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【外国人労働者受け入れ拡大】改正入管法によって変わる日本の移民政策

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入管法改正が意味する「移民政策」への転換

■ 入管法改正案の成立とその内容

 2018年12月8日、改正出入国管理法(入管法)が成立し、2019年4月1日から施行されることとなった。この法改正により、日本は事実上の「移民政策」へと大きな転換点を迎えることになる。

 従来、日本は原則として単純労働分野での外国人就労を認めてこなかった。しかし、深刻な人手不足を背景に、今回の改正では新たな在留資格を創設し、建設、介護、農業など14の業種で外国人による単純労働の受け入れを制度化した。

 新たに導入された在留資格は以下の2種類である。

  • 特定技能1号
     日常会話レベルの日本語能力と、業務に必要な一定の知識・技能を条件とし、最長5年間の就労が可能。ただし、家族の帯同は認められない。
  • 特定技能2号
     熟練した技能を有することを条件に、在留期限の更新が可能で、家族の帯同も認められる。将来的には永住申請も視野に入る。

 政府は、この制度によって初年度に約5万人、5年間で最大35万人の外国人労働者の受け入れを目指すとしている。

■ 事実上の移民政策への布石

 この法改正には、外国人を一時的な労働力としてだけでなく、一定の条件を満たせば長期的に日本社会に定住させることを視野に入れた制度設計がなされている。特定技能2号に移行すれば、家族の帯同や永住申請も可能となり、実質的には移民政策の枠組みに近い。

 すなわち、本制度は「非移民」との名目で導入されてはいるが、実態としては移民への道を制度的に開くものであり、日本が移民社会へと移行する大きな契機となる。

■ なぜ「移民政策ではない」と言い張るのか

 しかし、政府与党や安倍首相は、この改正法を「移民政策ではない」と繰り返し強調している。その背景には、依然として「移民」という言葉に対する国民の強いアレルギーがあると考えられる。用語上は「特定技能制度」という曖昧な表現が用いられているが、実態との乖離は否めない。

■ すでに「移民社会」であるという現実

 とはいえ、現実の日本はすでに外国人労働者なしには社会が回らなくなっている。2017年末時点で、外国人労働者の数は約128万人に達しており、日常のさまざまな場面でその姿を目にするようになった。

 その多くは、技能実習制度などを通じて実質的に単純労働に従事しており、中には制度の趣旨を逸脱した脱法的な受け入れも存在する。いわゆる「隠れ移民」として、既存の制度の枠外で外国人労働力が活用されるという矛盾した実態が常態化してきた。

■ 法制度の整備による「見える化」の意味

 今回の法改正は、こうした非制度的・不透明な「隠れ移民」状態を是正し、法の下に外国人労働者の受け入れを可視化しようとする試みとも言える。その意味では、遅ればせながらも日本が移民社会としての現実を正面から受け止め、制度的に対応しようとする第一歩である。

技能実習制度の限界と入管法改正の意義

■ 深刻化する技能実習制度の問題

 技能実習制度をめぐる問題は、長年にわたり社会問題として指摘されてきた。在留資格「技能実習生」や「留学生」を利用し、実際には単純労働に従事させる事業者が後を絶たない。その結果、不法就労者数は年々増加し、制度の形骸化が進んでいた。

 背景には、単純労働者を合法的に受け入れる制度が長らく整備されてこなかったという事情がある。人手不足が深刻な業種では、法の不備を突くかたちで違法・脱法的な受け入れが横行していた。

 こうした実習生たちは、正規労働者としての地位を持たず、労働法による保護や行政的な支援を受けられない。その結果、劣悪な労働環境や不当な処遇が多発している。時には、労働基準法の違反を超えて、人権侵害と呼ぶべき行為すら散見される。

■ 現場で起きている実態

 技能実習生が直面している典型的な問題として、以下のような事例が報告されている:

  • ブローカーによる斡旋(裏社会との関係が深く、多額の借金を負わせて来日させる)
  • パスポートや通帳の没収(逃亡防止策として)
  • 最低賃金以下の賃金、長時間労働、賃金未払い
  • 外出や外部との連絡の制限(行政やNGOなどの支援組織に相談するのを防止するため)
  • 労働者間の集会禁止(連帯の形成を阻止)

 これらは「実習」とは名ばかりで、実態としては強制労働、さらには人身売買に近い構造であると指摘されている。実際、国連からも日本は1980年代から一貫して人身売買に関して批判を受けている。

