働時間・雇用期間ベースで分断されており、短時間労働者の保障欠如を生む原因となっている。この点について、OECDやILO等の国際機関も「すべての労働者に公平・包摂的に保障を提供すること」を推奨しており、加入条件の緩和や最低保障の普遍化が政策課題となっている。
2. 国庫負担・税財源による最低所得保証の強化
北欧諸国や他欧州モデルでは、税を財源とした普遍的な社会保障(最低所得保証・医療保障等)が存在し、低所得者・非正規者を制度の外に出さない仕組みがある。日本でも、国庫負担の拡大や現物給付の充実によって、労働形態を問わない最低保証を進めることが検討され得る。
3. 基本社会保障の再設計
基本的社会保障(Universal Social Protection Floor)の考え方では、全ての国民が生活の主要リスクに対して最低限の保障を得られることを目標とする。このアプローチは、雇用形態に依存しない制度設計に向けた方向性として評価され、非正規格差是正の有力な枠組みとして議論され得る(ILO・国連等の推奨)。
結論 ― 社会保障格差への構造的処方
- 日本では雇用形態や就労時間の違いが社会保障へのアクセスの格差を生む構造的要因となっている。統計的にも非正規労働者の割合が増加し、収入・年金受給額の差が生じている。
- 諸外国の制度と比較すると、社会保障が包括的・普遍的に機能している国では、格差を是正する設計が進んでおり、日本の依存型制度とは一線を画す。
- そのため、加入条件の見直し・税財源による最低保障の強化・普遍的な制度設計という観点からの改革が、格差是正の鍵となる。



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