 国際研修協力機構の調査によれば、2016年度の技能実習生の平均月収は13万6千円程度とされ、長時間労働が常態化していることから、実質的な時間給は最低賃金を下回っている。法務省の統計でも、年間200件を超える不正行為が報告されており、これは氷山の一角に過ぎないと見られている。

■ 制度逸脱の帰結としての「失踪」

 制度の不備と現場での搾取の結果として、実習生の失踪が相次いでいる。過去5年間で約2万6000人が失踪し、その後は正規の在留資格もなくなり、裏社会との関係に巻き込まれていくケースも多い。これは、実習制度を悪用する雇用者が、結果的に犯罪温床を生み出していることを意味する。

■ 入管法改正の意義と課題

 今回の入管法改正は、こうした実態に対する制度的な是正を目的の一つとしている。新たに創設された「特定技能」制度は、外国人に対して明確な在留資格と法的保護を与える点で、これまでの実習制度とは根本的に異なる。

 特定技能での雇用にあたっては、日本人と同等の報酬水準を保証することが明記されており、制度が適切に運用されれば、外国人労働者の待遇は大幅に改善される見通しだ。また、行政の監督下で就労が認められることにより、搾取や違法行為の温床となっていた実習制度の問題も徐々に是正される可能性がある。

 ただし、制度が形骸化しないためには、政府および監督機関による厳格な監視体制と、事業者への継続的な指導・制裁が不可欠である。実効性ある運用と、現場レベルでの監視強化が今後の鍵を握る。

「移民社会」への現実的な対応を

■ 労働力だけ求め、移民は拒むという矛盾

 「労働力は欲しいが移民はいらない」といった姿勢は、もはや通用しない。外国人労働者は、必要な時期にだけ低賃金で働き、不要になれば帰国するような、使い捨ての存在ではない。彼らは権利を持つ個人であり、人間である。

 少子高齢化が進行する中で、日本の経済と社会を維持・発展させるには、外国人労働者の力が不可欠だというのであれば、彼らに対して正当な待遇と権利を保障するのは、当然の責務である。日本において長年にわたり働き、貢献してきた外国人に対しては、日本人と同等の待遇と権利を認め、一定の期間を経た後には、希望者に対しては、永住権付与や帰化の道を開くべきである。

■ 「移民政策なき受け入れ拡大」は制度の破綻を招く

 外国人労働者の受け入れを拡大するということは、それ自体が日本社会を移民社会へと転換させていくプロセスである。この現実を直視せず、制度設計を伴わないまま労働者だけを呼び込むことは、制度の持続可能性を損ね、深刻な社会的摩擦を生む原因となる。

 すでに述べたように、適切な法的・制度的枠組みがなければ、外国人労働者は非合法の状態に陥りやすくなり、失踪や不法就労の温床となる。彼らを適切に管理・保護するためには、就労開始時の条件整備に加えて、将来的な定住・帰国をめぐる制度も併せて整える必要がある。

 つまり、外国人労働者を「一時的な労働力」ではなく、「日本社会の一員」として位置づけていく覚悟が求められる。これを怠れば、いずれは労働者との間に不満や対立が生じ、欧米諸国が経験してきたような移民問題が日本でも顕在化するだろう。

■ 入管法改正は「移民社会化」の既成事実を追認したもの

 今回の入管法改正は、単に外国人労働者の受け入れ枠を広げたという以上に、すでに始まっている「移民社会化」の現実を、法制度として追認したものである。制度のないまま進行していた外国人労働の現場に対し、ようやく法的な管理と保護の枠組みが整えられたとも言える。

 したがって、この法改正は、新たな政策というより、既存の現実に制度がようやく追いついたという側面が強い。

■ 今求められるのは、国民の理解と受け入れ姿勢

 もちろん、外国人労働者をどの程度受け入れ、移民をどの範囲で認めるかについては、今後の議論を要する。特に単純労働だけを目的とした移民の拡大は、ヨーロッパ諸国の事例を見るまでもなく、経済的混乱と社会的軋轢を増やすだけで、慎重にならなくてはならない

 だが、すでに労働者の受け入れと移民社会への転換は現実に進行しており、今回の法改正はその流れを明文化・制度化したにすぎない。

 こうした社会の変化は、一時的なものではなく、今後もより進んでいくものと思われる。日本が国としてこの現実を受け入れ、移民受け入れ国としての責任を果たす必要がある。同時に、日本社会の一員として外国人を受け入れていくという、国民の側の理解と成熟した姿勢もまた問われている。

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